王子 極める
昔のアニメって、何とも動きがないのが楽しいですね。
主人公の身長が、小学生にあわせて140センチ台だったりするんですよ。
プリキュアもいいんだけど、私はセーラームーンだなあ。
こちら、イーゼです。
見事です・素晴らしい・ハラショーが続いています。
今や王子はアオイと向き合って、激しく打ち合っています。
「ドライブ~ビンタ!」
王子のドライブに対し、
「バックカット!」
アオイの変化球
じっくり自滅を待つかのような女教師のリターンです。
「ドライブビンタ!!」
ねちっこい王子のドライブ返し
その応酬が続いております。
獲物を狙うかのような、女教師のフットワーク
肩で息をしながらの、王子の攻撃
あっ、王子のリズムが狂う!
すかさず、アオイのバックハンドスマッシュ!
王子、慌てず下がって横回転
アオイ、つっつきでフォロー
技と技のてんこ盛り!
王子天才!王子天才!
玉の音さえすれば。
「素晴らしい!初日でエア卓球を会得しましたね!」
アオイ、玉のような汗です。セクシーです。
王子、滝のような汗です。ぬらぬらです。
返事も出来ません。声が出ません。
卓球って、すごい運動量のスポーツなんですね。
根暗のスポーツなんて、思っていましたごめんなさい。
アオイ策略家です。実際の玉はホームランになってラリーが続きません。
よって1ダース、アオイがサーブをすると、1ダース分アオイが拾いにいかなくちゃなりません。アオイが痩せてどうするんですか、ということで、素振りの応用、エア卓球に切り替えたわけです。右に左に揺さぶって、アオイが指示だすもんだから、王子台の端から端まで、果ては部屋の隅まで、遠く近くと反復横跳びでした。
「イーゼ、得点をつけましょう。21ポイント制ですよ。お願いします。」
ん?エアで?どうやって勝負がつくんですか?
「決まってますよ。いかに秀麗にパワフルにパフォーマンスできているか、ですよ。天才の王子にふさわしい勝負じゃない?ねえ、天才。」
アオイのにっこりは、かなり効きます。
「…コーチ殿がそう言うなら。」
王子ぜーぜーなのに、頬がにやけています。
思うんですが。
この王子、優秀なのに、あまりチンドン持ち上げられたことがないんじゃないでしょうか。
アオイの演技もアカデミークラスですが、こんなに簡単に乗せられるって。きっと根暗で寡黙でアザラシだから、ほめ言葉を素直に受け取らずに成長したんでしょうか。
ホテル1階ロビー横のスペースは、窓一つの人通りのない行き止まりです。
も、卓球室として、有効利用を考えたらいいんじゃないか、という丁度良さ。オーナーに勧めてみましょうかね。
「トスを。先行はアオイ。ーラブ・オール!!」
私もそれらしく、緊迫感を出してみました。
アオイは、しゅた!とラケットを王子に向け、大仰に宣言!
「まだ、天才の時代ではない!獅子は我が子を千尋の谷に突き落とす!
お前は私の弟子として、いつか巨人の星をつかむのよ!」
「おお!父ちゃん、俺はやるぜ!」のし、っと構える王子。
私は、明子さんですか。
古すぎませんか。アオイ、DVD観たんですね。
「ビィンタァァァァ!」
ごう、というラケットの素振りの音。
スターン、というアオイのフットワーク
「スマッシュがえしぃ!」
「なんの、カットビンタぁぁぁぁっ」
どすどす、という王子のフットワーク
「まさかの逆回転~♪」
「卑怯な…」
ダン、と台を叩くアザラシ。
えっと、決まったんですよね。「ワン・ゼロ」
「サーブは、俺だ。ーお う じ サーーーブゥ!!」
「なにぃっ!!」
玉を高く高くあげるーふりの、からの、カットサーブ。
王子サーブまで会得しているとは 業師!
「うぉっとっと~素直にフォアハンドー」
「すかさずビンタ!」
「ビンタ返し!」
「パワフル~ビンタ!!」
「うわっ」
えーと、ワン・オール。
「ビンタ!」
「ドライブ!」
「ビンタビンタビンタ!!!」
「ドラーぃブッ!」
「ビ~インタアアアアア!!!」
ん~絶叫大会になってませんか?
アオイ、年ですか?動きが鈍くなってきてますよ。
王子、疲れてますね。迫力だけで張り合ってますね。
あれ?
「あれ?」
私の声に、アオイの手が止まりました。
「どうした…の?はーはー」
私の気のせいでしょうか。
「今、窓のところに、人影が」
「!」
「!」
王子の鋭い双眸が(お忘れかもしれませんが、顔のパーツだけは麗しいのです。だけは)、窓をちらっと睨みました。
(ーしのび、か?)
(不審者ーね)
やはり、王子が狙われているのでしょうか。警護はどこにー
(しまった、卓球に邪魔だとロビーに)
(どうします?丸腰ですよ)
(ーよし、コーチ、俺が)
(ダメ!王子、逃げて)
ひそひそ話をしながら、私たちは壁にへばりつきました。
同じ壁の窓からこちらは見えません。
しん。とした室内。こつ、と小さなガラスの音。
あ。
部屋に私たちがいなくなったと思ったのでしょう。人影が再び。
こちらを覗いています。
(ーやはり)
(王子、逃げて。ここは私が何とか)
何言ってるんですか、アオイ、一般市民が!
いっしょに逃げて下さい。
(ちょっと、やってみる)
アオイは窓の下まで這いつくばって移動しました。
「あ、イーゼ、そんな、ああん♪」
え?
「ああん、こんなとこで、いやあん」
ひええ?
「だめえ、そおんな、うっ、ああ~ん」
アオイ、何の喘ぎですか、王子真っ赤ですよいえ私も反応いえいえ!
「そこはだめーん、見ちゃ、いやーん…」
窓の人影が大きくなりました。覗こうとしてるんですね。
そういうことですね!
「だ、か、ら、
覗くなって いって る だろ おおおおっ!!」
機敏な動きでアオイは立ち上がり、窓を開け
人影をがばっと引っ張りました!
そこへ、王子が加勢
襟元をひっつかんで、
「うぉりやゃゃああ!」
部屋の中へ投げます。
「いくわよ!王子」「任せて!コーチ」
「「ダブル」」
「「ビ ン タ ア ァ !!!」」
ばこおおおおぉぉぉん
がぱああああぁぁぁぁぁんんん
ラケットは、凶器
不審者は卒倒
あーあ、顔がアンパンマンですよ。かわいそうに。
「誰?」「分からん。」
「どうしました!すごい音が!」
オーナーのゴランさんが、ばたばたやってきました。警護の人たち、遅いですよお。
「これは?」
「オーナー、分かるか?」
「…いえ。知らない人物です。見慣れない服装ですね。」
男は黒ずくめ。カシュクールの黒い上着に黒のニッカボッカ。本当に、忍者みたいです。
でも、この男、丸腰ですね。
「外からカギのかかる部屋はあるか?」
「地下に。」
「ガード達。入れとけ。侍従にクレア達へ伝令を。あちらの警備も」
王子、シリアスだとてきぱきです。
「コーチ殿、ありがとう。」
「ついに、奥義を極めましたね!」
「うむ。ビンタ道に近道は無かった。コーチのおかげで、ううっ」
「ビンタの星を めざすのです」
「ううっ 俺はやる 俺は!」
「王子」
「コーチ!」
なんでしょう。感涙にむせぶ二人。
え、と。これ卓球じゃなかったんですか。そうですか。
「王…フェーベルト様、イーゼ様。クレア様がご帰還されました!」
ゴランさんが、再びばたばたとやってきます。
「無事か」
「はい、それが」
「おーじぃ!わるものはボクがゆるさないんだよお!」
「ち、起きてしまったか。フェーベルト、そちらは変わりないか?」
あら。
ガカロ君、発光してます。
ひょっとして、マーレ発動しちゃいました?
「マーレ師、なんとか、してくれ!」
クレア一団が、わやわやしています。
その男、誰ですか?
しのび、ですか?




