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ep.final『胎動』⑦

 ヴォルガーはアゥリマに向けてスッ……と拳を構える。

 ラピアは攻撃の際に離脱し、アゥリマの視界にはヴォルガー一人が立っていた。

 一対一であれば、勝利するのがアゥリマであることは揺るがないであろう。

 アゥリマからすれば、視野を狭める理由の無い状況……それでもヴォルガーの殺気が、その視線を引きつけていた。


「フンッッッ!!!」


 アゥリマがヴォルガーに向けて戦斧を振り下ろす。

 鋭さと重さを兼ね備えた魔王の刃――素手で戦うヴォルガーでは、どうあがいても霊剣を持つ勇者のようには受け止められない一撃であった。

 だからヴォルガーはこの刃を、取った。


「!!!」


 両手で刃を挟み込む、白刃取り。

 受け止められた刃から伝わる膂力は、さしもの魔王アゥリマも驚くほどであった。

 とはいえ、ヴォルガーであっても魔王の一撃を受け止められる時間は長くはない。

 無理に受け続ければ、結局両断されるのが目に見えていた。

 その力量差を把握して戦えるからこそ、ヴォルガーはこの戦場まで辿り着くことができたのだ。

 ヴォルガーは戦斧を、その力の方向に従って下ろす。

 自らは掴んだ戦斧を起点にしながら旋回し、舞い上がる。

 戦斧を振り下ろして隙のできたアゥリマに、再び蹴撃を浴びせかける。


「ハァァァァッッッ!!!」

「フンッッッ!!!」


 しかしアゥリマは瞬時に察知し、ヴォルガーの蹴りに拳を叩き込んだ。


「くッッッ!!!」


 やはり威力は魔王アゥリマの方が上だ。


「威力も身のこなしもなかなかのものだ。殺すのに少し時間がかかりそうだな……!!」


 ヴォルガーはダメージを軽減すべく、アゥリマの拳が放つ威力に身を任せて後方へと跳ぶ。

 そこにアゥリマの追撃が来る……その時だった。


「――終わるのは貴様の方だ、魔王アゥリマ!!」


 追撃の戦斧を受け止めたのは、勇者ギデオンの霊剣であった。


「何ィっ!!?」


 魔王が驚いたのは、受け止められたという事実ではない。

 受け止めるギデオンの力が、明らかに先程よりも強い。

 この攻防で受けたダメージも消耗した体力も取り戻している……その事実に気がついたのだ。


「――まさか、あのヒーラーか!!?」


 アゥリマの推測通り、ヴォルガーが引きつけているうちにラピアがギデオンとリアの回復を完了していた。

 リッケの用意したポーションのおかげで、この戦闘が始まる前よりも気力が充実している程であった。


「勇者パーティのフルパワー・フルメンバーです!! 誰が相手だろうと負けませんよ!!」

「このぉ……っ!!」


 アゥリマの戦斧と霊剣をぶつけ合いながら、ギデオンは二人に礼を述べた。


「ヴォルガー! ラピア! 最高のタイミングだった、ありがとう!!」

「勇者殿……!!」


 紆余曲折合ったが、ようやくこの四人で戦うことができる。

 世界の命運をかけた状況で不謹慎かもしれないが、ヴォルガーの心には喜びがわき上がった。


「ラピア、ヴォルガー……魔王の胸に黒い核が見えるじゃろ?」


 リアは静かに二人へ説く。


「あの核で魔王はバリアーを展開しておる。あれを破らぬ限り魔王も倒せん。おぬしらが……破壊するんじゃ」

「ああ……心得た、姫様!!」

「仰せのままに!!」


 互いの武器を打ち合っていたギデオンとアゥリマ。

 上回ったのは、やはりアゥリマの方であった。


「ぬぅぅぅぅんッッッ!!!」

「ぐぅぅッッッッ!!!」


 アゥリマの強力無比な膂力に、ギデオンは吹き飛ばされる。

 しかし、まだ気力は十分だ。吹き飛ばされるままにはならず、霊剣を石畳に突き立ててブレーキをかける。

 そしてその隙に、リアが再び仕掛ける。

 燃えさかる炎の矢を。


「ハァァッッ!!!」

「ふんッッッ!!!」


 やはり、カウンターで繰り出したアゥリマの光が威力で超えた。

 ぶつかり合った魔法は眩く爆ぜ、リアはその暴風から瞬間移動で逃げる。

 しかし、暴風をものともしない者にとっては純粋な好機であった。

 眩い光をくぐり抜け、ヴォルガーがアゥリマの懐に入る。


「!!??」

「金剛杵ッッッ!!!」


 魔王の核、その一点を正確に打ち付けるヴォルガーの拳。

 二度、三度と密度の高い魔力の込められた拳が核を突く。

 しかし、魔王のバリアーは揺るがない。


(やはり……このまま攻撃しても破壊はできないか……!!)


 実際に叩いてみて、ヴォルガーはそれを実感した。

 自分一人での破壊は不可能である、と。


「ふぅんッッッ!!!」


 アゥリマの戦斧がヴォルガーに襲いかかる。

 ヴォルガーはこれを回避する……が、


「ガァァァァッッッ……!!!」


 戦斧から放たれるかまいたちのような威力……斬撃を伴う暴風は避けきれなかった。

 ギデオンの持つ霊剣であればぶつけ合うことで抑え込める技だが、ヴォルガーは受けざるを得ない。

 ヴォルガーの体に無数の傷がつく。一つ一つが深い。


「ヴォルガーくんっっ!!」


 ラピアは吹っ飛ばされたヴォルガーの巨体をなんとか受け止めながらその傷を癒した。

 ヴォルガーはすぐにでも反撃に出たいところであったが……


「はぁぁっッッッ!!!」

「ぐぅぅぅッッッ!!!」


 アゥリマの追撃がヴォルガーを襲う。

 ラピアを庇うように、その攻撃をヴォルガーは受け止める。

 攻撃を受けながらラピアの回復も受けるいたちごっこのような状態。

 いっそラピアから離れて突撃したい気持ちであったが、実行すれば内臓や骨まで達する傷を受けるだろう。

 あの戦斧を攻略できない限りは核の破壊も叶わない……。

 ヴォルガーが糸口を見いだせずにいた、その時であった。


「ハァッッ!!!」


 ガキィィィン!!!


 アゥリマの猛攻を止めたのは、勇者ギデオンの投擲した霊剣であった。

 技の届かない距離から投げた霊剣はものの見事に戦斧へと衝突し、動きを止めた。

 やはりヴォルガーと対峙している限り、アゥリマは他の面々の行動を察知することができない。

 とはいえ、これだけではむしろ武器を投げたギデオンの方が不利だ。

 それを承知のアゥリマは次の行動に移ろうとするが……


「アゥラム・クロゥロッッッ!!!」


 戦斧を光の矢が捕らえた。

 その攻撃の主は、宙に浮いたリアであった。 ヴォルガーが対応している隙に左手へと溜め込んだ魔力で放った一撃、その光が戦斧に届いたのだ。

 ……届いた光は、あっけなく雲散霧消したが。


「!!!??」


 しかし、あっけなく雲散霧消した光にアゥリマはたじろいだ。

 長年の死闘による勘が、魔王の脳に警鐘を鳴らしていた。


「アゥリマッッッ!!!」


 警鐘の隙をつくように、ギデオンがアゥリマに接近し霊剣を手に取った。

 そして霊剣で斬りかかると、必然的にアゥリマは戦斧で対応する。


「無駄だぁぁぁッッ!!!」


 ギデオンの霊剣とアゥリマの戦斧が、重い金属音を立てながら幾度となく打ち合う。

 ギデオンはアゥリマの猛攻を着実に受け止めているが、お互いの力量差を考えればやはり結局はアゥリマが勝る展開だ。

 ……そのはずだが、アゥリマは打ち付けた戦斧から微かな違和を感じ取った。


「……ッ!?」


 ギデオンが攻めたのは、それと同時。


「ルキアート・ゼブルッッッッ!!!」


 ギデオンは膨大な魔力により破壊力を増した霊剣を振るう。

 アゥリマはそれを戦斧で確かに受け止めるが、しかし――


 ガキィィィィィィン……!!!


 重い金属音と共に、戦斧が砕け散った。

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