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天界を追放された堕天使は、正体を隠して眠りたい  作者: 葱色信号
第二部一章:スーノス地区編

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【第百話 因縁の終わりと、新たな予言】

 「はぁっ!」


 カレンが、白刃を浮かばせる鎌を振るった。

 浮遊する巨大な眼球と翼に覆われたベレトが、純白の羽で防御を試みる。

 強くつっかえるような手応え。カレンは、肩が抜けそうな錯覚を覚える。


 身を捩る。

 鎌の切っ先を、槍のように突き立てる。

 抉るように刃が食い込んだ。


 深々と刺さっていき、カレンの肌に粟が立つ。

 何せ、刺突攻撃は生まれて初めてなのだ。


 口元を歪め、しかし細く息を吐く。


 蚊を払うように翼をはためかせるベレト。

 カレンは、吹き飛ばされんと鎌を強く握りしめる。

 強く揺さぶられるカレンは、まるで吹き荒れる暴風をその身に浴びていた。


「この魔力!? テメエ何もんだ!?」


「はぁ!? なんのこと?」


「オレの身体に流れ込んでくる、この気持ちわりぃ魔力……! ミカエルの……! いや、それ以上だ!」


 ルシフェル様の魔力だ!

 ベレトがそう叫んだ。

 

 翼越しに覗くベレトの瞳孔は、鎌を見つめながら震えていた。


 ソレイユはもともと、ミカエルから押し付けられたのだ。

 ロニア、ローラことサタン、そしてミカエルと色合いが一致している。

 それどころか、確かに魔力の流れが酷似していたのだ。


 そのため、今更驚くことではない。


 ベレトの抵抗は続く。

 それはめり込んだ鎌を滑らせるのには十分すぎた。

 カレンが、落下し、木製の欄干が近づく。


 このまま落ちれば、死ぬまでとはいかないが骨折は免れない。

 そうなれば、蹂躙が待っている。

 カレンが鎌を振り降ろし、魔力を流し込む。


「【緑魔法:衝撃(白魔法:ブレッシング)】!」


 カレンの口から、ふたつの声が響いた。

 ひとつは、彼女自身の声。

 もうひとつは、ロニアのようにけだるげな少年の声。


 衝撃(クェイク)でクッションのように受け止めようと試みた。

 だが、カレンの展開した緑魔方陣は白く染まっている。

 空気の緩衝材を生み出すどころか、カレンの肉体はまるで宙吊りになったようだった。


 肩甲骨の付け根に違和感を覚える。

 その違和感を後押しするのは、カレンの視界に映る景色でもあった。

 自分はまだ空にいて、視界の端に白亜の羽毛がのぞいている。


 羽ばたくたびに、カレンの肉体にわずかな抵抗が加わっている。

 カレンは、思わずそれに触れてみた。

 指先が沈んでいくように柔らかく、ひとたび触れる度にポカポカと暖まっていく。


 これは、翼だ。カレンは、心の中でロニアの姿を思い浮かべた。

 ようやく、隣に並ぶことができたのだろうか。そう、思った。


 カレンは、静かに降り立つ。

 そして、こちらを見下ろすベレトの瞳孔を睨みつける。


「ロニアくん。力を貸してくれて、ありがとう」


 鎌の切っ先が、白閃を迸らせる。

 それを合図に、カレンは欄干を蹴り上げて飛び立った。

 

 体が軽い。今なら、なんでもできそう。

 彼女は、ベレトの人智を凌駕した姿を見ても恐れ慄くことはしなかった。

 ただひとつあるのは、ロニアの見ている景色を体験できたことへの高揚感だった。


 箒や列車を用いない、あまりにも自由な飛行。

 カレンは、鎌を構えて回転を始める。

 高濃度の天界エーテルに満ちたその斬撃が、一切の隙間なく襲い掛かる。


 図体の重いベレトにとって、回避は困難だった。

 瞳孔を細め、翼を畳んで防御の姿勢を取る。

 けれど、迫りくる旋風刃は防ぎきれなかった。


 ぎゃりぎゃりと、切っ先が翼を抉り取る。

 何重にも重ねられた翼を、しかしカレンは貫いた。

 そして、ベレトの眼前に立ちはだかる。


「テメエ、どんな小細工をしやがった! その翼といい、なんなんだよ!」


 その言葉を受けたカレンは、鎌の切っ先を閉じる。

 今や、それはただの杖だ。だが、カレンはそれを両手で垂直に握る。

 杖の両端から、ズンと光の刃が飛び出た。


 カレンはそれを手先で振り回しながら、獲物を狙う虎のように姿勢を限界まで下げる。


「その正体は、これだよ」


 カレンの両脚に、白みがかった緑魔方陣が現れる。

 細い呼気が流れ、カレンは顔を上げた。


「【緑魔法:加速(白魔法:ワームホール)】」


 大気を踏みしめ、カレンは滑るように目の前に広がる洞穴へと飲み込まれた。

 進むごとに、景色が移り変わる。

 そして、気づけばカレンはベレトの背後にいた。


「捕まえた」


 両刃剣を、眼球の裏へと深々と突き刺した。

 そして、高く、高く。それを引きずるように切り上げる。

 肉をかき分ける、背筋が凍るような嫌悪感。


 カレンは、とめどなく溢れ出る悪魔の黒い血をその身に浴びた。

 けれど、それはソレイユによる防護壁で弾かれる。


「ぐああああ! チクショウ、チクショウ! アスモ、オマエの復讐を、果たせそうだったのに……!」


「地獄でまた会ってきたらどう?」

 

 天高く、白刃が掲げられた。

 黒い閨の外壁が、ガラガラと崩れていく。

 漆黒の鮮血を流しながら、ベレトの肉体は白亜の雪に落ちてゆく。

 

 カレンは、懐から丸眼鏡を取り出す。

 鮮明な視界が戻ってくると同時に、白光を放つカレンの双眸は、サファイアのような蒼いものに戻っていた。


 地面に降り立ち、黒い魔方陣の元に結合するベレトの残骸を見つめる。

 それは、蹲る人型へと戻っていた。

 

 マチィナたちが駆け寄ってくる。


「か、カレン!?」


「その姿は、いったい何があったでござるか!?」


「ロニアくんが、また力を貸してくれました」

 

 ベレトの腰まで伸びた赤髪は、ぼさぼさに荒れている。

 口元からは黒血を垂れ流し、純白の雪を染めている。

 力なく、ベレトはカレンを睨んでいた。


「ゴボッ……! テメエ、殺すなら殺せよ!」


 カレンは、ひどく冷徹な表情でベレトを見下す。


「うん。じゃあお望みどおりに」


「まるでロニアくんみたいなのです……」


 カレンが両刃剣を振り降ろそうとしたその時。


 ベレトに、一匹の蠅が止まった。

 それは、無数にも分裂し、ベレトを包み込む。

 土壌を溶かし、酸のえづくような臭いが充満する。


「これは……! ベルゼブブか!? ベリアル! 聞こえてんなら、助けに――」


 ベレトは、蠅たちの作り出した大穴の中に墜ちていった。


 カレンは、重く腰を落とす。

 いや、正確には腰が抜けたのだ。

 

「終わった……はぁ~疲れた……」


 カレンの背中に生えていた翼は、いつの間にか消えている。

 身体に残ったのは、絶え間ない倦怠感だった。

 なるほど、どうりでロニアは怠惰なのか。

 カレンは、そう心の中で苦笑した。


「あれ、お~い! アマちゃん!」


 門の外から聞こえる、アマクサを呼ぶ声。

 白髪の、眼が紅い男。


 ロニアの叔父、ロムレス・ロンドだった。

 彼の背には、右肩に風穴の空いたロニアが蹲っている。


 カレンが慌てて駆け寄ると、ロニアは小さく目を開いた。


「あぁ、カレン……。ボクは大丈夫だよ。ちょっと、疲れただけ……」


「そんなこと言っても! 肩が!」


「必要経費さ。こうでもしなきゃ、アイツを倒せなかった」


「あまり喋んなよロニア坊。傷が広がる。フィアンセちゃん、悪いが、オタクの彼氏くん借りるぜ。キルちゃんのとこに連れてかねぇと」


 カレンの肩に優しく触れながら、ロムレスは「心配いらない」と言いたげにカレンへ向けて笑いかけた。


 ─────────◇─────────


 その晩。

 ロニア達は、食卓に集められていた。

 夕飯という訳ではない。


 まだズキズキ痛む右肩は、ヴァレンティノスによる治癒を施してある。

 これで安静にしていれば、明後日には回復しているそうだ。


 ヨハネが、卓上に一冊の本を広げていた。

 それはいまだ白紙であるが、ヨハネが筆を走らせると細かな景色が浮かび上がる。

 一行は、それを深く覗き込む。


 そして、同時に息を呑んだ。


「なんだい、こりゃあ」


 葉巻を咥えながら、ぶっきらぼうに言うのはラティファだった。

 中央には、醜い蠅の集合体がいた。

 それが、二人の騎士を従えているように見える。


 蠅と騎士は、待ちゆく人々を斬り伏せ、城を貪り食っている。


「これは、ハエ野郎ことベルゼブブですね。両脇のこれは……」


 ローラが、顎に手を当てて考え込む。

 横から割って入ったのは、ヴァレンティノスだった。


「四人の騎士、ですか。大洪水以来、鳴りを潜めていたと思ったら」


「四人の騎士?」


 ロニアが首を傾げる。

 その動きと共鳴するように、カレンも同じ動きをした。


「初代のヨハネが遺した書物に記されてある、ある滅びたちのことです。支配、戦争、飢餓、そして最悪の騎士─死」


「まさか、ハエ野郎がそいつらを!?」


 ローラが瞳を大きく見開き、机に手をつきながらつんのめる。

 ヴァレンティノスが、深くうなずいた。


「ほい、予言が出た。むむむぅ~」


 ヨハネの、幼児のようにくりくりとした瞳から光が消える。


「四人の騎士が、蠅と共に来たりし刻。はるか遠方から、明けが訪れるだろう─だって~」


 互いに顔を見合わせる一行。

 ロニアは、固唾を飲み込んだ。

おかげさまで、百話を突破いたしました!

本当に、ありがとうございます!

これからも頑張っていきますので、よろしくお願いします!

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