チャプター13.死なないで
『アメイジング、対処が間に合ってマス…!
未来のボクたちか。』
郊外から中心まで隈なく見ていく
既に昆虫たちは倒されて、
街の皆の安全は確保されていた。
あの3人が短時間で制圧しているのだろうか、凄い。
《── それでもキミは、ヒーローなのかい?》
『ボクが出る幕は無かったデスカネ、haha。
それならそれで…。
皆が無事なら良かっ────。』
特にボクに出来ることはなかった。
カロースさんから言われた言葉が頭を巡る。
… 本当に役立たずだ。
決意をして飛び出しても、何も出来ていない。
でも、皆が無事なら。
高いビルに登るとあたりをぐるりと見回す。
もう解決したのだろうか。
そう楽観的だったボクの目に飛び込んで来たのは
別のビルの屋上。
『── 父さんッ!!』
ボクを探して追ってきたであろう父さんが
Dr.ゲソマミレに首を捕まれ、
落とされようとしている瞬間。
その上空から
── 誰かが、先に駆けつけていた。
─────────────
Dr.ゲソマミレは背中に生えている10本の虫の足で
父さんの身体を持ち上げている。
『今日を計画日にして良かったよ。
まさかお前とまた会えるとはな。』
『Dr.ゲソ、マミレ。何故だ…?』
『何故だ?それは此方の台詞だろう。
お前のせいで私は全てを失った。
積み上げてきたキャリアも、何も。』
屋上から、足場のつかない外へ。
父さんの身体は宙ぶらりんになっていた。
『君の情熱は知っていた。
それでも、あれは容認出来るものではないッ!!』
『人類は不完全だ…。
病に蝕まれ、寿命は短く、余りにも脆いッ!!!』
『善意は何をしても良いという免罪符じゃないッ!!
研究に学生を利用したキミの判断は間違っている。』
恨み言を吐くゲソマミレに対して
凛とした態度で引かずに、言葉を投げる
場所は違う、だけど、何もかもおんなじだ。
─── "あの時"と。
『… 話にならないな。』
『ぐっ…!?』
『さらばだ、人類の未来を壊した。
─── くそったれの同僚よ。』
次の瞬間、父さんの身体は落ちていく。
「もう二度とッ…!!」
ビルに着地すると、
ボクは間髪入れずにそのまま飛び降りる。
考えている暇なんてない…!
『何…!?』
躊躇している暇なんて、ない…!!
「失いたくないんデスッ!!
だからッ…!!」
ビルの側面を走るように蹴り上げる。
加速して加速して、
目の前で驚いている、父さんに。
『フーディ!?』
伸ばしてはいけなかった手を、伸ばした。
「─── 届けェーーーーーーッ!!!!」
──────────────
フーディが、父親に手を伸ばしている。
「…駄目よ。」
私の口から漏れた言葉。
此処までしたのに、皆を騙してでも
どうにかしなきゃいけなかったのに。
「それだけは、やっちゃ… 。」
主人公は物語の希望だ。
ひっくり返せる未知数があるとしたら
それに賭けるしかなかった。
… それが無くなったら
カロースをどうやって止めるの?
… 無理だ… 足りない…!
死を望んだ私の目の前で、
─── フーディが父親を抱きしめた。
「壊さないでッ…!!
───止めてぇーーーーーーっ!!!!!」
「… わりい、しあう…。」
動揺した私の隙をついて
美桜は片手をフーディたちへ翳す。
鉄扇を使わなくても風を使えたの…?
そんなの私聞いてない。
… ちがう。
「── 春風!!」
"聞こうとすらしてなかった"。
ふわりと優しい風がフーディたちを包み込み
クッションのように受け止める。
呆然として力が抜けていく
私の腕の中から、美桜はするりと抜けて
走っていってしまう。
「ふーでい!大丈夫かっ!?」
「…… thank you… お陰様で、ネ?
流石にあの高さから落ちたら
労災確定デシタネ…!haha…!」
『君は、数日前に家に入り込んできてた…?』
「父ちゃんのほうも無事みてえだな。
ふぃ〜…えかったあぁぁ…。」
"助かった、助かってしまった"。
なのに軽口なんて叩き合って笑っている。
…… ふざ、けるな。
『父さん!?』
『フーディが、もう1人!?
な、何が一体どうなってるんだ!?』
「不味い…!」
「ahー…それに関しては
後程ゆっくりご報告させて頂きマスネ。
少し長いプレゼン資料が必要そうなので、haha。」
リディまでこの場に駆けつけてくる。
"無事だった父親を見せてしまった"。
… なんで、笑ってられるのよ…!!
ヒーローになる主人公は2人とも
これで成長も覚醒もしなくなった。
「…終わりだ、何もかも。」
この映画は有名作品だ。
詰まっている"想い"も多かったはずだ。
それを失うなんて…!!
「でもこれだけは言えマース。」
睨もうとした、憎もうとした
フーディと美桜を
だけど私の視線の先にあったのは
「無事でよかった、本当に。」
父親をみて安堵する
フーディと美桜の優しい笑顔だった。
「───。」
… このシーンをはじめてみた時
父親が死んでしまうのをフーディが見た時。
私はなんて思ったっけ…?
死んでほしいなんて思ったの?
これで良いなんて思ったの?
違ったはずだ。
少なくともこの映画を好きになった時の私は。
…… それなのに
私は、さっき願ってしまったのだ。
生きてて欲しかったと
願ったことのあったキャラクターに。
── 死んでくれ。と。
「… しあう?」
美桜が此方に近づいてくる。
私は口に出せなかった。
恨み言も、自分が正しいと主張する言葉も
「…あ、あぁ…!あああああああッ!!!!!」
ただ感情だけが、ぽとぽとと頬を伝う。
何もわからない、視界が歪んでいく。
目の前にいたはずの2人の顔すら
もう見えなかった。




