ep.final『胎動』③
しかし、感慨に耽って語り合う暇はない。
ゴリラの始末はナディ達に任せて、ヴォルガーとラピアは魔王の討伐に向かわなければならない。
そのために、彼女達はここまで来てくれたのだ。
ゴリラの群を前にしても全く不足を感じないだけのメンバー……だが、本拠地を守る魔王軍の壁がこれだけの厚さで済むはずもない。
ゴリラが阻むのは陸路。空路にはまた、別の壁がそびえ立っていた。
上空から近づいてくるその影に、ヴォルガー達は気がついた。
空を自由に駆ける雄大な翼と、標的を狩る強靱な肉体を併せ持つ天の支配者たる魔物。
「ハネゴリラだッッ!!!」
そう、ハネゴリラの群が空からヴォルガー達を狙っていたのだ。
陸のゴリラ。空のハネゴリラ。
上空に鎮座する魔王城へ向かうには、どちらも無視できない脅威であった。
実力者揃いとはいえ、空中戦に特化したメンバーは不在の状況。
ハネゴリラの群をどう突破するべきかヴォルガーとラピアが思案していると、周囲の温度が俄に上昇した。そして、閃光のような明るさに包まれた。
光源は、恒星のような煌めきを放つ不死鳥。
そして五羽の不死鳥とともに現れた女性は、褐色の肌に少女のような外観で、体格は小柄。
しかし彼女の耳は長く尖っており、それは彼女がナディと同様に人間よりも永い時を生きている証であった。
「ヴォルガー! ラピア! 迎えに来たわよ!!」
「リッケさん!! ピーちゃん達も!!」
「魔王城に行くなら翼が必要でしょう? あたし達に任せなさい!!」
「かたじけない……!!」
「あそこじゃもう勇者達が魔王と戦ってるらしいのよ!! のんびりしてる時間は無いわよ!!」
「なんだって!?」
すぐにでもピーちゃん達に掴まって飛んでいきたい状況だが、やはりゴリラの群による妨害は厚い。
ハネゴリラはもちろん、地上のゴリラも空を飛ぶ障害となる。
魔王軍が拠点防衛のために用意するほどの本格派ゴリラであれば、地上にいながら空の標的を狩ることができるという事実は改めて述べるまでもない。
この場に存在するゴリラはその全てが、魔法を扱うことのできるゴリラ……俗にいう、マジカルゴリラであるからだ。
リッケ達がヴォルガーとラピアを運ぶのに集中するためにも、援軍はいくらいても多すぎるということはなかった。
……そもそも、この場の脅威はゴリラの群だけではないからだ。
「ちっ!! 影までこっちに来やがったか!!」
そう叫んだオグニの視線、その先にいたのは迫り来る黒い『影』であった。
魔王城を目指して突き進む影が、この場に現れるのは必然という他ない。
当然、その数は一体ではない……今、目の前に迫っている個体の後ろには、何体もの影が控えていた。
「ゴリラはあんたらに任せた!!」
ナディがそう叫んで、影を押しとどめる。
影に対処するにはまず、魔力を分離させる必要がある。こればかりは、魔法を使える人間でなくてはできない仕事であった。
ナディほどの実力者だ。分離自体は手早くできたが『魔王軍の魔力』を始末必要がある。
ただでさえ、ゴリラとの死闘で人手不足の状況に……。
「くそっ……実際に触ってみるとこの魔力『重い』……ッ」
分離した後、始末せずに維持するのはさしものナディにも負担がかかる。
更なる助けを求めるヴォルガー達の想いに応えるように、耳慣れた元気な声が響いた。
「おししょー様ーっ!!」
ヴォルガーを「おししょー様」と呼ぶ声とともに現れた少女は、登場の勢いそのままにナディの持った影を蹴り飛ばした!!
「あ、あなたは……ヴォルガーくんにしつこく弟子入りを志願している格闘家の女の子・ミミちゃん!!」
「おししょー様っ!! あなたの一番弟子が助太刀にきましたよっ♡」
ミミは例のごとくヴォルガーに抱きついた!
「こ、こらっ!! 俺は弟子をとるつもりは無いと何度も言ってるだろう!!」
「そうですよ!! 離れてください!!」
いつものように頬を膨らませたラピアが追い払うと、入れ替わるように別の影が現れる。
上空からの急降下でヴォルガー達に襲いかかろうとしたハネゴリラが、一瞬のうちに地上へと墜とされる。
あまりの早業に、常人であれば理解が追いつかない。
そのハネゴリラは、鋭利な刃物によって成すすべもなく斬り伏せられていた。
ハネゴリラは、突如現れた精悍な侍によって刀の錆とされてしまったのだ!
「この見慣れた太刀筋――お前は、過去の因縁から俺に何度も勝負を挑んできた東方の国出身の侍・MUSASHI!!!」
「お主を許したわけではないが……決着をつけるのは魔王を倒した後でも遅くはない。それだけの話でござるよ」
「まさかMUSASHIさんまで助けに来てくれるなんて……本当はいい人だったんですね!!」
「キョキョキョーーッッ!!! お二人とも、オイラのことを忘れてもらっては困りますキョーーーッッッッ!!!」
「お前は――道化師のマシュマロさん太郎!!!」
「ふふふっ!! 貴方みたいなキャラクターの濃い人、忘れるわけがありませんよ!!」
今のヴォルガーとラピアには、力を貸してくれる人達が大勢いる。
特段面白いことも無いので割愛されたエピソードも多々あるが、とにもかくにも彼らの戦いは無駄ではなかったのだ。




