ep.17『憧憬』④
陽射しになびいてキラキラと輝く金色の髪と、澄んだ空のように青い瞳。その美しさが第一印象だった。
その青さに目を奪われたラピアは、第二印象で少し違うものを感じた。
瞳の奥底にある寂しさが、その青さから輝きを奪っているような、そんな印象を。
その寂しさを見出した戸惑いのせいだろうか。
当時、長く伸ばしていた前髪の向こうから、ラピアはじーっと見つめてしまった。
すると必然的に、少年の方もラピアの視線に気づく。
「……何」
鬱陶しいという感情を隠しもしないぶっきらぼうな声が、ラピアに突き刺さった。
ここでラピアは二つの事実に気がつく。
この少年の着ている服は、格闘技のいわゆる胴着だ。
この少年こそが、マザーの言っていた英雄のお弟子さんだ。
会う前に心の準備を……と思っていたのに、なんたる運の悪さか、いつもの場所に当人がいた。
そして気づいたもう一つの事実は、この少年が片脚立ちをしていることだ。
右脚を軸にして、左脚を少し浮かせている。
よくよく見れば両手もどこかポーズを取っているようだ。一人で遊んでいたのだろうか?
それにしても、どういう遊びなのかはわからない。
そんな風に思考を巡らせている間も、少年は面倒臭そうにラピアを睨んでくる。
とりあえず、先ほどの「何」に答えなければ。
「えっと、えっとあの、私、いつもここで作業をしてて」
「……そう」
相変わらずぶっきらぼうに返事をすると、少年はラピアから視線を外して自分の遊び? か何かに集中し始める。
こんな風に冷たい態度を取られると、近くにいるのが気まずくなる。
かといって、ここで去るのも何か拒否しているようで気が引ける。
しかし、向こうとしてはラピアにどこかへ行ってほしいのかもしれない……。
あれこれ考えた末に、ラピアは恐る恐るベンチに座った。
怒ったらどうしよう……とも思ったが、少年は黙々と自分の遊び? を続けていた。
ラピアも自分の作業を始めようかと思ったが、どうしても気になる。
この少年がやっているのは、実際のところなんなのか。
片脚は先ほどよりも上がり、両腕のポーズもじわじわと変わっている。
疲れないのだろうか? という単純な疑問も浮かんだ。
「あっ、あの……」
「何」
ぶっきらぼうな返事に、ラピアは思わずびくっと震える。
「それはその、何をやってるのかな……って」
「鍛錬」
「タンレン……?」
少年の端的な返事は、要領を得ないものだった。
「一つの動作をゆっくり時間をかけてやる鍛錬」
「あっ」
遊んでいるのかと思っていた少年の動作は、歴とした格闘技の練習だったらしい。
ならば、こうやって話しかけていたのは邪魔だったのか、とラピアは焦った。
「あっ、あの、ごめんなさい、私わからなくて」
「別に。これくらいで乱れてたらどっちにしろダメだし」
そう返す少年の言葉はやはりぶっきらぼうだったが、その分本音であることも伝わって、ラピアは少しほっとした。
しかし、鍛錬の真っ最中ならばやはり一緒に遊ぶ必要はないのだろうか。
とはいえ、鍛錬が終わってから遊ぶという選択肢もあるし。
マザーから遊ぶように言われてるし……。
考えがまとまらないまま、ラピアは少年に尋ねた。
「あのっ、私、この教会のシスターで、貴方と遊ぶように言われて」
「いらない」
「……うん」
提案は、にべもなく断られてしまった。
ラピアは今すぐどこかに逃げたい気持ちになったが、すぐに逃げ出すのもむしろ気まずくて、いつも通りにベンチで作業を始めた。
黒い革ベルトに圧縮した魔力を込めるこの作業は、知らない人からは少し奇異に見えるものだ。
だから少年が「何やってるの」と聞いてくることもラピアは内心期待していたのだが、結局少年は何も聞かずに自らの鍛錬に集中していた。
期待していたことが恥ずかしくて、ラピアは余計に俯き黙り込んだ。
ラピアはただでさえ難しい作業をいつもより多く失敗したし、二人はこの日、これっきり喋らなかった。




