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ep.final『胎動』④

「しかし、これだけの面々……全員ピーちゃん達が運んできたのか?」


 ヴォルガーが素朴な疑問を口にしたその時、空が巨大な影に覆われた。

 新手の魔物か、と一瞬警戒したが見上げてみればそれは明らかに人の手によって造られた飛行船であった。

 これで運ばれてきたのか、と得心するヴォルガーとラピアに、飛行船からスピーカー越しに声が響いた。


『ひょーっひょっひょっひょ!!! 助けに来たぞい英雄達よ!!!』

「そ、その声は……777番さん!!?」


 聞き間違えるはずもない。それはかつて富豪だけが住む街ピロメロスで開催された闇オークションでヴォルガーを落札し、そして和解して解放した資産家777番の声であった。


『自分も来たッスよ!! ラピアさん、ヴォルガーさん!! 魔王城まで突っ切るからとりあえずこの船に乗るッス!!』

「ルカさんも……!!」


 他でもない、救援の依頼をした新聞記者・ルカも現地に来ているらしかった。

 仲間達はヴォルガーとラピアを魔王城に届けるべく、襲いかかるゴリラと影を食い止める。

 一時の別れと激励のため、思い思いの言葉が響いた。


「魔王討伐の経験者としてあたしが保証する!! あんたらなら勝てるよ!!」

「戦いが終わったらまたうちに来い!! 俺の息子に会わせてやる!!」

「人類を救う戦いに参加しても、まだ君個人には何もできてない!! 恩赦を貰えたら君にお詫びと……お礼をさせてくれ!!」

「おししょー様!! 一番弟子として、あなたに教えてもらった技で道を切り開いて見せます!!」

「今度こそ決着をつけるでござるよ!!!」

「キョキョキョキョーーーッッッッ!!!」


 不死鳥(フェニックス)達の背に乗りながら、ヴォルガーとラピアは小さくなっていく仲間達の姿を見送った。

 空を飛んで飛行船に向かえば、必然的に空に浮く魔王城との距離も近づく。

 いよいよ最終決戦も近づいている、という実感も沸いてくる。

 襲い来るハネゴリラ達は、背中の空いている不死鳥(フェニックス)達や地上の仲間達がなんとか抑えてくれている。

 その隙に、ピーちゃんの背に乗ったリッケが近づいて荷物をラピアに渡した。


「最高のポーションを用意したわ!! あんたらと魔王城にいる勇者達の分、ちゃんと役に立てなさいよ!!」

「ありがとうございます!!」

「しかし、リッケさん達が来てくれて助かった。魔王城へ向かうのが随分と楽になった」

「……っていうかあんたら、どうやって空に浮かぶ魔王城に行くつもりだったのよ!! 準備する暇が無いのはわかるけど!!」

「全力でジャンプすれば届くという算段だった」

「あんたそれは……いや、あんたなら届きそうね……」


 ふれあい不死鳥(フェニックス)牧場での戦いを思い出して、リッケはしみじみそう思った。


「とにかく、露払いはとりあえずあたし達に任せて飛行船に乗り込みなさい!!」

「かたじけない!!」


 不死鳥(フェニックス)の背に乗って飛行船に乗り込むヴォルガーとラピア。

 その際、飛行船を強力な結界が覆っていることに二人は気づいた。

 乗り込む時だけ、入り口周りの結界が解かれた。


「ハネゴリラを寄せ付けない程の強力な結界……こんなに魔力を消耗しながら飛んで大丈夫なんでしょうか……」


 ラピアは少し心配になったが、魔王討伐の前に細かいことを気にしてばかりもいられない。

 飛行船に乗り込むと、ルカが二人を出迎えた。


「事態が急に動いて慌てたけど、魔王討伐にはなんとか間に合ってよかったッス!!

「ルカさん!! 皆さんを連れてきてくれてありがとうございます!!」

「影みたいなやつが現れたせいで来られなかった人も多くて大変だったんスよ!!」

「やはり、あれが現れた影響も大きいわけか……」


 空から地上を見下ろすと、いくつもの影が動いているのがわかる。

 俯瞰して見れば、やはりその目的地が魔王城であることは明らかだ。

 この被害を止めるためにも、魔王城へ急がねばならない。


「ひょーっひょっひょっひょ!!! ヴォルガー、元気そうで何よりじゃ!!!」

「777番さん!!」


 運転席から話しかけてきたのは他でもない、777番である。


「助力はとてもありがたいが……こんな立派な飛行船、どうやって用意したんだ!? 確か俺と別れたときは、資産を使い果たしたうえに50億の借金をしていたはずだが……」

「あの後新しい事業を始めて大儲けしたんじゃあ!!!」

「え゛っ!!? まだあれから数ヶ月しか経ってないはずだが……」

「ひょーっひょっひょっひょ!!! 頑張ったんじゃあ!!!」

「そ、そうか……」


 こうも力強く断言されては、納得する他無かった。


「そうだヴォルガーくん!! 今のうちにポーションを飲んでおきましょう!! 魔王との戦いの最中に飲む暇があるとは思えません!!」

「あ、ああ!! そうだな!!」


 リッケから貰ったポーションは四本。ヴォルガーはそのうち一本を、ラピアは三本を飲み干した。


「あっ、ラピアさんそれは勇者さん達の分ッスよ!!?」

「大丈夫です!! 私が取り込んだ分をギデオンくん達に渡せるので!!」

「あ、ああ、そんなこともできるんスね!!?」


 リッケから貰ったポーションの効果はすぐに現れた。

 凄之との戦いの後、精神的なダメージを抱えて食事も取らずに眠り続け、そして魔物の群を走り抜けたヴォルガーの疲労や体力の低下が一切感じられないほど万全の状態となった。

 この充実した力を出し切って魔王と戦う……その決意が改めて固くなる。


「うぉぉぉぉ……気を抜くと体に取り込んだ莫大なエネルギーが漏れ出てしまいそうです……!! 早くギデオンくんとリア様に届けないと!!」


 飛行船は危なげなく進み続けている。

 襲い来るハネゴリラの群も、食い止めてくれる仲間達と結界のおかげで問題にならない……はずだった。

 俄に、飛行船がぐらっと揺れた。

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