第十三話 職員規律違反
「アステル=モシュメ、そろそろオオゲコが居たところへ案内してくれないか?」
アクア・リタは、自分たちリミナの者が現在置かれている状況を伝えると、アステルがオオゲコを見つけた場所を教えてもらえないかとお願いする。
しかし、
「うーん、そういわれてもなぁ……」
アステルは快く受け入れることはせず、腕を組んで悩み始める。
「何か困ることでもあるんですか? 教えてあげれば良いじゃないですか」
アステルがなぜ渋っているのかとラナデが不思議がって見ていると、メモリーがその場から少し離れるように手招きをする。
「どうかしました?」
ラナデがメモリーの元へ歩いて行くと、メモリーは耳打ちするようにラナデの耳元へ近づいた。
「あのですね。ログステーション職員、特に調査に出る記録調査部の子たちの規約として、“調査中の星の事象には原則関わらず”というものがあるんです」
そう言うとメモリーは人差し指を立て「これは」と話を続ける。
「星内不接規約とも言いまして、職員が行動したことで、その星の生態系や歴史のあり方を変えてしまうことを危惧するための規約なんです。
仲間の職員の命を守るためや、その人ひとりが居なくなることで、その星の文明が記録する前に途絶えてしまうことを回避するため、記録が完了するまで一時的に保護するなどの場合で無い限り、基本的にその星の行く先を決めてしまいそうな事柄には関わらないようにしなければならないんです」
ラナデはメモリーの説明を聞き、自身の考えなしの発言を申し訳なく思っていると、
「……良いよ。教えてあげる」
アステルがアクア・リタの願いを受け入れると、アクア・リタとリトはその言葉を聞き顔をほころばせる。
「本当か! 助かる。早速で悪いが、今すぐに連れて行ってくれないか?」
「私からも、感謝」
アクア・リタたちが安堵している間に、アステルはメモリーに呼ばれる。
「あのですね、シュメちゃんのしようとしていることは、ログステーションの規律違反行為だということ、シュメちゃんなら理解していますよね? それでも関わるということは、それ相応の理由があるということですか?」
メモリーは真剣な眼差しでアステルの目を見つめる。
「理由、ね……。記録処理部にこう伝えてくれるかな。“危地にて新人調査員ラナデ=ワワイの人命保護の恩義を返すため、一時協力許可を申請する”って」
その場に数瞬の間が流れ、メモリーが「もう、シュメちゃんったら……」とため息をつく。そして、メモリーは困り果てたように笑みを浮かべた。
「分かりました、申請しておきますね。確認処理が行われるまで、ちょこっと待っててくださいね」
「うん、ありがとね」
メモリーが協力許可申請を出している間、話を聞いていたラナデがふとアステルに疑問をぶつける。
「アステル先輩、僕助けてもらった訳じゃなくて、ただ捕まってただけだと思──」
「違うよ。ひとりで居ると危ないから保護されてただけだよ」
最後まで聞くまでもなくアステルは答えた。
「で、でも、それにしては拘束が──」
「あれはきっと、寝ぐらみたいなものだよ」
アステルは「そうだよね?」とリトの方に視線を向ける。
「いいえ、あれは食りょ──」
アステルはリトの口に指を当てて言葉を遮る。
そして、
「“保護”してくれてたんだよね?」
と真っ直ぐに目を見て聞く。
リトはじっと見つめられることに耐えられなかったのか、両手をアステルの手に添えて下ろすと、目を泳がせながら顔を逸らして小さく頷いた。
目のやり場に困ったリトがふとアクア・リタに視線を向けると、アクア・リタはアステルとリトの様子を、顎に手を当てニヤつきながら眺めていた。
「なに? 面白いことでも?」
リトは不服そうに顔をしかめて聞く。
「いや、なんでもない」
不機嫌気味のリトに詰められ、アクア・リタは顎に当てた手を下ろして答えた。
「──はいはーい、伝えておきますねぇー」
そして、申請受理が行われるまで待っていると、ようやく連絡が来たようで、メモリーはアステルとラナデを呼ぶ。
「今回の申請内容で協力できるのは一度きりとのことですが、許可降りましたよ! 生態系に関わる可能性がある以上、手放しで喜ぶことはできませんが、良かったですねぇー」
メモリーは笑ってふたりに親指を立てて見せる。
「本当ですか! 良かったですね、アステル先輩」
と、ラナデは喜び、その様子を見てアステルは少しだけ微笑んでため息を付く。
「全く、誰のせいやらと言いたいところだけどね」
そしてアステルはアクア・リタたちを見る。
「それじゃあ行こうか」
──アステルたちは再びリミナの外に出ると、水没星に着いたばかりの頃、マルタヒキガエルを見つけた場所へと歩いて行く。
「そういえば、アステル先輩と一度別れたとき、水没星に来る時に乗っていたバイクが無くなってたんですけど……」
ラナデはアステルと別れたあと、バイクを駐めていた場所に逃げた際に、バイクが無くなっていたことを思い出しアステルに聞く。
「ああ、バイクはね、サイドカーごとこのバッグにしまってあるよ」
アステルは肩に下げたバッグをポンポンと叩く。
「……? ……。…………?」
「口で言ってもそう簡単には信じられないよね」
そう言うとアステルは、バッグに手を突っ込み探り始める。そして、バイクのグリップらしきものをチラリと取り出してみせる。
しかし、実際に見せて貰ったはいいが、なぜ小さなバッグにバイクが、それもサイドカーごと入っているのか全くもって訳が分からずラナデは困惑する。
「なんか、このバッグのこと教えるとみんなおんなじ反応するね。かく言う私も、調査の帰りに宇宙間で見つけた木の皮を加工したらこれができただけだから、原理はよく分かってないけどね」
「そんなものを使ってて大丈夫なんですか? 実はすごく危ないものだったり、とかだったらどうするんですか」
「私が職員になって少ししてから使い始めたものだから、安全性についてはそこまで心配は無いかな。それに、色々しまえて便利だから」
アステルとラナデが話していると、メモリーがラナデの耳元へ近付く。
「ラナ君ラナ君、シュメちゃんがあのバッグを使い始めてから星歴換算で800年経っているので、安全性については心配いらないと思いますよー」
「は、800年!?」
突然出てきた単位に驚いたラナデの声が裏返ってしまう。
「ん? どうかした?」
「い、いえ、なんでもないです」
「急に奇声を上げて、あなた、変わってる」
リトに言われ、恥ずかしそうに顔を伏せるラナデを、アステルたちは不思議そうに眺めていた。
──そうこうしているうちに、ようやくアステルたちはマルタヒキガエルの死骸を見つけた場所にたどり着いた。
第十三回 メモリーお姉ちゃんの豆知識!
『記録調査部規律』について
今回はログステーション規律ではなく、記録調査部限定の規律についてお姉ちゃんが1箇条ずつ簡単に説明していきますよぉー。
“第1条 離着星時は慎重に行え”
これは、むりやり離星着をしてしまうと、星の文明遺物や生態系成立に必要不可欠なものを壊してしまったり、希少生物が騒音で隠れてしまい、見つけられなくなってしまうのを防ぐための規約です。
“第2条 調査中の星の事象には原則関わらず”
こちらは今回のお話でも話しましたね。
私たちは、その星の進化の過程で不必要な存在であり、残り数匹しか居ない生物を外部の者が保護・繁殖などをしてしまうと、その星の本来の進化過程で淘汰される生物を生かすことになってしまい、生態系が崩れることを危惧するための規約です。
ただし、シュメちゃんがリトさんを助けたように、記録が不可能になってしまう可能性がある場合は、一時的に保護することが許されています。なぜなら、私たちが関わらずに絶滅の危機に瀕している生物は、一度助けただけでは無意味だからです。
“第3条 統率者格を除き、危地での独断行動を禁ず”
記録調査部の子たちは、何度も調査をこなしている統率者格、簡単に言えばリーダーですね。どのような危険があるかも分からない星に、その統率者格の子1~3人を筆頭に、数人から十数人規模の班を組んで調査に行きます。
調査時にアクシデントがあり、統率者格の子が怪我をしてしまったり、運悪く班からはぐれてしまった際、まだ調査になれていない子がむやみに動くとより身を危険に晒してしまったり、生態系に悪影響を与えるのを避けるための規約です。大人しく班員又はログステーションと連絡を取りましょう。
因みに、星間記録課の子たちは全員、統率者格ですよ。
“第4条 全生物を見つけずとも星主は記録せよ”
星主とは、前回豆知識で解説したとおり、その星の代表や指標生物となるので、仮の星主だとしても必ず記録しなければなりません。
全ての生物を見つけなくとも、調査を終えた星は記録を元に、記録研究部の子たちが赴いた際に新たな生物を見つけてくるので、必ずしも見つけなければならないと言うことはありません。まあそもそも、全ての生物を見つけてくるなんて、ほぼほぼ不可能ですけれど。
“第5条 調査中であろうと十分な休息は各自取れ”
こちらは簡単。無理して調査をすると、効率が落ちてしまいますし、体の負担にもなります。
もし無理をして調査をしようものなら、調査を終えてエニフルに帰った際に、生活管理部の子たちにこっぴどく叱られてしまいますからねぇー。
“絶対箇条 優先すべきは職員の命。必ず無事であれ”
この規約は、絶対箇条ともされているだけあって、職員の命を守るためであれば、前述した規約を無視して行動することができます。
もちろん、命の危機に瀕しないよう、慎重に行動することは大事ですが、何事にもアクシデントはつきものですからね。
“特例箇条 調査中、アステル=モシュメに調理させるべからず”
もはや説明不要です。シュメちゃんに調理をさせたら周囲の生態系が根絶やしにされます。何が何でも阻止してください。
これら規律7箇条は、記録調査部に入るときではなく、ログステーションで働くに当たって必ず覚えなければならないものです。
他の部にもそれぞれ規律はありますが、それはまたいつか機会があればお話ししますね-。




