退院
私も手術→入院してきましたあ。
退院してから病院シーン書けばよかった。
絶食後のおかゆ、おいしかったです。
「…貴女、そのうち、体罰教師で、懲戒処分…ですよお」
氷嚢で、ほっぺをさすりさすり伊勢が文句。
大丈夫、手首の回転が絶好調の高速チキータだから、指の形にはなりません。
「だあってぇー。…変なこと、言うから」
「至極、マジメです」
「私!あなたのこと、全然知らないし!」
「…知らない、ですってぇ~」
伊勢さん、ニタリ。ドキ。
「お忘れになったとは、言わせませんよぉ。…あんなことやら、こんなことやら、うわっち!!」
今度は枕にしてやったわよ!(ビンタよりいいでしょ)
んなんてことを、なんてことを口走るんだ、この男ー!!全年齢対象なんだぞ、この話。
「貴方は、イーゼじゃありません!私も、アオイじゃないんです。ないんですぅ~。」
ぐすっ。ひくっ。
私って、こんな涙もろかったっけ。でも、止まんない。
会いたいよお。こんなバッタもんじゃなく。(かなり失礼)
「ー少し、急ぎすぎましたね。」
伊勢さん、真顔で優しく枕を戻し、泣いてる私を寝かしつけた。
「あちらでの、貴女。こちらで眠っている貴女。私にとっては、どちらも愛おしい女性です。あちらの貴女が語ったこと、思ったこと、どれもアズーナの女性ではあり得ないものでした。貴女の強さ、優しさ、人を見るまなざし、生徒へのいたわり、まっすぐな生き方、どれもこれも、イーゼにとっても伊勢朋成にとっても、新鮮で心に刺さりました。」
伊勢さんの声が甘くなる。
「あちらの貴女の笑顔を見るたび、こちらの私は眠る貴女の笑顔を見たいと、強く願っていました。」
伊勢さんは、右頬を氷嚢で押さえたまま、左手で私の髪をなでる。
イーゼみたいに。
「私は碧の本質に惚れました。その自信があります…こうしましょう。貴女がお休みをとっている間、私、毎日貴女に会います。それでも気持ちが変わらなかったら、変わる気まったくしませんが、もう一度プロポーズさせて下さい。」
なんて愛おしげに見るんだろう、この人は。
「ーそれでも、私の気持ちが動かなかったら?」
泣いたことが恥ずかしくなってきて、布団を目元まで引き上げると、指が髪を撫でていた伊勢さんの指と触れあった。
「がんばりますよ。」
伊勢さんは、私の手を取って、とっても近距離でにっこり微笑んだ。
ドキドキドキ。
中学生か。浮気もんか。私。
イーゼじゃないけど、イーゼだよぉ…
はい、ごちそうさまでした。
この昼食で、病院食はおしまい。午後は退院だあ。
「碧さーん。私非番なんで、車出しますぅ」
今日も伊勢さんは病室に来た。も、タイムカードかラジオ体操カード持たそうか、っていうくらい。医師としては白衣、伊勢としては私服、とけじめをつけて日参した。IDカードぶら下げてる段階で破綻してるけど。ひまか、お前。
おまけに
(いろいろ調べて健康体でえす。倒れた原因は、心因性かもしれません。心療内科医として私が面倒見ますので、ご安心下さいーキリッ)
と、母と弟丸め込んじゃった。長く職場離れたんだから、母も慶もそれじゃあ、と、帰っちゃった。
伊勢さん、まんまと作戦成功である。
「いーですよ。大した荷物もないし、バスで」
「いえいえ。まだお花も咲いてるしーコーヒーサーバーもあるしー読みかけの本も溜まってるしー」
みんなあんたが持って来たんだろうが。
毎日毎日、ルンルンしながら、ほんとに甘やかしてくれましたよ貴方。
今も、返事も待たずにいそいそと私のキャリーケースを転がし、紙袋に窓辺のものをほいほい入れだした。
じゃ、着替えたら、ロビーで!
ナースセンターからはクスクス笑いが聞こえてくる。もはや私は伊勢医師のスリーピングビューティーだそうだ。いやはや。
「あれから、私、ちょくちょくあちらに行きましてね」
え!!
「貴方には、伊勢の私を見て欲しくて、しばらくあちらを忘れて欲しかったので。言わなかったんです。…気になるじゃないですか。あちらのアオイも倒れちゃってたでしょ?」
赤信号で車を停める。
真っ赤なアルファロメオジュリエッタ。へそくり絞り出して買いましたあ、って、それで送るって言ったな。自慢か。
んなことより!
「どおだったんですか、あちらは!私は!」
あれっ、イーゼに貴方は入ってるけど、アオイはアオイのまんまですよね!
ええっ?私なしでもう世界は動いてるってことぉ??
私、存在しないってことぉ???
ねえ ねえ ねえ!
信号が赤になって、しっかり右折してから伊勢は話し出した。
「運転中なんで、時々話が切れますけど、いいですか…結論から言うと、あのまんま、ですねえ」
ん?どゆこと?
「戻ったら、アオイが倒れたシーンでした。貴女がこっちに帰ったショックであちらも昏倒した訳です。でも程なく気がつきまして」
それでっ!
「アオイは貴女のまんまでした。コルセット締めすぎたかしら、あはははって、照れて、シャンペンくいーっと。みんなも笑って、私だけ置いてけ堀でした。あちらのアオイは貴女が入った時の記憶をなくさず、貴女らしい言動でした。」
え。でも、私ずっとここにいるよ?行ってないよ?
「不思議でした。アオイ・リーゼンバーグは、私の物語で上書きされた。私はそう結論を出したんです。ところが」
おっと、車が坂の多い住宅地に入った。気をつけてね。
「2回目に転移すると、日にちが経っているのです。…私の知らない物語が、進行しているんです。マーレによって私はそのイーゼと完全にシンクロできてその間の記憶を得ました。不都合はありませんが、ね。」
「それって、あちらの世界は、もう、伊勢さんの世界じゃなくって」
「そうです。アズーナの世界は独立して進行し始めた。貴女の干渉の賜です。」
えっとお。
伊勢さんがコントロールしていたイーゼの世界。そこに私が入り込んだことで、世界が一人歩きし始めた。
でもマーレによって伊勢さんはイーゼと同化して存在できる。創造者だと思っていた伊勢さんは、訪問客になったってこと。
「約4倍の時間進行、と教えましたよね。その計算で私は、イーゼの活動時間に合わせて転移を繰り返した結果、出した結論です。私たちは旅行者に格下げになり、よりリアルに異世界は存在し出しました。」
あ、そこ、左に入って下さい。そいで電柱3つめで、はい狭い方の道です。はい、停めて下さい。
「…ありがとうございました。」
「いえいえ、荷物運びますよお。まだ話もありますし。」
うへ。片付いてるっけ?っけ?
お母さん、ありがとお!
私の技術ではありえない整った部屋で、コーヒーサーバーをスイッチオン。伊勢さんのこだわりのやつね。
「で」
小さなリビングでソファを勧めて、自分はクッションに座る。
「私の問題に話を進めましょう。碧さん。」
ドキ
「…はい」
「ちょっと早いのですが、やはり私の意志は変わりません。貴女と会うごとに、貪欲な気持ちが沸きます。こんな風に女性を慕うのは、そりゃ今まで経験がないわけじゃないですけど」
「まだ、休暇は、終わってません」
ドキドキ。
私、楽しんでるよね。
伊勢さんに押されて、甘やかされてることを。
でも、それはどうなんだろう。
恋に恋する女子高生じゃあるまいし。
私は、伊勢さんのこと、どう思っているのかな。
イーゼじゃない、伊勢さんを。
私に甘い気持ちをくれる伊勢さんを。
ああ、コーヒーできた。
いいカップあったかしら。
「伊勢さん」
「はいっ!!」
コーヒーをテーブルに置いて、私はにっこりと伊勢さんを見つめた。
「休暇の間、毎日私と会って下さいますか?それから、アズーナへも連れて行って下さいますか?…それから、その後のことは、成り行きに任せませんか?」
伊勢さんは、赤く赤くなって、コクコク首をふってくれた。
ジュリエッタは、ちょー可愛い、かっこいい車です。
次回、いよいよ、最終回!!
ただいま、番外編準備中!




