チャプター16.ハッピーエンド至上主義
シアウの作戦を共有しながら、おら達はオフィス街へと辿り着く。
まだ街の復旧も間に合っていないのか、崩れた建物を直している様子がちらほら見える。
「あの野郎、またここで暴れるんか」
「イエス!Dr.は雇用されてた会社ごと、ボクの父さんやこの街を恨んでマシタカラ!」
「撮影のセットや見栄えの観点もあるわ、主人公の成長を魅せる為に、あえておんなじ場所で戦わせたりね」
「……映画の外も中も事情があんだなぁ」
シアウは小さな板を弄り終えると、おらとフーディと目を合わせる。
「作戦はさっき話した通り、質問はなにかあるかしら?ここ大丈夫かって所でも」
「んーにゃ!今回は大丈夫だ!」
「ソウデスネ!疑問の打ち合わせもバッチリ済んでマス!」
「なら良かった……お願いね、美桜、フーディ」
「んだ!」「understand!」
おら達はニッと笑って返事をすると、建物に外付けされていた時計で時間を確認する。
場所よし、時間よし。
地面が揺れはじめる、いよいよお出ましだ。
「おめえもあんま無茶すんなよ、しあう」
「うん、でもなるべく頑張ってみる、ありがと」
地面を突き破り、十本の虫の脚が先に現れる。
そしてその足に遅れて、その本体がゆらりと割れた地面から顔を出す。
「時間ピッタリデスネ」
『お前達は本当に奇妙だ、常に私の行動を見透かした様な動き』
ぼろぼろの白衣にガスマスクとか言う仮面。
シアウが予想していた時間ぴったりに、ゲソマミレは現れる。
「何度も観てるからね、アナタは街とヒーローが立ち上がる前に、間髪いれにず止めを刺すのが最適解だと此処に現れる」
『ふむ、予想と言うわけでも無さそうだ』
とりあえずコイツを速攻で押さえ込まないと。
おらは鉄扇を引き抜き、フーディは構えをとり、シアウを背後へ下げる。
「とんあえずおめえをとっちめる!大人しくお縄につきな!!」
『まあ慌てるな』
「時間がねえんだ!問答無用……」
出来ればカロースの姿が見える前に、と行きたかったのだが。
ゲソマミレは虫の脚を地面へと突っ込み、そこから何かを引き摺り出した。
「姿が見えないと思ったらそう言う事ね」
『その反応、これは予想外だったらしいな』
人が入りそうな大きさの透明な入れ物。
その中に緑の液体が目一杯にいれられており、中には人影が見えた。
「oh My god……なんでも利用する方だとはわかってマシタケド、此処まで来ると呆れマスネ!」
……翼の生えた少年、カロースだ。
意識を失っているのかと思いきや、ビネガーは絡みついたままだ。
『急拵えだから制御は効かないが、お前たちを始末したら処理してしまえばいい』
ゲソマミレが入れ物が地面に叩きつけられると、パリンと音をたてて粉々になる。
【……誰も、僕を】
カロースは地面に一回倒れた後に、ゆっくりと立ち上がる。
本来の最終決戦の途中で乱入してくる可能性は考えていたが、こうも早く姿を現すどころか、利用されているとは。
「美桜、フーディ、カロースが乱入してきた時のプランに変更をお願い!」
「んだぁ!」
「最悪のパターンデスケド、泣き言を言ってられないのがビジネスマン!」
ゲソマミレはカロースにおら達を処理させるつもりなのか、そのまま逃げようとするのだが。
『二人がかりで対処しないとどうにもならないだろう?私は高見の見物でも』
「──逃がさないッ!!」
フーディが素早く飛び込み、ゲソマミレに蹴りを放つ。
もろに食らったゲソマミレは、シアウの作戦で予定した方向へと吹っ飛びながら、空中で体勢を立て直す。
『正気か?』
「of course!いい加減、現場に降りて仕事して貰わないとなので!!」
フーディは間髪入れずにビル群を跳ね回り蹴りを繰り出し続けながら、ゲソマミレを誘導していく。
やっぱ仕事が早いな、あいつ。
【貴女、は】
「久々じゃねえか羽っこ」
おらも仕事をこなさねえとな、と目の前のカロースを見据える。
真っ白だったはずの翼はもう半分以上が黒く染まっている。
「随分と汚れちまってるな、背中の羽」
【何故、認めない】
この前戦った時よりも会話も通じないビネガーによる影響なのか、それとも。
「随分と寝ぼけた感じだな、げそまみれのせいか?」
【僕を、何故、誰も】
突然にカロースはおらに向けて突っ込んで来て、拳を振るう。
速い、能力がなくても圧倒的な身体能力だ、だけど。
「──空っ風!!」
明らかに、"この前より鈍い"。
動きだって戦って一度見た。
自分の身体に風を纏わせて、拳をふわりと受け流す。
そのままカロースの腕を掴み取り、勢いを利用して。
「こりゃあ都合がええけどよ」
思いっきり投げ飛ばす、自分の力が上乗せされて、凄まじい速度で飛んでいった。
【──ッ!!】
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ビネガーの性質を把握して、私達を倒す為に利用するなんてね、まあキャラクター設定的にはやるかぁ……」
自転車を片手に私は二人を見送る。
作戦通り、美桜とフーディはそれぞれの相手を指定された番地へと誘導してくれていた。
一番地と三番地、街の復旧が間に合わず、一時的に立ち入り禁止になっているエリアだ。
「状況は最悪、でもやるしかないわ」
美桜とフーディは善人だ。
周りに被害を被るとなれば全力のスペックは出せない。
あそこなら思いっきり暴れられるはず。
対戦の組み合わせも、あれでいい。
「ビネガーに感染した物語が破綻すれば、映画とフィルム消え去ってしまう」
フーディはゲソマミレ相手に負けることはない。
でも美桜はカロースには恐らく敵わない。
……いや、カロースには誰も敵わない。
「〈Samurai wonder〉の時に美桜は主人公の位置に居た、なのにフィルムは消えてなかった」
結論は変わらない、必要なのはこの映画の主人公の覚醒だ。
今回は美桜たちにもそれを説明した。
この世界は"未熟だったリディが一人前のヒーローになるまで"の物語だと。
「……"同じ意味を持つ終幕"に辿り着く可能性が消えてなかったから」
父親の死、と言うトリガーは消えた。
でもこの世界はまだ消えていない。
破綻したと、まだ見做されていない。
「だとすれば、この映画もまだ」
考えていた私の目の前にテレビ局の車が止まる。
さっきスマホで連絡を入れていたからだ。
「テレビ局の方ですか?」
『ああ!君かい、ヴィランの襲撃があったって連絡をくれたのは?』
この映画のモブのテレビクルーはいつも迅速にヴィランの報道をしている。
アメコミ一治安のいい街の異名は伊達じゃない。
「はい!さっきまで此処にいたんですが、今は三番地と一番地に、ヴィランとそれに操られてしまったヒーローがいます!」
『二手に別れなきゃいけないか、片方は後回しにするしかないか、ありがとう!キミは安全な場所へ!って、何を!?』
クルーが少なくて手が足りないと言うコメディシーンもあった。
人手が少ないのは想定通りだ、テレビ局の車に勝手に乗り込み、一番小型のカメラを一台持ち出す。
「コレ重ッ!?」
それを自転車の籠に何とか積み込むと、クルーがそれを取り返そうと掴みかかってくる。
「時間が無いので私が一番地の方へ行きます!」
『何を馬鹿な事を言ってるんだ!返しなさい!』
「お願いします、行かせてくださいッ!!」
すぐ逃げるつもりだったが、思ったよりカメラが重くてもたついてしまった。
美味い言い訳が思いつかない、なんて言えば……!
都合のいい嘘を探す。
どうしたら、どうしたらいい。
そんな私の頭に真っ直ぐなあの子の ──
《聞かせてくれな、しあう》
── 美桜の言葉が脳裏に響いた。
「お願いします、どうしても……この映画を助けたいんです、言葉を伝えなきゃいけない人がいるんですッッ……!!」
『……』
いつのまにかその言葉は出ていた。
我ながら意味のわからない事を口走ってしまったと思った。
『此処を押せば中継出来る』
クルーがボタンの説明を淡々と始める。
引き留めていた手は離されていて、そのまま車へと戻っていく。
「あ、あの……」
『報道で出た利益はうちのテレビ局の物にするからね、壊さないでくれよ』
その言葉を聞くと、私は頭を何度も下げてから、自転車に飛び乗った。
「あ、ありがとうございますっ!壊さない様にしますカメラ!!」
『身体の方だよ!!ったく……さて三番地の方へ急がないとな!』
そして美桜とカロースのいる一番地の方へと全速力で自転車を漕ぎ始める。
上手くいくかなんてわからない、希望を乗せた甘い作戦かも知れない。
「私だって」
それでもこのまま終わらせたくなんてない。
美桜たちが信じてくれた、私を。
「ハッピーエンドの方が好きだからッ……!!」




