チャプター14.嘘つきの本音
あれから私達はリディの自宅に連れてこられていた。
リディの父親が助けてくれたお礼をしたいと言ったからだ。
……笑ってしまう、その中の一人は死を願っていたと言うのにね?
フーディが此処に来てしまえば、筋書きはいよいよどうにもならなくなる……。
いい、もうどうせ何もかも終わりだ。
何も考えたくない。
ゆっくりしたいとリディたちに言って、空いていた個室に逃げた。
そこで私は部屋の隅にうずくまる。
……私は。
「しあう、はいるぞ?」
扉をノックする音が聞こえる、私の返事も待たずに美桜が入ってくる。
「責めにでも来たの?」
ヒーロー様のご登場だ、顔も見たくない。
「さぞ気持ちいいでしょうね、たとえ世界を敵に回しても、たった一人の人間を救う」
「しあう」
「感動的よね、いいわそれ、皆大好きだもの」
コイツらを見ているとずっとそうだ。
私の醜さを、私が自覚する。
「……」
「それで世界が壊れるとしても、アナタたちは間違ったことなんてしてないって思うんでしょうッ!!」
私は、リディの父親に死んでくれと願った、筋書きを守るために捨てるのを選んだ。
軽蔑するならすればいい、どうせわかりあえない。
「私の方が、悪いって言うんでしょ」
「おらが悪かった」
美桜の放った言葉は、私の予想とは違っていた。
「……は?」
「間違ってるのはおらたちだ、ふーでいの父ちゃんを助けたのは、おらたちの我儘だった」
美桜は頭を下げて謝罪をする。
……ふざけるな。
「今更、謝るなら、なんでッ……!!」
何故アンタが謝るんだ。
謝るぐらいならなんでこんな事をしたんだ。
私は顔をあげて、美桜を睨んだ。
「おらさ、しあうがなんかおかしいのわかってた」
美桜とフーディが"した事"を睨んだ。
なのに。
「ふーでいも言ってた、世界を救うっちゅーんはすげえ心がきゅっとするんだって」
美桜の瞳と言葉は、ただ私に向けられていた。
ずっと筋書きを見てきた私とは違い。
「その緊張に潰されそうになっても、おめえは頑張ってるって」
美桜はずっと、私を観ていた。
「──ッ!!」
「しあう、おめえさ、映画好きだろ」
「……」
「どの映画の話を語る時も、おめえはすげえ楽しそうだった」
違う。
「でも世界を守るには、その中で非情な決断もしなくちゃならねえ」
私は、そんな綺麗じゃない。
「……私は、見捨てただけ」
「助けたのを見て叫ぶ前に、一瞬、ほっとしてた顔してたぞ、しあう」
最低なんだ、だって世界を救うために、私は大好きだったはずの者にむかって……。
美桜から顔を背ける、向き合えない。
「あれがおめえの本音だろ」
「私は、私はッ……死んでほしいって……!」
「本気でそれを思うやつは、あんな顔しねえよ」
頭に温かいものが乗った。
「ごめんな、嘘をつかしちまって、おめえにだけ辛い想いをさせて」
「……」
「なんとかさ、してみせるからよ」
私を、撫でてくれている。
また逃げようとした私を、否定しないで。
「まだこの映画は消えてねえ、ならまだやれることはあんだろ!」
「……美桜」
「責めるつもりはねえ、ただ伝えたかったんだ」
顔をあげた先に、美桜の顔がある。
いつもどおりの優しい笑顔を見せて、ずっと私を信じてくれていた。
いや、今も信じてくれている。
「おらたちの想いを、まあ、それを聞かせても困っちまうかもしんねえけど」
彼女は、いや此処にいる誰もは、きっと物語だろう。
「……私は」
「もし落ち着いたら聞かせてくれ、なんでも聞くから」
でも。
「恨み言でも説教でも、おめえの気持ちでも」
確かに此処で、生きていた。
「聞かせてくれな、しあう」
「ゔっ……ゔゔゔ……」
私は今更ながら気付いたんだ、目の前が滲む。
「飯きちんと食っておけよ!おらふーでいの様子も見てくる!」
それでも今度は、美桜の笑った顔がしっかりと見えていた。
「美桜……」
私の頭から美桜の手が離れて行く。
扉の向こうへと駆けて行ってしまう。
私の手が、それを勝手に追いかける。
「また後でなっ」
私の近くには、美桜の好物だった、ポップコーンが置かれていた。
さっきまでくだらないと思えていたそれが。
どうしてか、やけに温かく見えた。
「私は、なんで……」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
おらはシアウの居た部屋を後にして、フーディを探して歩き回っていた。
庭に人影がいるのに気付いて、おらは外へと飛び出す。
「ふーでい!」
「Good evening、ミオさん」
「父ちゃんとの話は終わったんか?」
「ハイ、ちょっと大変デシタケド、haha」
リディは部屋に引きこもっていると、父ちゃんから聞いていた。
自分が言う事を聞かなかったせいで、探しにきた父親を危険な目に合わせたと、罪悪感を感じているらしい。
「とりあえずシアウさんの使っていた説明に合わせて、未来のボクって設定で伝えマシタ、父さんが本当は死ぬってコトは伏せて」
「そっか」
「もう、ストーリーラインを気にして偽装する意味はあるのかはワカリマセンガ……」
おらが駆け寄ったフーディも、父親を救った筈なのに表情はどこか暗いままだ。
「ボクは、手を伸ばしてしまいマシタ、本来死ぬ筈だった、父さんに」
シアウもフーディも抱え込んでいた。
「……映画が、壊れると言うのに」
「おらも手を出したさ」
「相変わらず優しいデスネ」
「事実だろ?ふーでいが助けなくても、結局はおらも動いてた、今更気にしても仕方ねえ」
世界を救わなきゃって気持ちと、大事な何かを守りたいって気持ち。
「シアウさんは?」
「殺しちまう選択をしたのを気にしてた」
どっちも捨てられてねえんだ。
でもそれを、悪い事だって責めている。
「……ボクは」
「大丈夫だべ、リディは」
「ホワイ?」
そんな事は無いだろうと、おらは思った。
どっちも持ってて当たり前だろうと。
だっておらたちは、この物語で生きているのだから。
「父親が死ななくたって、あいつはなるさ、ひーろーに」
「どうしてそんなコトを言い切れるのデスカ?」
「だって、あの場に駆けつけてただろ」
おらは助けられた、フーディとシアウに、本当のことを教えてくれた。
じっちゃんたちがいる世界も救ってくれた。
いい奴だって、知っている。
「それに世界が違うって言っても、あいつはおめえだ」
「……」
「おらの一番最初に知った一番立派なひーろー、ぐらすほっぱーだからなっ!!」
「──!!」
だったらおらも、全身全霊で支えれる。
ニッと笑って、撫でようとしたが、その前にフーディはスッと自分で立ち上がり。
「── hahaha!!!!」
いつも通りの明るい声色で、元気に笑い始めた。
「ふ、ふーでい?」
「sorry……こんなにも信頼してくれる同僚がいると言うのなら、期待に応えなくてはならないなと思いマシテネ!」
その姿を見て、おらも安心する。
やっぱりヒーローってのはこうでなくちゃな、と。
「ボクもこの世界のボクもね?」
「へへっ、んだな!」
「「暗い顔をしてたら業績が逃げる」」
「だろ?」「デス!」
顔を見合わせ、声を重ねると街を見渡す。
真夜中でも、暖かな光が溢れている、この街を。
「hahaha!やっぱりメキメキと知識を身につけていマスネ、ミオさん!」
「だろーっ、修行の成果だべっ!」
きっと壊させないと決意を固めながら、おらたちはリディの家へと一緒に入っていくと、身体を休めた。




