ep.final『胎動』⑫
「紆余曲折ありましたが、最高最強のパーティですよ!! イェイ!!」
「まぁ……少なくとも最強という点については妾も異論は無いかのぅ……」
穏やかな空気に包まれるにつれて、思い起こされるのは体の痛みであった。
「ラピア……まだ回復できる余力は残っているだろうか? 僕も皆もボロボロだ」
ギデオンの問いかけに、ラピアは少し困った顔で返す。
「う~ん……流石に全快は難しいですね……私も今の状態では……」
「そうだ」
ヴォルガーはふと、よい案を思いついた。
「とりあえず俺の『不死鳥の涙』を使ってくれ。普通に動けるくらいの活力は取り戻せるはずだ」
そういって小袋から軟膏を取り出す。
取り出されたそれを、ギデオンとリアは怪訝な表情で見つめる。
「……それ、あれだよな? ヴォルガーがその、毎晩使っている……」
「ああ!! 俺が乳首開発に使っている軟膏だ!! 遠慮なく使ってくれ!!」
「……いやまぁ、効果覿面なのは間違いないわけだしね」
「……背に腹は替えられんのぉ」
とにかく今は傷を癒そう、ということでギデオンとリアが不都合な事実から目を背けた――その時だった。
「――敵ながら天晴れ、というべきなんだろうねぇ」
その声の先に立っていたのは、間違えるはずもない。
「――キルデイル!!??」
ヴォルガーとラピアが討伐したはずの魔族、七沌将の一人キルデイルであった。
「貴様ッッ!! 魔族じゃな!!??」
気配を敏感に察知したリアが、すぐさま指先から雷撃をキルデイルに放つ。
しかしその攻撃は……キルデイルには届かない。
キルデイルに届く寸前で、空間が不思議と歪んだのだ。
「ああ……攻撃は無駄だよ。君達の攻撃も無駄だし、僕の攻撃も無駄なんだ。そもそも、僕に攻撃できる余力なんて残ってはないけどね」
「キルデイル……貴様は俺とラピアさんが殺したはずだ……」
「ギリギリね、死ぬ寸前で消えるように細工をしてあったんだ。魔王様は敗戦した後の処理なんて考えてはくれないからね……故郷のため、僕が働かなくちゃあならない」
そう語るキルデイルは、どこか寂しげだった。
「……要するに、魔界に帰るということか? その話を信じるに足る根拠はあるのか?」
「根拠を示せっていわれたら困るけど……そもそも負けたのはこっちだからね。最強の魔王様まで倒されて、これ以上戦いを続けるメリットも無いよ」
「魔界に残った戦力を呼び寄せるということは?」
「そんなことができるなら負ける前に呼んでるさ。だから僕はこのゲートから魔界へ帰って、この世界との道を閉じる。敗戦しても君達に資源や土地を渡すつもりは一切無いしね」
全面的に信じることはできないが、理屈は通っている。
いずれにせよ、攻撃が向こうに通じないのでは取れる手段もない。
「まぁ、魔界に帰ったら『この世界の人間は強いから、侵略なんて考えない方がいい』くらいのことは伝えておくさ」
その言葉の後、ヴォルガー達から見えるキルデイルは歪んで消えた。
具体的なものは目に見えないが、キルデイルがいうところの『ゲート』から帰り、そして閉じたということなのだろう。
油断はできないが、しかしヴォルガー達が警戒しすぎても仕方のない話だ。
「――まぁ、あやつの言葉の真偽を調べるにしても妾達四人では難しいからの。地上に降りて妾の国に話をして、それからじゃな」
「この魔王城もどうにかしなきゃですしね。浮かびっぱなしで困ることもないかもしれませんけど」
とにもかくにも、この戦いは終わったのだ。
「ギデオン、妾の国に帰るぞ」
「……うん、帰ろう」
ギデオンは改めてリアの肩を優しく抱き寄せる。
ギデオンとリアは恋愛関係に違いない、という話はラピアから聞いていた。
言われてみれば、そういった情緒に疎いヴォルガーでも、確かにそうなのだろうと納得がいった。
ともにこの戦いをくぐり抜けた仲間としては心から祝福したい。
しかし……
(勇者殿は霊剣に選ばれた者とはいえ平民の出身……。大国の王位継承権第一位である姫様と結ばれて何か問題は起きないものなのだろうか……?)
問題は普通に起こったが、それはまた別のお話である。
「ヴォルガーくん、私達も帰りましょうか!」
「……ああ、そうだな」
四人を迎えるための不死鳥達が、空から舞い降りてくる。
ラピアの小柄な体躯が立ち上がると、風に吹かれて長い銀髪が揺れた。




