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ep.14『噴乳』⑥

「ハァッッ!!!」


 何度もヴォルガーを叩いたキルデイルの掌……それが突然、ヴォルガーの腕を掴んだ。

 そして、その掌からは光の帯が延びてくる。


「!!??」


 突然の搦め手に対応できないうちに、光の帯はヴォルガーを拘束する。

 その身動きが取れないように。


「くそ……っっ!!!」


 もっとも、ヴォルガーがこの帯を膂力で引きちぎるのにそう時間はかからないだろう。

 そして、二度も同じ手段での拘束は通用しないだろう。

 それでいい。

 キルデイルにとっては、たった一度だけ通せば、僅かな隙を生み出すことができればそれでよかった。

 ヴォルガーの受けたダメージも尋常ではない。

 キルデイルの一手を通すには十分な隙が生まれるはずだ。

 そう考えてキルデイルは、拘束したヴォルガーから瞬時に距離を取った。

 この広い空間のほとんど端まで移動して、ヴォルガーが小さく見えるほどの距離を取った。

 拘束が無ければ、この距離でもヴォルガーは瞬時に間合いを詰め、そしてキルデイルの行動を妨害したのだろう。

 しかし今この瞬間、キルデイルの技を妨げる物はない。

 キルデイルは両手を天に向けて高々と掲げ、叫んだ。


「ゾディアクオス・エクセラウノッッッッ!!!」


 キルデイルの叫びに呼応して、その頭上に煌めく無数の星々が瞬いた。

 いや、それは星々ではない。ただの輝きでもない。

 光を放つ結晶だ。

 キルデイルの魔力が硬質な形を得たものだ。

 星のような無数の結晶はキルデイルの頭上に具現化したかと思えば、ヴォルガーめがけて流星のように降り注ぐ。


 拘束を解いたヴォルガーは、自分に向けて降り注ぐ星々を見て瞬時に理解する。

 これは、容易に耐えられる技ではない。

 本来であれば、繰り出される前に妨害すべきものであった。

 もっとも、ただ降り注ぐだけなら回避は不可能ではない。

 しかし……今までの戦いの経験からいって、物理法則に任せて落ちるだけの技とは思えなかった。

 この技には、結晶という具体的な形がある。

 具体的な形を付与するメリットの一つには、放った後のコントロールの容易さがある。

 キルデイルほどの魔術師が『必殺技』として出した魔法であれば、ただ回避するだけでは回避しきれない、自動追尾の機能がついていると考える方が自然だ。

 一瞬でその絶望的な答えに辿り着いたヴォルガーに、ラピアはただ、こくりと一つ頷いた。


 ドォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!


 圧倒的な質量が降り注いだ轟音が、神殿に響きわたる。

 視界が土煙に包まれる。

 キルデイルは、勝利を確信した。

 降り注いだ結晶は、確かに生命反応を消した。キルデイルは、確かに消失を探知した。

 先程まであれだけ放たれていたヴォルガーの殺気も、今は綺麗に消え去っていた。

 一瞬のチャンスに全てを注いだ大技を決めて、思わず脱力したキルデイル……その耳に、響く声があった。


「――天之叢雲ッッッッ!!!!!」


 その声は、キルデイルの頭上……高くから落ちてきたヴォルガーの放つ叫びだった。

 叫びを認識したその瞬間には、キルデイルの身体はヴォルガーの脚によって袈裟懸けに切り裂かれたいた。


「ガァァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッ!!!!!」


 圧倒的な重みに加え、まるで研ぎ澄まされた刃のような鋭さを伴ったヴォルガーの蹴撃。

 己の魔力も、膂力も、全てを込めた渾身の一撃。

 それは魔王軍幹部であるキルデイルの身体を二つに分かち、回復も不能な致命傷を十分に与えるだけの威力を持っていた。


 二つに分かたれて、もう手遅れの段階になって、キルデイルははっきりと理解した。

 キルデイルの放った流星群には、ターゲットを追尾する機能があった。

 しかし……ラピアに吸い込まれた。

 キルデイルが遠隔で放った隕石を攻略したときのように……ラピアほどの実力者であれば、自らの身に引きつける力も当然持っている。

 もっとも、キルデイルの大技を誘引するだけの魔力……それを消費して流星群をもろに受け止めれば、無事で済むはずがない。

 だから、ラピアの生命反応が消失したことをキルデイルは探知した。

 そして、同時に消えたヴォルガーの殺気……。

 消えたのではなく、消したのだ。

 魔力の放出によって敵の攻撃を引きつける開天流の技術。

 それを極めた者の切り替えは、あまりにも鮮やかだった。

 視界から失せてしまえば『死んだ』と誤認するほど一瞬で気配が消えたのだから。

 理解があと一瞬早ければ、勝負の行方はわからなかっただろう。


「……見事だよ、完敗だ。君達に負けるんじゃあ……どっちにしろ……だったんだな」


 薄れゆく意識の中で、キルデイルはヴォルガーに細々と語る。


「……一つ教えろ。貴様は何故……あそこまで開天流のデータを集めることに拘った」


 問われたキルデイルは「ハハッ」と乾いた笑いを吐き出した後に答えた。


「焦ることは……ないだろう? 君の戦いは、まだ続くんだ」


 そう言ったキルデイルの身体は、粒子の様に解けて消滅していく。


「!!??」


 何体もの魔族と戦ったヴォルガーでも、このような死に様を見るのは初めてだった。


「まぁ……ここで死んだ方がマシだったと思うかも、知れないが……なに、負け惜しみさ……」


 ニヤリとした暗い笑みを浮かべたまま、キルデイルは完全に消滅した。

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