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第12話 水没星の災い

 アステルはリトに連れられ、水没星に一緒に調査に来ていたラナデを発見する。

 ラナデは狩ったであろう生物の山の前に、頭だけ出るように体が大きな葉で包まれて拘束されており、アステルは腰に付けていたナイフで葉を裂く。


「怪我は無さそうだね、良かった。さっき思い出し……んぱいしてたよ」


「あの、今、さっき思い出したと──」


「心配してたよ。ところで、メモ姉は?」


 8割方言ってしまい殆ど無意味だが、アステルは忘れていたことを悟らせまいと話を逸らす。


「シュメちゃあぁぁん、ラナくうぅぅん! やっと通信できましたぁー! ふたりとも無事でしたか?!」


 突然何も無い空間に手のひらサイズの女性が現れたかと思えば、アステルとラナデの目の前を行ったり来たりと慌ただしく動き回る。


「あ、メモリーお姉さん。僕は無事です。今さっきアステル先輩に助けてもらいました」


「ということは無事ですか? 無事なんですか! 無事なんですよね?! 良かったです!」


 メモリーはアステルとラナデ、特にラナデの方を頭の先から足の先までまじまじと見て怪我がないことを確認する。

 そして、確認を終えるとようやく周囲の様子目が行ったようで、アステルの後ろに立っているアクア・リタとリトと目が合った。


「むっ!? シュメちゃんラナ君、お姉ちゃんの後ろに隠れてください、隠れられるほど大きい背中じゃないですけれど。お姉ちゃんがふたりを守りますよ、物理的に触れないんですけれど!」


 メモリーはアステルたちの前に出ると、アクア・リタとリトに向けてシャドーボクシングをして威嚇する。

 アクア・リタたちは何をしているのか分からず、初めて見るものを珍しそうにを眺めていた。


「あの、アステル先輩。助けてもらえた喜びですっかり忘れてたんですけど、何でその方たちと一緒に居るんですか?」


「まずはその話をしなくちゃだね。それと、ラナデ君は言葉之星地(ことのはのせいち)の出だったよね?」


「はい、そうですけど……」


「じゃあ、ちょっとお勉強しようか」


 それからアステルはアクア・リタたちに時間を貰い、別れたあとの情報共有と、水没星の言語をみっちりとラナデに叩き込んだ──。





「──と、こんなところかな。難しかったら逐一記録を確認しながら話してね」


「いえ大丈夫です。かなり単純な言葉の組み合わせみたいなので、大体覚えました」


「へえ、いいね。手間が掛からなくて助かるよ。他の子と調査に行ったときは、調査期間の半分を使ったり、あまりに覚えてくれなくて諦めたこともあったからね」


 言語の特徴だけ捉えてくれれば良いと思っていたが、予想以上にラナデの言語学習能力が高く、アステルは少し感心する。


「それじゃあそろそろ、アクア・リタ君たちの置かれている状況を聞かせてもらおうか。急いでるようだし手短にね」


 アクア・リタとリトは目を合わせると、お互いに頷く。


「これは俺たちがまだ幼い頃に、先々代のアクア、タバ様に聞いた話だ。

 その頃はまだ、この辺りの水も今よりも少なく、“ソナタ”と呼ばれるリミナの外の者たちとも交流があったんだ。リミナの者もソナタの者もともに狩りに出て、狩った獲物を囲って食事をする。そんな日々を過ごし、誰もがそれが続くと思っていた。

 この辺りではリミナの壁が降りた頃、大きな水辺にゲコが大量に集まることがあり、集まるゲコによって、ゲコを狙うやつらが変わるものだから良い狩り場になる、と印を付け皆が楽しみに待っていた。

 ある日、一際大きなゲコが集まり始めていた。皆はそのオオゲコを見て、これは大きなやつらがやって来るぞと喜び、近くの草むらに隠れて様子を見ていた。

 暫くすると、予想通りオオゲコを狙うやつらが現れ、皆は一斉に飛び出した。

 しかし、突然何かの腕のようなものがその場のものに無差別に襲いかかり、捕まったものたちは水中へ引きずり込まれていってしまった。

 そして、姿を見せたかと思えば、ルオロートルに匹敵するであろう体躯を持つ、頭から腕が7つ生えた巨大なやつが現れた、それが“マゴマゴ”だ。

 辺りにいた獲物たちはマゴマゴを見るなりすぐに逃げてしまい、このままでは次にリミナが壁に覆われたとき、食べるものが無くなってしまうからと、一同はマゴマゴを狩ることに決め、一斉に襲いかかった。

 そのときはタバ様も参加していたこともあり、結果的には狩ることができたが、まだ経験の浅い若者たちが10名ほどやられてしまった。

 それからというもの、度々オオゲコが集まることがあったのだが、そのときは必ずマゴマゴが出てくるからと、オオゲコが集まったときはて手練れの者だけがそこに狩りに行くようにしていた。それでも毎回4人程は犠牲になってしまっていたらしい。

 だが皆は、狩りをしているのだ。我が物顔で蹂躙しているわけではない。本気でぶつかり合っている以上、犠牲はつきものなのだ。そんな中でも皆は連携を取り、少しでも犠牲を出さずに狩りをしていたんだ。

 だが、暫くオオゲコが姿を見せなくなり、皆はこの辺りにいなくなってしまったものだと思っていた。

 オオゲコが現れなくなってからリミナの壁が10回程囲い、そして開いた頃、今まで以上にオオゲコがが集まっていた。

 その頃ちょうど狩りで足を負傷していたタバ様はリミナに残り、何度もマゴマゴを狩りに出ていたソナタの主の者と他の手練れの者たちを集めて、マゴマゴ狩りに出た。しかし、どれ程長く待っても誰ひとり帰ってこず、不思議に思ったタバ様がふと様子を見に行ったのだ。

 ただ、探しに行ったはいいが、草木も水気もない見慣れぬ平地だけが続き、いくら歩いても見知った場に着かなかった。不審がったタバ様は、ふと辺りを見回したのだ。そして、あるものが目についた。

 探すことに夢中になっていて気付かなかったが、確かに狩りの場につけた印があった。そう、タバ様は既に狩りの場に来ていたのだ。

 そのことに気付いたタバ様はすぐに、そこに居るはずの、狩りに出た者たちを探し回るが、呼び掛けても誰ひとりの返答すら返ってこないない。

 タバ様は、きっと皆はマゴマゴを追って少し遠くに行ってしまっただけなのだろう、と一度リミナに戻ろうとした。そのとき、見てしまったのだ。土の中から生える無数の手や足を。 タバ様はすぐに土をかき分けて掘り出したが、出てくるのは誰のものかも分からない程に様々な形に変形した腕や足、頭らしきものばかり。

 かろうじてひとり、草むらの中に息のある者を見つけたが、掘り起こすと腹から下がすべて潰れてしまっていた。その者がもう長くないことを悟ったタバ様は、何が起きたか聞いたんだ。

 するとその者は、今にも消えてしまいそうな声でこう答えた。

 “いつも通りマゴマゴが来たが、腕が4本しか残っておらず、好機だと思い狩ろうとしたんだ。しかし突然、何か大きいものが水の中からマゴマゴに襲いかかったかと思えば、すぐに喰い殺してしまった。

 そしてそれは、マゴマゴだけでは腹が膨れなかったのか、自分たち目掛けて襲いかかり、周囲の地形を変えるほど暴れ回った。

 自分たちは、このままではリミナにまで被害が出ることを案じて必死に抵抗したが、抵抗むなしく傷1つ付けることもできずに蹂躙させられてしまったのだ”と。

 そしてその者は、タバ様の手を取り、自身の頬に当てると、最後にこう言い残して息絶えた。“あれは獲物なんかではない『災い(ディコン)』だ”、と。

 ただひとり愛した者の凄惨な最期を見届けることになったタバ様は、オオゲコの群れが出た際には、絶対にリミナから出ないことを皆に伝えた。それからというもの、もう何度もオオゲコが集まっていなかった反動か、しばらくの間オオゲコは集まり続けた。

 そうしてソナタの者たちとの関わりも次第に少なくなっていき、いつしか関わりが途絶えてしまったのだ」


 アクア・リタは話を終える。


「うん、ありがとう。ただ手短にって言ったけど、思ってた10倍は長かったね」


「そ、そうか? それはすまなかった。これでも簡潔に話したつもりだったのだが……」


「気にしないで、良いこと聞けたから」


 アステルは、僅かに分かる程度に神妙な面持ちで顎に指を当てると、


災い(ディコン)か。それがきっと、“星主”だね」と、呟いた。

 第12回 メモリーお姉ちゃんの豆知識!


 『星主』について


 星主とは、その星の生態系の頂点、その種の頂点や代表となるものを示す言葉です。


 ここで、星主について語る前に1つ。

 ログステーションでは、惑星の名を付けるとき、『記録名称』と『惑星通名』の2つを付けています。


 記録名称とは知的生物の有無に関わらず、未記録の星には天体邂逅部の発見者の子が、ログステーションに記録するために付けるもので、“水没星バルパの場合は水没星”の部分を名付けます。

 そして、星主と惑星通名の命名にはの共通性を持つようにしており、一定レベルの文明を築ける知的生物の居る星には、天体邂逅部の子たちが赴いた際、その星で一番影響力のある生物つまりは星主を聞き、その名を惑星通名にします。

 逆に、一定レベルに達した知的生物が見当たらなかった場合は、天体邂逅部内で話し合い・投票などの末に名を付け、付けられた星の名に合わせて星主の名を付けているんですよ。


 ただ、シュメちゃんの出身星、仙寿天命星などの調査の難しい星では、情報が無さ過ぎるので、調査段階での仮の星主を設けることもあるんです。因みに、仙寿天命星の星主は今のところシュメちゃんになっていますよぉー。

 皆さんの住む地球は、ログステーションの記録名称には、『生命之星(せいめいのほし)地球』、星主『地球人』と記録されています。

 地球を発見した際にはシュメちゃんが調査に赴いており、その頃は確か、“江戸”と呼ばれていた頃でした。今でも記録研究部の子たちが地球に赴き、新たな記録やサンプルを持ち帰ったりしているので、もし出会ったときはそっと見守るか、仲良くしてあげてくださいねぇー。


 星主の役割としては、ログステーションと交流・交易をしている星では、星主の方が代表して話し合いをします。

 特に交流も無く、尚且つ知的生物に該当する生物も居ない星では、その星がどのような環境かの指標生物の役割を持っているんですよ。

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