チャプター15.再雇用
リディの家の前。
おらとフーディは父ちゃんに見送られながら、シアウを待って出発の準備をしていた。
あの騒動が起きてからまだ半日ちょっとだ。
ここからフーディの映画ではゲソマミレとの最後の戦いが始まるとの事。
リブートであれきっとそこも流れもおんなじ筈だとフーディは話していた。
カロースの行方はわからないが、ビネガーとしてこの映画を消しにくるなら。
この上映が終わるまでには、何処かで必ず来るはずだとも。
筋書き通りの映画のヴィラン。
いつ乱入するか不明のビネガー。
……分は悪いが、やるしかない。
まだこのフィルムが消えてないのなら、希望はある。
『もう、行くのかい?』
「ハイ、そろそろしなければならない仕事が有りマスので」
『立派になったお前を見れて、嬉しかったぞ』
「ボクも、顔を見れて嬉しかったデス」
フーディと父ちゃんが抱き合う、この国での挨拶の仕方らしい。
フーディは名残惜しげにしながらも、いつもどおりに笑っている。
『美桜さん、息子をよろしくお願いします』
「んだ!りでぃ……じゃねえや、昔のふーでいにもよろしく言っといてくれ」
『恩人の見送りだと言うのに、全くあの子は』
「仕方ねえさ、まだ若いんだ」
リディは責任を感じたまま引きこもってるみたいだ。
この家に世話になってる数日間、顔を全く見なかった、今も顔を見せていない。
すこし怒った様子の父ちゃんを、おらはまあまあと宥める。
「ミオさんがそれ言うとなんか絵面がシュールデスネ!haha!」
「どういう意味だぁ〜〜??」
ジト目でフーディの顔を覗き込んでいると、玄関の開く音が鳴る。
「シアウさん」
「……おはよう、美桜、フーディ」
俯いたままのシアウが、中からよろよろと出てきて、おら達の方まで歩いてくる。
「おはよ!ちゃんと飯食ったか?」
「うん」
「そっか、ええ子だべ」
シアウは随分と気まずそうだったが、顔色は大分よくなっているのを見て、おらは少しほっとしていた。
「私、その、あの……」
暫くの沈黙の後に、おどおどとした様子で口火を切るシアウ。
「……作戦、考えてきたの」
「作戦かぁ?」
「上手くいくか、わからないけど、虫がいいと思われるかもだけど」
おらが返すと、こくりと小さく頷く。
向き合うのを怖がるようにあちこちを彷徨っていたシアウの視線は。
「もう一度だけ、信じてもらえないかな、って」
その言葉を言う一瞬だけは逃げずにおら達に向けられた。
また沈黙が流れる。
おらがこれを破ることは出来るだろう。
それでもおらは、フーディとシアウが話し出すのをじっと待った。
「……シアウさん、アナタはボクを信頼してくれなかった、だから嘘をついた」
先に口を開いたのはフーディだった。
「うん」
「ボクもアナタを信じられなかった、だから助けに駆けつけられた」
淡々とした口調で事実を語るフーディ。
それを聞いて、唇を噛み締めるシアウ。
「……うん」
「なら、チャンスが欲しいのはお互いデスネ」
その様子を見ていた、フーディの声色はどんどん優しい物へと変わっていく。
「もう一度ボクを信頼して頂けマセンカ?」
フーディはゆっくりとシアウに向けて、手を差し出した。
「今度はきちんと報連相して欲しいデース」
「……うん、ちゃんと伝える」
おずおずとシアウがその手を握り返すと、フーディはいつも通りに元気に笑ってみせた。
「ならば契約成立デース!haha!」
おらもその様子を見て、安心していた。
そこに、ちらりとシアウが目を向けてくる。
「美桜、も」
「んだ?ああ、おらも言わなきゃだよな!」
ちゃんと口で言わなきゃ不安だよな、そう思って伝えようとしたのだが。
「──ううん、いい」
「そっか」
シアウは泣きそうやら、嬉しそうな顔で笑った。
おらの顔をきちんと観てくれてるみたいだ。
「ありがとうね、美桜、フーディ」
「……なあ、この世界だと槍が降ってくる天気とかあるんか?」
「今日初めての観測日かもデース!!」
「わ、私だってお礼くらい言えるわよっ!!」
シアウが頬を膨らます中で、おらとフーディは笑っていた。
シアウもそれを観て、笑うまではいかないも、柔らかな表情を浮かべていた。
暫く経つと、三人で出発をする。
『それでは皆さん、お気をつけて!』
リディの父ちゃんはおらたちが見えなくなるまで手を振ってくれていた。
「んだぁ!世話になったべ!」
「お世話になりました、ご飯美味しかったです」
「父さんもお体に気をつけて!!」
フーディはそれを一番最後まで見つめていた。
「しあう、なんでまた自転車持ってきてんだ?」
目的地に向かい、シアウから作戦を聞こうとする中で。
シアウが去り際に持ち出していたものにちらりと目を向ける。
「これからの作戦で使おうと思ってね」
「またおらが風で動かすんか?」
「ううん」
前と違って、ペダルとやらがついていた。
「今度は、自分で漕ぐわ」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
『意識レベルが高いと、この黒いエネルギーは活発化するみたいだな』
緑色の液体に全身を漬けられ、狭いカプセルようなものに閉じ込められている。
考えられはするが、意識がぼやけている。
此処は何処だ。
薄暗い研究所の中に、機械が沢山ある、他にも僕が入っているのと同じ物があり、中には醜い生き物が入っている。
目の前には白衣の男がいた。
僕の方をみて、何かを喋っている。
見覚えがあるが、覚えてなどいない、人間になんて興味もない。
『おっと覚醒させすぎたか』
奇妙な男に妙な力を渡された。
お前を否定する全てを壊せる力だと、呪われた運命も消せる力だと。
それを受けってから、僕は僕の中にあるものを抑えきれなくなった。
どんなに人間を助けようと、神々は言う、お父様は言う、お前は本質がわかっていないと。
誰も認めてくれなかった。
純潔のエルフ、僕とは違う混ざっていない真に神聖な存在。
《おめえ、それでひーろーなんか?》
彼女も、僕を認めてくれはしなかった。
なら全部消えてしまえばいいと思った、僕を認めない神聖な者たちも、こんな世界も。
『完全に意識を消してしまうと、消えてしまいそうだな、この力は』
あの未熟なヒーローに抵抗されて、僅かに掠めたあの一撃。
彼処からよく覚えていない、自分の中に二つの声がずっと響いていた。
これでいいのか?
全部消えてしまえ。
自分の中で首を絞め合っている声を聴きながら、街を漂っていた筈だ。
『昆虫兵器を大量に失ったが、こんな大物を容易に回収出来るのは、思わぬ収穫だった』
白衣の男が機械を弄ると液体が色を変える、それと同時に意識がまた、更に薄くなっていく。
『精々利用させてもらうとしよう、カロース』
僕という存在は、そのまま沈んでいった。




