ep.14『噴乳』④
「キルデイル!!! 貴方に注がれる神の慈悲は無いと知りなさい!!!」
「くそっ……!! 一体僕の身体に何が……!!?」
戸惑うキルデイルに、容赦なくヴォルガーの拳が迫り来る!!
拳が叩き込まれたその瞬間、キルデイルは自らの身体を変質させようとする!!
ドロドロの粘質に変え、ヴォルガーの攻撃を無効化しようと!!
……しかし、それは叶わないまま、ヴォルガーの拳は完全にキルデイルを捉えた!!!
「ガァァァッッッッ!!???」
そして、その身体は凄まじい勢いで吹き飛ばされ、神殿の石壁に叩きつけられた!!!
(ま……まさか、あのヒーラーの攻撃で、僕の『変質』は封じられたというのか……!!)
そう、怒りによって爆発したラピアの魔力は、キルデイルの全身を縛り付けるに至ったのだ!!
ラピアの力では一時的に封じるのが精一杯で、それが大局を動かすことはない……。
そんなキルデイルの、データの蓄積による分析はラピアの激情によって完全に覆されてしまったのだ!!!
咄嗟の判断でヴォルガーの攻撃に身を任せたキルデイルは、吹き飛ばされることによってむしろ身体に受ける衝撃を軽減していた。
しかし、例え軽減しても相当なダメージを負ったことを、否応なしに実感させられていた。
この戦いが始まって初めて、キルデイルは自らに治癒魔法をかけるが……。
(回復も鈍い……!! このまま攻撃を受け続けたらまずい……!!)
ヴォルガー達に対する絶対的な優位を失ったキルデイル。
ヴォルガーはこの機を逃すまいと、拳を振り上げてキルデイルに襲いかかる!!
砲弾のように迫り来るヴォルガーを視界に捉えながら、キルデイルは呟く。
「参ったよ……まさか『変質』を完全に封じられるとはね……」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
音を置き去りにする速さの拳が、まさにキルデイルの顔面めがけて振り下ろされる!!
バリィィィィッッッ!!!
振り下ろした拳……その拳の鳴らす異様な破壊音に、ヴォルガーはギリッと歯を軋ませる。
「こうなったらもう……君の攻撃を正確に読んで、確実に防御するしかないじゃないか」
ヴォルガーの拳とキルデイルの間には、バリヤーが展開されていた。
丁度、ヴォルガーの拳を受け止められる程度に小さく展開されたその半透明の壁は、打撃によってひび割れ、そして砕け散る。
砕け散るまでの僅かな時間で、キルデイルはヴォルガーの元から離れて体勢を立て直していた。
ダメージを回復するほどの余裕は無くとも、ヴォルガーと戦えるだけの余力はまだ十分にある。
その立ち姿だけで、ヴォルガーには一目瞭然であった。
「うおぉぉぉぉぉぉッッッッ!!!」
ヴォルガーの感覚はすぐさまキルデイルの位置を捉え、次の瞬間には拳を振り下ろすところまで距離を詰めていた。
そしてキルデイルめがけて振り下ろされた拳は、半透明の小さな壁に阻まれる。
バリィィィィッッッ!!!
ヴォルガーの拳は、キルデイルの展開する障壁を問題なく破壊する。
しかし、どうしてもそこにはワンテンポ分のズレが生じる。
そのズレは常人であれば認識すら困難な程の僅かな差異であったが、キルデイルが回避するには十分な時間であった。
ヴォルガーは間を置かずに何連撃も拳を繰り出すが、その尽くが障壁に阻まれテンポを狂わされる。
そして、キルデイルも回避に専念しているはずがなかった。
「エフトラ・ストラッッッ!!!」
キルデイルの手から熱線が放たれる。
放たれたその一瞬で神殿の全てが熱と目映さに包まれる程の高エネルギー。
ヴォルガーを狙って放たれたそれは、しかしヴォルガーを掠ると神殿の壁を黒く焦がして消えた。
(やはり、威力の高い技では隙が大きすぎるか……!!)
一般的な尺度で考えれば、熱線を放つ動作は素早く、大きな隙など存在しなかった。
しかし、ヴォルガーとキルデイルという達人同士の戦いにおいては勝負を分ける程の大きさであった。
当たればただでは済まない攻撃も、ヴォルガーは物ともせず反撃に転じていく。
回避の距離がギリギリだった分、キルデイルとの距離も未だ近いままである。
「りゃッッッ!!」
ヴォルガーの放った拳は、やはりキルデイルの障壁に阻まれる。
障壁を割った拳は、テンポが遅れる。威力も殺がれる。
しかし、今度はキルデイルの腹に届いた。
「ぐぁッッッ!!!」
攻撃を届かせるに至ったヴォルガーは、この機を逃さず追撃の拳を浴びせる。
その拳を障壁で正確に受け止めたキルデイルは……割れる障壁に合わせて、掌底を繰り出した。
「!!??」
ヴォルガーの拳と、キルデイルの掌底が割れた障壁を挟んでぶつかり合う。
キルデイルの掌底からは威力・衝撃を伴う魔力が放たれており、ぶつかり合ったヴォルガーの拳とは、その力を完全に相殺された。
バチィィィィッッッ!!!
電流が迸るような鋭い音が、眩い光とともに放たれる。
それは、ヴォルガーの拳とキルデイルの掌が重なることによる魔力の炸裂であった。




