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ep.final『胎動』⑪

「ぅがぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッ!!!」


 霊剣の鮮やかな切れ味が、とうとうアゥリマに届いたのだ。

 斬れる。つまりは勝てる。

 ギデオンが追撃のため剣を構えた、その時であった。


「図に乗るなぁぁぁッッッ!!!」


 ギデオンに切断された右腕……赤い血の滴るその切断面を、アゥリマはギデオンに向けた。


「ッッ!!??」


 まずい、と本能で察知したギデオンは自らを庇うように霊剣を掲げて防御を試みる。

 しかし、護りきれない。

 次の瞬間にはアゥリマの右腕、その切断面から血液が無数の矢のようにギデオンを襲った。


「ぐぁぁぁぁぁッッッッ!!!」


 腕の欠損という致命傷になりかねないダメージを受けながらも、そのダメージを戦闘に転用する。

 アゥリマの戦闘センスはやはり上手であった。

 ギデオンはその威力に弾き飛ばされる。そして、カバーしきれなかった攻撃が矢のように脚に突き刺さる。

 ギデオンの動きを制限した。アゥリマはこの好機を逃さない。

 残った左手から閃光が輝く。これでギデオンの命を刈り取ろうという、眩く強い閃光が。


「ダマーヴァンドッッッッ!!!」


 アゥリマの放った閃光が、一直線にギデオンへと向かう。

 脚に血の矢を受けたギデオンには回避のできない、死の閃光が。

 リアもヴォルガーも、アゥリマに通せるだけの攻撃を持った強者だ。

 だが、それ程の大技を後何度繰り出せるだろうか。

 正確に当てられるだけの策は残っているだろうか。

 目下、やはり魔王アゥリマにとって最大の脅威は霊剣を携えた勇者ギデオンに他ならない。

 腕の切断という大ダメージを受けながらも、機転によってこの決定的な一撃へと繋げることができた。

 『勝った』……一直線に突き進む閃光を見ながら、アゥリマは確かにそう思った。

 しかし、勇者の命を狩るべく真っ直ぐに走るはずの閃光が……突然、ぐにゃりと軌道を変えた。


「ッッッ!!!???」


 確定したはずの勝利が、突然ねじ曲げられた。

 曲がった閃光を視線で追いかけたアゥリマの目に映ったのは――眩い光をその体で受け止めるヴォルガーであった。


「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……ッッッ!!!」


 アゥリマは更に目を凝らして、そして理解した。

 ヴォルガーの背後に、ラピアがいる。

 ラピアはこの土壇場で、ヴォルガーを介してアゥリマの放った閃光を誘引したのだ。

 そしてヴォルガーが鋼の肉体でダメージに耐え、ラピアが同時に回復する。

 ギデオンへの攻撃を逸らすための秘策であった。

 状況を理解すると同時に、この攻撃を止めて別の手段でギデオンを攻める必要があるということも理解した。

 しかし……一手遅かった。


「ストミーネッッ!!」


 呪文を叫ぶリアの声。

 瞬間移動の呪文だ。

 アゥリマが気づいたときには、霊剣を振りかざすギデオンが頭上にいた。

 その背にリアがしがみついている。実状をいえば、リアが瞬間移動で運んだということだろう。

 そして、アゥリマが攻撃を切り替える間もなく、ギデオンは霊剣を振り下ろした。


「ルキアート・レクス・アルティマムッッッ!!!」


 アゥリマの思考が高速で回転する。

 この攻撃を回避する方法を、反撃する方法を、過去の膨大な経験から編み出そうと。

 その力で数えきれぬ命を蹂躙し、魔界を支配するに至った魔王アゥリマの記憶。

 その記憶が、瞬きにも満たぬ一瞬で流れ、消えていく。

 その記憶を見送ったアゥリマは、とうとう悟るに至った。


 ――これが『死』か。


 その刹那、兜に包まれた魔王アゥリマの頭をギデオンの霊剣が両断した。


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッ……!!!!」


 最早声にもならぬ断末魔をあげ、魔王アゥリマはバタリと倒れた。

 死後の反応として体がピクピクと動くのみで、自らの意思で動く様子は丸でない。

 魔王は、とうとう絶命したのだ。


「や……やりました」


 最初に声をあげたのは、生命反応を察知できるラピアだった。

 その判断を、この場で最も的確に下せる者だ。


「勝った……勝ちましたよ、私達……魔王に!!」


 アゥリマの閃光でダメージを負ったヴォルガー、誘引と回復を同時に続けていたラピアは、疲れや痛みが一気に噴出したかのように膝から崩れた。


「これで……終わりか……ようやく……」


 空を漂う魔王城の屋上庭園から、ヴォルガーは更に空を見上げた。

 地上から見るよりも突き刺さるように青い空、暖かさすら感じる白い雲。

 これを護ることができたのか、と実感が沸き上がってきた。

 その視線の先に、勝利を祝福するような煌めきが地上から空に向かって舞い上がる。

 星の瞬きのようなその光は、魔力だ。

 影が万橡の泉から奪い、魔王城へ向けて運んでいた全ての魔力が解放されているのだ。

 正真正銘、魔王軍との戦いが決着した証であった。


「……ギデオン」


 決着の瞬間からギデオンにしがみついていたリアは、天に昇る煌めきを見つめながら彼の腰に腕を回し、強く抱きついた。


「ありがとう、リア……ずっと僕を支えてくれて……」


 そしてギデオンも、その逞しい腕でリアの肩を優しく抱きしめた。

 戦いの熱が引いてみれば、高い空を漂うこの城は冷たい場所だ。

 ギデオンとリアは抱き合い、お互いの温もりが混じり合うことの安らぎを地上よりも強く感じていた。


 そんな二人の抱擁をじーっと見ていたラピアは、隣に座るヴォルガーに向き直り、すっ……と何かを要求するように両腕を伸ばした。


「……どうしたんだ、ラピアさん」

「どうしたんだ、ではなくて」

「ではなくて、と言われても……」

「もーっ!! こんな時まで照れ隠しすることないじゃないですか!! 決着なんですよ!!!」

「ラピアさんは照れ隠しという概念を便利に使いすぎだ!! まったくわからん!!!」

「うるさいぞおぬしら!!! おかげで雰囲気が台無しじゃ!!!」


 怒りを叫ぶリア。ギデオンは苦笑しながら、ヴォルガーとラピアの方を向く。


「ヴォルガー、ラピア、二人ともありがとう。色々あったが……二人がいなければこの戦いに勝つことはできなかった」

「勇者殿……!!」


 ようやく、霊剣に導かれた仲間として心が通じ合った。

 喘ぎ声がうるさいという謎の理由で追放されて以来、もう叶わないかと思っていたが……四人は改めてパーティとなった。

 ヴォルガーは胸が熱いもので満たされるのを感じた。

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