柴崎御藍
PCの不調で、書いている最中にダウンしました。やさぐれて羽生君見てました。
今回も理屈っぽい。理屈が嫌いな人、次回をお楽しみに(すでに諦め)
「ごめんなさあい、レーナちゃん驚かせちゃって。みんなあ、ゆるしてえ!」
朝食のテラスで、正気に返ったガカロが膝をついて「おわび」をしている。
米つきバッタみたいに、頭をかくかくして、あせあせしている。
レーナは金の三つ編みをふるふるさせて、
「ガカロさんのせいではございません!貴方は素晴らしい才能をお持ちでしたのね。わたく「許すも何も。みんな無事だったし。な、トールマーレ。」
「そ、そうですわね。」
愛の告白でも始まりそうなレーナのガカロ賛美を阻止して、バルトが話を納めた。
いつの間に、バルトはフローラさんを呼び捨てにするようになったのかしら。家名だってところが堅苦しいけど。
やっぱ修学旅行は、青春よね。アオイはすべてを甘酸っぱいものの仕業にしたいようだ。
「では、一件落着と言うことで、自主プランをはじめまあす!!」
「よし!行こうか」
バルザック君には侍従さんが同行。
「参りましょうか、みなさん」
三人娘には、ガードさんがお付き。
「わたくしの慰安旅行は実現するのですからよろしくね。」
「ご安心を。審査に手心は加えませんから。」
フローラさんは、ちゃっかり慰安旅行の下見を兼ねてのゴランが同行。
「パトロ、僕たちも。」
ミズリ兄弟も、迎えの馬車が来た。
「…先生は本日はどのように?」
ミズリがアオイに問いかけると、バルトが慌てて弟を引っ張った。
「馬鹿。先生は新婚なんだぞ」
いくぞいくぞ、というバルトは真っ赤。引っ張られるミズリは、す、すみません!と今更の言葉を残して去っていった。
新婚ねえ。
そのつもりだったわよ。
邪魔な生徒を自主プランで追っ払って、ゆっくり一日イーゼと過ごす、やっと新婚旅行になる予定だったのに。
昨夜の衝撃は、すさまじかった。
王子のデトックスメニュー「きのこ鍋とさっぱりビネガーの鹿肉、そば粉クッキーを添えて」をご相伴していたイーゼを呼び出して、ゴランさんのオーナー室で身の上話を聞いたのだ。
柴崎家は結構大勢の檀家を抱える寺院を切り盛りしていたんですよ。それでも昨今収入が減りまして、私は仏教関係の学校で教鞭を取りながら、住職をしておったのです。
妻が早くに亡くなりまして。娘は目に入れても痛くない程溺愛しました。両親、つまりあの子のじじばばは息災で、とても可愛がりましたし、しつけもしっかりしてくれました。よい子でしたよ。修学旅行のお土産も、わざわざ家族一人一人に買って、自分の物は忘れたくらいに。
その娘も大学で一人暮らしを始めまして。
会いに行こうと、高速を走っておりましたところ。
トラックですよ。無理な追い越しをしてきて。
最後に視たものは、ガードレールでした。
その後は、
真っ暗な視界が開けると、この身体になっていたのです。
「アズーナの世界に。」
「そうです。全く予備知識がございませんから、何の夢であろうかと。ですが、徐々にゴランとしての記憶も浮かんできましてね、柴崎御藍は、シエン市の独り身の商人ゴランとして、この世を生きていく覚悟を持ちました。仏教の輪廻転生を私は受け入れたのです。」
輪廻転生。
先の世の因業で、次の世が決まるという。
「解脱するまで、私の魂は輪廻するのだと悟りました。…と言えば、格好がよろしいのですが、前世に未練は大してございませんでした。娘の晴れ姿…花嫁姿を見られなかった事以外は。」
オーナー室には、サイフォンがあり、ゴランは慣れた手つきで挽いたコーヒーをセットした。
いい香りが漂う。
「本当に、お亡くなりに、なっているのですか?分からないでしょ。今もあちらでベッドに寝ているのかも。」
アオイの言葉にゴランは首を振る。
「無理ですよ。100キロでトラックと衝突し、ガードレールから飛び出した車の中で、どうやって生きていると言えますか。それが証拠に、かれこれこの身に転生して、4年になります。」
「4年…」
イーゼがつぶやく。唇が小さく動いて、何か考え込んでいる。
コーヒーは、少し酸味の強い美味しいものだった。
「このシエンに慣れるのに、しばらく時間はかかりました。けれど、ヴァレリオーズ伯爵家がシエンを開発することを知り、私の欲が沸きましてね。前世の知識をフル活用し、私は温泉観光に飛び込みました。面白い位に、受け入れられましたよ。モダンなホテル。テーマパークのようなスパ。温水を利用したプール。開通する王都からの路線に豪華寝台列車。
私は、一躍街の名士。クレア様の後押しもあって、このシエンをアズーナ王国の一大歓楽街にする野心ももちました。」
楽しい転生です。
「お金ではないのです。名声でもないのです。今は、この街を開発し形になっていくことに喜びがあるのです。」
「独り身はちょっと寂しいですが、ね。先生、貴女はどうやってイーゼ様と?イーゼ様は、貴女の出自をご存じなのですね。こうやって私の話を聞いていらっしゃるところをみると。」
ゴランは、カップにおかわりのコーヒーを注いでくれる。
こっちの話になったのね。
さあ、と、アオイは息をふうと吐く。
「…驚かないでくださいね。いえ、驚いて下さい。ゴランさん。」
「はい?」
「私、死んでないんです。」
「え」
「私もイーゼも、あっちから、こっちに転移してるだけで、あっちにもこっちにも人生があるんです。…ていうか、こっちには遊びにきてる感覚ででもこっちでもちゃんと生きていて…えと、あっちでもこっちと同じイーゼと夫婦で、あっちでは今寝ていて…わわ。こんがらがってきた!イーゼ、変わって。」
教師なのに説明下手である。じっと考え込んでいたイーゼが代わりに口を開く。
「御藍さん。私はあちらでは伊勢朋成という医者です。」
「あなたも、でしたか。」
「貴方がアスーナに転生…した時期に、私もこちらのハンス・イーゼに転移しました。」
「なるほど。」
「私は程なく、向こうで目覚めました。こちらのことは、夢だと思いました。」
ゴランの顔が強ばる。かたかたとカップが揺れる。
「ほ、んとうに、あなた方は、生きている人なのですか?!」
イーゼは、手をゴランの腕にそっと置き、じっとゴランの目を見つめる。
「聞いて下さい。私と、アオイの、これまでの事を」
「そうですか…あなた方は旅行者。私とは違うのですね。あちらの生を全うすべき方々なのですね。」
ゴランは、吐息をつくように、うらやましい、とつぶやいた。
「まだ、決まったわけではないと、私は思います。」
「何がです?私が生きているとでも?ありえません!4年。4年です。手を切れば、血が出ます。痛みもあります。工事の事故で息を引き取る人夫にも立ち会いました…このシエンで、苦痛も悦びも、私はこの身体で経験している。ここで私は生きているのです!」
ゴランは立ち上がり、大きな身振りで訴える。イーゼはアオイをかばいながら、冷静に返答する。
「お座り下さい」
「…」
「私は論理の話をしています。論理は残酷です。」
「う…」
「転生か、転移か。貴方と私は、違うのか。
私は今も、アオイがこの世界にくるまではアズーナは私の物語だと思っています。貴方が転生であれば、この世界は貴方の物語になってしまう。で、あれば、私の幾たびもの転移と矛盾が生じます。」
「うう…」
ゴランは泣いていた。
「あなたには転移の可能性が、残っているということです。あくまでも可能性です。今も交通事故で病院に眠っているのかもしれません。転生ということであれば、貴方の物語になぜ私が都合良く転移し続けたのか、究明するまでです。」
立ったまま、下を向き、涙を拭かないゴランに、アオイはそっとハンケチで顔をぬぐう。
「ね、ゴランさん。私、ここへ来たとき、思ったの。」
アオイはゴランの丸っこい身体をそっと座らせる。
「アオイ・リーゼンバーグの記憶をさらった時、私はここで生きていかなきゃならないんだ、と私も思ったの。それはもう、懸命に。神埼碧に未練をもちながら、自分のスキルでこの世界を泳いでやると誓ったわ。貴方もそうだったんですよね。」
「…」
「この身体に転移している間、私はアオイ・リーゼンバーグです。私があちらに戻っても、アオイの人生は続きます。私の干渉によって変化しているアオイが生きていきます。これでも、私、アオイとしてアオイがこれからも幸せに生きられるよう、全力なんですよ。」
アオイは教師が生徒に語りかけるように、柔らかい声で話し続ける。
「ゴランさん。どちらにしても、貴方の人生です。全力で幸せになりましょう。温泉王。いいじゃないですか。もしも、もしもですよ、貴方があちらに生があったとしても、4年もかかった改革を棄てたくはないでしょう?ゴランの人生を投げたくはないでしょう?もう、柴崎御藍もゴランさんも、同一なのですよ。…貴方が、ゴランさんを温泉王にするのです。」
「一度、捨てた煩悩です。
死んでいようと、生きていようと、この身、ゴランはずっと存在するのですね…」
ありがとうございます。感謝します。
一人に、して、いただけますか…
ゴランは、そう言って、うつむいた。
アオイが扉を閉めるとき、
藍子…と呟く小さな声がした。
朝
「おはようございます!よいお天気です。」
ゴランは、極上の笑顔でテラスに待機していた。
「…ゴランさん。」
「先生、自主プランにぴったりの朝でございますよ。
生徒さん達は、まだでございますね。
隣国のコーヒーを朝食に取り入れてみました。いかがですか。」
ゴランは、椅子を引いてアオイを座らせ、給仕にてきぱき指示を出す。
「ゴランさん…」
「先生、私、心を決めました。一度死んだ人生です。どう転ぼうとかまいません。ゴランを温泉王にする、ゴランの人生を切り拓く。今自分にできることを全うしようと、決心しました。」
昨夜と同じような、酸味のあるコーヒーの香りがたちこめる。
「楽しきかな、人生。
今を生きる。仏教の教えには、因果経があります。」
「それは、なんですか?」
カップが運ばれアオイのテーブルに置かれる。ああ、やはりいい香り。
「未来の果を知らんと欲すれば、原因の因を見よ。過去は変わりませんが、未来は現在によって変えることができる、心のありようによって変わるのだと。」
アオイは、ちょっと目を見張って、それからにっこりと微笑んだ。
「ーいい言葉。もらっていいですか?生徒へのお説教に使わなきゃ」
くすくすとゴランが笑って、お説教は坊主の専売特許です、とお茶目に言った。
「さて、アオイ。王子も地熱発電の視察に行きました。
作戦会議にしますか?」
イーゼが王子から解放されて、軽やかにロビーにやってきた。
「うん。あのね。話があるの…」
アオイは真剣な表情で夫を見つめる。
「私、碧に戻る。そして、アオイとさよならするわ。」
SF?と言われました。妄想、と返しました(笑)




