プラン発表 御藍との約束
「なるほど、気軽に食べられるものを」
「そう。やっぱり名物を作るべき。なんで温泉たまごや温泉まんじゅうがないのって、思ったわ。でも、ここ肝心よ。この世界には、食べ歩きの文化はタブー。イートインが必要ね。売り場には必ずベンチを置いて。」
さっきからゴランさんとアオイが、真剣に話し合っております。
二人で、おすすめシエン旅プラン発表会のふりかえりをしています。
いや~面白かったです。学生の皆さん、それぞれの個性を活かしたプレゼンテーションでした。
ナレック・バルザックの『おとこ旅』は、ガードさんたちに「だけ」、好評でした。
水球大会・カルデラ湖観光への速駆け・テント泊・登山・癒しの温泉…。
テント泊にゴランさんは、ポイントをつけました。あちらでは、ゴージャスなテント泊でグランピングってのが流行ってますよ、と私が助言しましたところ、飛びつきまして。
女子三人組の『きまぐれ、安心、女子会旅』は、現実的でした。
情報収集力はピカイチで、隣国の専門料理店や温泉を利用した蒸し野菜店なんかも見つけてきました。ヴァレリオーズの隠れた名産絹織物を加工したバッグや帽子が、ポイント高かったです。何より、女子だけでもOKの施設やお店を発掘してきたところが見事でした。
フローラ・トールマーレの『商会慰安家族旅行』は、もっとリアルです。なにせ商会の予算ですからね。リーズナブルで楽しいところを発掘してきました。河原敷きの露天風呂とか、牧場バーベキューとか、大阪商人か!って、突っ込みたいですね。でも、家族みんなで和気あいあい、ってところが新鮮です。
ミズリ兄弟のは…私くらいですね。賛同するの。
だって、ダム湖見学に地熱発電と関連工場見学、ですよ。んで、フォーラム招聘ですって。
でも、ゴラン氏は
「あり、ですな。学会やフォーラム、シンポジウムなどを招聘すれば、その道の学者さんや専門家が一堂に温泉地に。識者を通じて、シエンを広めていただけますな。」
と認めておりました。貪欲です、温泉王。
で、優勝は…
どっこにも行かなかった、ガカロ・ボラリナと王子が、かっさらいました。
『男もすなる、美容の旅』だそうで。
「昨日さあ、クレアに強酸温泉に浸けられたの!もちろん、すぐ出たけど、お肌つるんつるん!
その後、マッサージとお、エステしたの!ぴっかぴか!こんなの王都にないもん。」
「温泉プールで運動したのは、よかったな。皆の者、卓球も温泉の文化だというぞ!俺は卓球を広めたい!そして、汗をかいたら、更によい汗、岩盤浴だ!」
「「痩身!美肌!シエン最高!!」」
なんか、勢いに乗せられましたが、シエン自慢の施設と、昔からある強酸泉の利点を強調したところが、クレア大満足をもたらしました。
「リーゼンバーグ先生も、お綺麗になったし、やはり女性サイドな点が気に入った。」
さりげにアオイをほめたとこが決定打でした。
優勝!王子とガガロ!
賞品は?
「貴腐ワイン半ダース、牧場直産のチーズの詰め合わせ、温泉水を使った化粧水2セット、です!お二人、愛しい人にシエンの美をお伝え下さい!」
王子もガカロも
「アゼリア~~~~!!」
と合唱しました。
で、学生の皆さんは、クレアの引率で、お土産やさんにお出かけです。
私とアオイは、昨日学院用と王院の学者友だち用を買ってしまっています。
それよか。御藍氏と話したかったのですが。
ゴランさんたら、商魂たくましく、アオイに更に助言を求めていたのでした。
「ふむふむ。全天候のスパですね。それと小径を使った散歩ルート。男の方の施設はない方がよい、と。」
「一度出来ると、増殖するからね、夜のお店って。それよか、家族目線・女性目線がいいと思うわ。徹底的に夜の商売は排除すべき。ほら、宝塚みたいに大きな劇場とか遊園地とかも、これからはいいんじゃない?」
盛り上がっております。
「それからね。荷物は少ない方がいいわ。馬車旅ならともかく、列車だとね。
宅配便みたいなシステム、できない?」
「ううむ。みやげ直送とかですね。トールマーレ商会に助力を仰いでみますか。」
盛り上がって、おります。
こほん!
「あ、申し訳ございません、イーゼさん。つい。」
「いえいえ。御藍氏にご用があって。」
商業スマイルのゴランさんが、こわばりました。
「ー私め、に。」
「はい。」
私はゴランさんに向き直りました。
「御藍さん。私たちは、この旅を終えたら、もう二度とこちらには参りません。」
「…え」
「あなたの転生によって書き換えられたこの世界に、私が来て書き換えた。そして碧さんが同じように。こうやって向こうからの来訪者によって、この世界は少しずつ変化してきた、と私は考えています。」
アオイは、私の隣に座り直して、うんうんうなずいています。
「私の記憶をもったイーゼと、碧さんの記憶をもったアオイが、これからもこの世界で生きていきます。でも、これ以上、私たちが上書きされることはありません。伊勢と碧さんは、向こうで一生を生きていきます。」
恨めしい、いえ、うらやましい、こと、ですな…
御藍氏は、ふ、と皮肉を言って、失礼、と吐き捨てた。
「向こうに戻ったら、貴方に会いに行こうと、思っています。」
「!」
「貴方が生きている可能性は50%。向こうの時間で1年ほどです。そのくらい意識が戻らない患者は珍しくありません。
そして、貴方の覚悟の通り、亡くなっている可能性も50%。
もし、貴方が生きているのであれば、私は医師として、全力で貴方を元に戻します。」
「…死んでいれば」
「貴方のこの生をお嬢さんに伝えようと思います。」
「…藍子、に?」
碧が御藍の手に自分の手を重ねて話し出す。
「貴方は生きていても、向こうで死んでいても、今のゴランさんに、何の変わりもありません。
ゴランさんは、これからも温泉王になるべく邁進するのよね。
私たちは、それを見届けることは、もうかないません。ですが、貴方の今を誰かに伝えることはできるの。貴方の娘さんなら、ほら話とは受けとらないでしょう?」
「私たちは、戻ったら、まず貴方の娘さんに連絡をとりましょう。
貴方の居場所が、病院でも、墓場でも。
貴方に会いに、伺いましょう。」
ゴラン氏、いえ御藍氏は、固く目を閉じて懊悩を隠そうとしていましたが、やがてゆっくり目を開けて、私たちを見据えました。
「お約束、いただけるのですな?
私の治療か、私の墓参か。
いずれにしても、藍子に、私の異なる人生を
お伝え下さるのですな?
私は不幸ではないと。しっかりと第二の人生を生きていると。
生きることは、精一杯なのだと。素晴らしいことなのだと
我が娘に、だから誇らしく生きよと、
お伝え下さるのですな!」
「ーはい。教師に二言はありません。」
「医師の誇りをかけて。」
私たちは、しっかりと握手を交わしました…
「この際ですから、私のへそくりと隠し財産の場所も、藍子に伝えて下さいね。
それから財産相続は、私の友だちの斉藤さんに相談をと。
私の生命保険は金庫に証書が。会社にいくようにと。
それからそれから…」
御藍さーん。
そんなに覚えられませーん。
王子達、お帰りです。
「イーゼ師!最後のダイエットだ!ランニングと筋トレ、行くぞ!」
え~まだ私がお供ですかあ。
侍従さんたちとすればいいじゃないですかあ。
「王子と約束したのだ。今日の千秋楽晩餐会に、この旅で王子が減量した分の特上肉を提供しようと」
クレアがにこにこ説明します。
「さすが選りすぐりの学生達だ。お家やお友達へのお土産は極上品ばかりお買い求めいただいた。王子も無論。おかげで土産屋は大繁盛。サービスをしたいとのことでな。」
「面白いわね…王子の痩せ具合で、みんなのステーキの大きさが決まるってことね!
じゃあ、イーゼ、がんばって!最後の一絞り!!」
私まで、一絞りされるんですけど…
夜。
王子のお着替えタイムです。
「思えば、長かった…筋トレに始まり、水球大会での皆のイジメ、岩盤浴、ありえないスピード登山、そしてビンタ道…今では俺はイヌと同じくらい走り、剣より確実にビンタで討てる。」
そういえば、私、この旅で王子のトレーニングウエア、つまりタオル地のもこもこ姿しか見ておりません。
期待はしておりません。
お顔もお首も、かわりなく、もっさりしてますもん!
「王子ぃ、えらい!」
「フェーベルト、さ、計量だ。」
「お肉~お肉~」
男の子達があおります。女の子はさすがに退出していただきました。
アオイは、人妻ということで、同席です。(出歯亀)
ドルルルルル…
ここはドラム音が欲しいところです。
「いくぞ!」
ばさ、とぬぎぬぎ王子。
「「「!!!」」」
「ぐっ」
「ひ」
「げ」
そこに立つのは、
もっさりむっくりしたお顔とお首をそのままに
その下から、すんなり痩せた
すんげえアンバランスな…
「…こけし(棒)」
アオイさーん、言わないで!
「マッチ棒(棒)」
バルトくん!やめなさい!!
どうしましょう~
顔と首の脂肪をそのままに、目鼻立ちはくっきり麗しく
首から下は、ふつーの身体の
こけし王子 マッチ王子 鍵穴王子
が
できあがりました…
アゼリア ごめんなさい。
「合計 マイナス4.5キロ!痩せましたな殿下!」
侍従さん
そんなお天気な発言
ま、いいでしょう。
客人一人300グラムのステーキですね。
侍従さんガードさんにも、お願いしますよ、ゴランさん。
結局、中途半端に痩せさせました。
次回、アゼリア参上




