ep.final『胎動』⑥
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「フンッ!!!」
「ぐぅぅぅ……!!」
魔王城の屋上庭園……勇者ギデオンと魔導師リア姫は、魔王アゥリマとの最終決戦に臨んでいた。
状況は不利としか言いようがなかった。
自らより遙かに上の実力を持つ魔王アゥリマにたったの二人で挑むのはあまりにも無謀。
勇者ギデオンは暴食の霊剣で魔王アゥリマの振るう戦斧アズ・ダハーグと鍔競り合う。
――鍔競り合うといえば聞こえはいいが、アゥリマの圧倒的な膂力をギデオンが必死に堪えているというのが実状だ。
「我の戦斧を相手にここまで耐えられるとは……褒めてやろう」
アゥリマは全身を包む黒い鎧の向こうで余裕の笑みを浮かべた。
人間に近いフォルムでありながら人間を明らかに超えた巨体は、見た目の印象よりも遙かなパワーを発揮している。
この戦いの隙を突くようにアゥリマの背後に現れたのは、魔導師リア姫だ。
得意の空間魔法で死角から攻撃するシンプルな戦法。
位置取りは申し分ない、しかし……
「甘いッッ!!」
アゥリマは戦斧でギデオンを圧倒しながら、後ろに振り返ってリアをめがけて熱線を放つ。
「ハッッッ!!」
矢のようにリアから放たれた炎はアゥリマの熱線とぶつかり合う。
相殺――はできなかった。勢いこそ弱められたものの、アゥリマの熱線はリアの炎を貫通した。
「くっ!!」
リアは瞬時の判断で瞬間移動し、アゥリマの熱線を回避する。
直進するだけの熱線は明後日の方向へと消える……はずだった。
「!!?」
熱線はぐにゃりと軌道を変えた。
リアの退避した方角へ、柔軟に。
「っっっあぁぁぁぁ!!!」
咄嗟にバリアーを張ったリアだが、即席の壁では衝撃を殺しきることはできない。
軌道を変える術にリソースが割かれている分、その威力は低減している……それでもなお、リアには殺しきれないほどの衝撃であった。
直撃こそ回避したものの、その体は吹き飛ばされて石畳を削る。
「らぁぁぁッッッッ!!!」
リアの生んだ隙を無駄にはしない、とギデオンは既に動き出していた。
振り返り、リアに攻撃した瞬間のアゥリマに飛びかかり霊剣を振り下ろす。
「ふんっ!!」
しかし、その攻撃もアゥリマにはお見通しで、ギデオンは土手っ腹へと強かに拳を打ち付けられる。
「ぐぁぁぁぁぁっっっ!!」
そしてやはり、その体は砂煙を上げて石畳を擦る。
しかし、いかに魔王の攻撃が直撃したといえどギデオンも勇者だ。
痛みに耐えて瞬時に立ち上がり、再び攻撃……そう考えていた。
「がは……っっ!!」
立ち上がった瞬間、ギデオンは吐血した。
戦斧による切断といった致命的なダメージこそ回避できていたものの、ギデオンは既に何度も魔王の攻撃を受けている。
そこに加えられたボディブローは、とうとうギデオンの内臓を大きく損傷した。
素早く立ち上がる、というその動作・衝撃が吐血の引き金になるほどに。
「なかなか面白い余興であった」
気がつけば、魔王の掌が光り輝いていた。
ギデオンは回避行動に移ろうとしたが……動けない。
リアもダメージを受けているのは同様。この攻撃に気づき、フォローに入るにはラグがある。
それでも、勇者ギデオンが自らに鞭を打って動き出すまでは一瞬だ。
あるいは、魔導師リアがフォローに入るのも一瞬だ。
――魔王アゥリマの前ではあまりにも悠長な時間である。
この長い一瞬に魔王アゥリマが閃光を放つ……その時であった。
「――!!??」
アゥリマが突然、何かに強く反応して閃光の放つ先を上空に変えた。
ギデオン達には理解できない奇行であった。
自分に浴びせるはずの攻撃を、何故虚空に向けて無駄撃ちしたのか。
しかし、その行き先を見て理解した。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッッッ!!!!」
ヴォルガーとラピアがいた。
魔王の閃光は、上空から降下する二人に向けて放たれたものであった。
この状況であれば、ギデオン達の理解は早かった。
ヴォルガーがアゥリマに向けて『殺気』を放っているのだ。
殺気を受けた者は、放った者を優先的に攻撃せざるを得ない。他を攻撃した方が有利と頭で理解していても、その通りに体が動かない。
ヴォルガーの技術は、魔王にすら通用したのだ。
そして、ヴォルガーは放たれた閃光を――回避した。
正確には、僅かにぶつかりその衝撃に敢えて弾かれた、というところだ。
突然の対応で、アゥリマの狙いが甘かったというのもある。威力も十全には発揮しきれていない。
だからヴォルガーは閃光を片腕で受け、弾かれることで最大限にダメージを軽減し対応した。
一人で受けていれば腕がどうなっていたかわからない攻撃であったが、今はラピアが共にいる。
ラピアがその魔力でヴォルガーの腕を守り、同時に癒した。
かくして、魔王の攻撃にもほぼノーダメージで戦場に降下したヴォルガーは――
「竜角破砕脚!!!」
その勢いのままに脚を振り下ろした!!
魔王アゥリマの頭から雄々しく生えた角を折らんばかりの破壊力を持った脚を!!
「ぐぬぅぅぅぅ……!!!」
しかし、アゥリマはその破壊力を片腕で受け止めた。
その衝撃は生半のものではなく、ズゥゥゥゥゥゥンという重い音とともに石畳が沈み込む。
奇襲には成功したが、ダメージを与えるには至らなかった。ヴォルガーはその事実を理解し、石畳に降り立った。
「貴様ら……そうか。報告にあった勇者パーティの片割れか……!!」
「……第二ラウンドだ、魔王アゥリマ」




