神埼碧3
番外編クレアちゃん、と、貴族学院の3令嬢の話を書きたくてうずうず。
アオイを幸せにしてからね。
ご感想などいただけたら幸いです。
白い天井 蛍光灯 ベッド シーツ
間仕切りカーテン
定期的な機械音
点滴?
…病院?
「あ、碧!よかった!」
おかあさん…
「慶ちゃん看護婦さん呼んで!目が覚めたって!…碧、あんた一週間も寝てたんだよお~!!」
は
寝て?
死んだんじゃなくて?
え
じゃ
まさかの
…ゆ め お ちーですか???
え、妄想?アズーナ王国は?アオイ?アゼリア?
…ご都合主義でしょ!ブックマーク消えるわ!!
22回も読んでくれた人に失礼やわっ
て
私、眠って、たの?
んで、碧なのね。中学校の神埼先生、あおちゃん先生なのね。
点滴の針が両手に刺さってメッシュの絆創膏が手首に貼り付き、管が二つ両脇のスタンドにつながっている。右はオレンジ、左は大きな透明の袋。ぴ・ぴ、と定期的な音は、私の鼓動の速さだ。バイタルサインのモニターがちかちかしている。
お医者がばたばたやってきて、目の瞳孔に光を入れたり、指をグーパーしろと言ったりしてくる。
「お名前をおっしゃって下さい」「神埼碧です」「生年月日は」
住所は、職業は、お父さんの名前は…
ぽつぽつと答えているうちに、思い出してきた。
そうよ、倒れたんだ。生徒を下校させていて、玄関で。
碧はどうやら脳しんとうを起こしていたらしい。救急車でかつぎこまれた病院であれこれ処置されたが目覚めず、7日間こんこんと眠り続けていたそうだ。MRIに異常はなく、脳の障害はみられなかった。バイタルも高熱以外正常。血液検査正常。それでも目を覚まさない。田舎の母親と、下宿が近い弟の慶が交代でついてくれていたそうだ。そして、眠っているのに脳は活発に活動していたそうで、担当医が24時間濃度の高い栄養点滴を処置していた。
「校長先生も、他の先生達も、声をかけたりあんたの好きな音楽もってきたり、いろいろしてくれたの。生徒さんも」
MP3には、
アオちゃんせんせー! がんばれ-! おきろー!
起きねーと宿題やんないぞー! しわができるぞー! おきてーっ!!
という励ましと罵倒が(高橋おぼえとけ)エンドレスで入っていた。
鼻の奥がつんとして涙が出てくる。
「校長先生、ぺこぺこ頭を下げてね。大切なお嬢さんがこんな事になって申し訳ない、って。ブラックだブラックだ、と、言われ続ける現場で、お嬢さんの体調管理が出来ていなかったのは、一重に私に責任があると、白くて薄くなった頭をそれこそ床につくくらい。」
りんごを剥きながら、お母さんは、いい職場ねえ、と言ってくれた。
神埼碧は、こちらの世界で、必要とされている。大事にされている。
故郷の母親、海外に単身赴任の父親、同じ都市で働く弟の慶…
職場のみんな、校長先生、そして生徒達!
この涙は幸福感と安堵の涙。
碧は、この世界に、還ってきた。
ここが、碧の、世界。
そう。
でも。
「碧?どこか痛む?まだ眠い?」
ううん、お母さん。
碧は布団をひっぱって顔をうずめた。
違う涙が、あふれて止まらない。
イーゼ
イエス、って、諾、って、はい、って準備してた。
私も、イーゼに恋してた。
一緒にいたいと思ってた。
…私、イーゼにもう会えない。
会えないんだ!!
ひとしきり訪問客がやってきて、碧の個室はそれは賑やかだった。土日ということもあり、受け持ちの部とクラスの子も顔を見に来てくれた。
「も、びっくりしたよお!!目の前だもん。こっちが病院送りになりそうだったわあ~」
「アオちゃん、無理してたんでしょ。しばらく部活はいいから。みーちゃんママが保護者会長でしょ?張り切ってるから」
いろいろ申し訳ない。
この際だから、身体の隅々まで調べ上げてもらえ!!という慶と母親のお叱りで、しばらく入院となった。休むからには、三週間以上だと非常勤講師を手配してくれるらしく、そうすることにした。授業の方も安心できそう。…代わりはいくらでもいる、なんて考えが頭をよぎると、ちょっと心がちくっとするけど。
「神埼先生」
教頭先生がにこにこ話しかける。
「長い教職人生です。一度くらい現場を離れて過ごすのも、その後のご自分の財産になるものです。ゆっくりされて下さいね」
はい。その長い教職人生を送っていらした女教師の言葉は確かだろう。
うん。いっぱい寝る。いっぱい本を読む。
(そんで、忘れちゃおう。異世界のこと。)
…イーゼのこと。
猫顔の、長髪の、マーレ師のこと…
月曜日。
「おはよーございますう。朝の回診ですう」
朝7時。やけに早く、個室のドアがあいて白衣の男性が入ってきた。
「初めまして、ですねえ。あなたの寝顔はいっぱい見ましたが。神埼さん」
ネームプレートには、伊勢 とある。
「脳神経科兼心療内科医のー、伊勢です。お目覚めになってなによりですねえ」
「あ、はい。お世話になります…」
あ、リラックスしてください、と医師はスツールに座って、ベッドに起き上がった碧と向き合った。
「7日間、貴女の脳はフル稼働でした。しかし貴女は懇々と眠り続けていた。生命維持の脳幹は貴女を生かし続けていましたが、大脳の暴走は止まることがなく、エネルギーを大量に消費し続けた。このままでは貴女の命も浸食されると誰もが危惧していました。国内でこのような症例に誰も出会ったことはありません。」
結構重体だったんですね、私。
むこうでは1か月以上いたんだけど、あそことこちらでは時間の経ち方が違うんだね。
夢なんて、一瞬で見るもんだよね。
「でも」医師が続ける。
「申し訳なかったかもしれません。私もまさかあのシーンで、戻ってしまうとは思わずに薬を」
「へ?」
「いえね、国立のお偉い教授を呼ぶだの、なんだの、騒ぎになって。貴女も40度の熱が下がらなくなって、ええい、これ以上は無理か!と。」
なんですと?
「まあ、初めての転移ですからねえ。ダメージは大きかったですねえ。でも…私もショックだったんですよ?まさか一世一代のプロポーズの途中とは!!」
え ええええ な、なんだってえ???
う そ。こいつ、そういえば髪をオールバックにして…結んで…
「どうもー。アオイ。私は、伊勢朋成と申します…」
あなたの、イーゼですう…いや、照れるなあ
「イーゼ…」
碧はくしゃっと猫顔になった男を震える指で指したまま、硬直した。
夢落ちじゃございません。おねがい、もう少しおつきあいしてね。




