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ep.15『兄者』⑦

「……そうまでして、生に執着(しがみつ)くのか」


 ヴォルガーも最早、迷いを振り切った。

 人間であることを捨てた、かつて兄者と慕った男の姿に、説得の余地が無いことを悟らざるを得なかった。

 ただ静かに、拳を構える。

 それは、凄之も同様であった。


「ふんッ!!!」


 お互いに拳を構えれば、ゴングが鳴るのは早かった。

 次の刹那には、ヴォルガーの拳は凄之の胸に鎮座する核へと飛んでいた。

 目の前の魔族を、決定的に絶命させるべく。

 しかし、ヴォルガーの拳は黒い核に届かない。


「!!!」


 その拳は、凄之の足に阻まれた。

 凄之の左足、その裏側が確かにヴォルガーの拳を受け止めていた。

 片足で立ち、片足で衝撃を受け止めるこの体勢……バランスを崩して当然の状態であったが、凄之の安定感は微塵も揺らぐ様子はなかった。

 それどころか、ヴォルガーが『受け止められた』と気づいたその時には、凄之の体はふわりと浮き上がり……ヴォルガーの拳、その上に立っていた。

 ここでようやくヴォルガーは悟る。

 凄之は決して拳の衝撃を全て殺したのではなく、むしろそれを利用して動いたのだ、と。

 そこに気づいた時には、凄之の蹴りがヴォルガーの眼前に迫っていた。

 ヴォルガーの拳に立つ凄之、その位置から放たれる蹴りは対応を間違えれば顔面を砕くだけの威力は十分にあった。


「ぐっ……!!」


 ヴォルガーは瞬時に、空いた方の手で凄之の足を受け止める。

 この防御は確かに、凄之の威力を削いだ。

 しかし、凄之の防御のような次に繋がる華麗な動作ではなく、純粋に負傷を軽減するために防御だ。

 これを受け止めたヴォルガーは、ただ吹き飛ばされるのみであった。


「く……っっっ!!!」


 吹き飛ばされたヴォルガーは両足で地面に踏ん張り、土煙を上げてブレーキをかける。

 飛ばされるがままでは、凄之のペースに巻き込まれてしまう。

 果たして、かろうじて踏みとどまったヴォルガーに、凄之の追撃が襲いかかる。

 顔面めがけての跳び蹴り……それに襲われるヴォルガーの視点では、まるで凄之の足裏が急激に巨大化していくようであった。

 自分を踏み潰さんとする巨人の足――その『首』を、ヴォルガーは掴み取る!!


「らぁッッ!!」

「!!!」


 そして、凄之の体を石畳に強か叩きつけた!!!

 凄之の体重にヴォルガーの衝撃が加わったこの威力に、叩きつけられた石畳は壮大に割れ、砕けた!!!


「ぐっ……!!!」


 さしもの凄之であっても、負傷は免れないこの攻撃。

 しかし、叩きつけた瞬間、衝撃のあまりヴォルガーは掴んだ足首を手放してしまう。

必然的な、隙が生まれた。

 次の刹那には、つい先ほど叩きつけられた凄之の足が、ヴォルガーの顎めがけて放たれていた。

 ヴォルガーの防御は間に合わない。

 ただ、ヴォルガーは見て取った。

 凄之は無防備で石畳に叩きつけられたのではなく、きっちり両腕で受け身を取ってダメージを軽減していた。

 そして、その両腕をバネにして追撃に転じた――。

 そう解釈した時には、ヴォルガーの顎は凄之の足に捉えられていた。


「がぁぁぁぁぁッッッッ!!!」


 強烈なアッパーカットを食らい、ヴォルガーの体は浮き上がる。

 この状況では、強いて衝撃に抗うべきではない。

 まずは浮き上がるのに身を任せて、距離を取ったところで体勢を立て直す。

 ……そんなヴォルガーの思考は、凄之にはお見通しであった。

 ヴォルガーが体勢を立て直す、その前に可能な限りのダメージを与えるべく、凄之の足は一瞬のうちに何重もの連撃をヴォルガーに叩き込んだ。

 圧倒的脚力で、ヴォルガーの体は天井へ向けて吹き飛ばされる。

 一方の凄之は、地上へと降りる。

 重力に任せて地上に落ちては、またしても凄之のペースで攻撃されるのは間違いない。

 天井へと吹き飛ばされたヴォルガーは咄嗟の判断で、天井を掴んだ。

 石造りのそれに、指で穴を開ける形の力ずくで。

 地上から遠く離れた天井、そこでの機転はさしもの凄之でも気がつくまでに時間を要した。

 ヴォルガーは掴んだ天井を起点に、その腕力で飛んだ。凄之の背中側へと。


「!!??」


 凄之から見れば、あたかもヴォルガーが突然消えたかのような早業であった。

 無論、凄之もこれを受けて呆然と立ち尽くすはずがない。

 ヴォルガーの次の一手に備えるべく、瞬時に備える。

 しかし、達人同士の戦いには瞬時の判断すら間に合わぬ瞬間がある。

 凄之が気づいた時には、ヴォルガーは眼前に迫っていた。

 人間砲弾と化したヴォルガーの、猛烈なタックルが。


「くらえぇぇぇぇぇッッッッ!!!」


 ヴォルガーという超重量級の砲撃に対して、凄之は腕を胸の前で交差して防御した。

 これによりボディへのダメージは軽減される。

 が、砲弾の勢いを殺すことはできない。

 凄之はボディを庇いながらも、意趣返しのように吹き飛ばされて背中を強かに壁へと打ち付ける!!


「ガハァッッ!!!」


 壁はひび割れ、凹み、砕ける!!!

 この機を逃すまいと、ヴォルガーは畳みかける!!

 壁に磔となった凄之へと、目にも止まらぬ速さで拳を叩き込む!!


「らぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!!」

「ぐ……ッッッッ!!!」

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