大団円2 夜会
お祭りに神社に行きました。礼服は暑かったじょ。めっきり夜は秋めいて、家の周りはコオロギと松虫と馬追が鳴いてます。
「…。殺してくれ…死んでしまう…」
「死ぬ人を殺せませんわ!その前にこれしきで死んでどうします!」
ぐうっ!うおぉ!
「淑女が出す悲鳴ですか!我慢下さいまし!」
ぎええええ…
クレアが、アゼリアに、いじめられている。
アゼリアは薄ら笑いでカウチに座っていた。こわい…
ここは、ローレイナ別邸。
広い庭に誂えられたゲストハウスである。
なんでこうなってるかって、言うと…
あれから1か月。
アゼリアは、貴族学院に編入した。
家付きの家庭教師でよいと溺愛する兄は言ったのだが、両親の希望でそちらへ通うこととなった。貴族学院はその名の通り、貴族の子女の学舎なので、アゼリアが背伸びをせず学園生活を送ることができるだろう。案の定、転校するやいなや「金の百合姫参上!」てなわけで、すでに人気者らしい。
おまけに「高等部からは騎士科があるから」「ボクもいくよお!!」と、バルザックとガカロ君まで移ってしまった。
王子は若干面白くなかったようだが、
「授業のない日は、王宮へ参りますわ」
と約束したアゼリアに免じて、我慢したようだ。でれでれである。
パトロ君は、生徒会の運営に邁進するようだ、が、ちゃっかりこっそりアゼリアのお友達に茶会に声をかけるよう懐柔して、抜け駆けてアゼリアに合うつもりでいる。女の口の軽さを計算に入れなかったパトロ君の浅慮である。ばれても知らないお。
事の詳細は、クレアの祖父とアゼリアの兄アーボルトに、それぞれ伝えられた。辺境泊は3日かけて王都に早駆けし、また、ローレイナ伯爵も息子からの知らせに領地から舞い戻り、学院で謝罪と和解の場をもった。元々確執があったわけではない両家は、娘達の主張を聞き、納得の上、校長に対し感謝の意を伝えた。
保護者へのフォローは、完了。
私は。
おかげさまでクビにならずに、言語学教師を続けている。7月が近づき学期も押し迫って、単位取得のための試験作成に忙しい。時折、クレアやパトロ君が教官室にお茶しに顔を出す。けれど今週はダメ。「生徒立ち入り禁止」の札を下げて、過去問を引っ張り出してうんうんうなっていた。
「アオイ生きてますかあ」
イーゼだ。もお!札がかかってたでしょ!
「私は生徒じゃありませんからねえ。アオイ、忙しくて忘れているでしょ。」
「え、今日いじめ対策委員会でしたっけ?」
委員会は常設となった。他の案件も複数あったし、これからは生徒の精神的ケアが必要です!という副校長の意向だ。無論アオイが主任に任命され、イーゼは変わらず助っ人に担ぎ出されている。
「ほおら、忘れてます。招待状どうしました?」
ああ!そうだった!
「私はあさっての晩ですが、貴女明日からローレイナ邸でしょお」
そう。アゼリアにお招きされたのだ。夜会の日とその前日と。
アゼリアの兄アーボルトは、学院の采配に大変満足し、感謝の意として関係者に夜会を開くと伝えてきた。私とイーゼはあわあわした。着る服がない!他の関係者はみんな上位貴族なのでなんてことはないのだろうが、こちとら労働者である。自慢じゃないが、デビュッタントの時と卒業パーティ以来である。
あら!お贈りしますわ!というおしゃれ番長のおかげで、仕立屋が学院にやってきて、私とイーゼと副校長と校長と、なぜだかクレアも、さっさか採寸された。たった1か月でどうなるのかと不思議だが、夜会前日にお届けがあるらしい。
けれど、女子の分は、ローレイナ邸に届くという。前日からいらして!というアゼリアの希望で、明日の放課後からクレアとお泊まり会なのだ。
「なんで試験準備の時に夜会なんでしょうー。生徒は勉強しなくっていいんでしょうか!」
「そりゃ、優秀な人たちですからね。一週間もあれば準備万端でしょう。」
「…私一人、きりきり舞いじゃないですか!あーっ!」
くすくすとイーゼが笑って、アオイの巻き散らかした紙を拾い上げる。
「明日気持ちよく訪問できるよう、今晩は頑張って下さいな。夕食私がお届けしますよ。」
…なんのかんの、審議以来、イーゼは私を甘やかしてくれる。
うーがんばります。
で。今。
ローレイナ家のゲストハウスで、クレアはふり絞る悲鳴を上げているわけだ。
「まったく!信じられませんわ。コルセットを締めずに着ていたなんて。クレアお姉様の細い腰が台無しではありませんか。」
「…ぐ…」
アゼリアお付きの侍女達は、容赦なくクレアのウエストを締め上げている。
クレアは薄い息をはーはーしている。がんばれクレア。
おしゃれ番長アゼリア企画の女子会は、お手入れフルコース1泊2日であった。蒸し風呂のデトックスから始まり、それはもう髪から爪から素肌から、もまれつままれ磨かれて、今に至るのである。私は粘土になりたい…途中からクレアが呟いたが、同感である。けれど死んだように寝落ちして、起きたらそれはもう、つやっつやのぺっかぺかになっていた。
ほうらごらん下さい!
試験問題作成のやつれ顔も目の下のくまも、なかったことに!
アゼリア、これをおうちでやっていたら、そりゃ勉強する暇ないわいな。
そして、いよいよ着付け、なのである。
男前なクレアは美人なのに無頓着で、いわゆる貴婦人の装いは若葉マークだったのだ。
それを知ったアゼリアの張り切ること張り切ること。
「マリアン、それ以上は、無理?いいでしょう。」
クレアまだ気を失ってはいないようだ。負けるなクレア。
「さあ!次はパニエですわ!」
ごめんなさい許して下さい…若葉マークはおしゃれ番長に泣き言をのたまっていた。
「まあ、まあ、まあ!なんて綺麗!」
ジュリナ副校長が目をまん丸くして迎えてくれた。
アオイは自分でも200%増しの出来映えだと思う。
エメラルドグリーンのボールガウンドレス。デコルテと肩を出して小さな袖がかわいらしい。細い腰からふんわり広がる贅沢な布地はヒールの足下も隠し後ろはトレーン(引き裾)になっている。も、花嫁さんのお色直しの気分だ。髪は緑のレースを編み込んで巻き毛を後ろに流し、緋色の造花をあしらっている。立体的な顔立ちはエステあがりの肌の白さを活かしたポイントメイクで、さらにぱっきりした風に仕上げられた。
どれもこれもローレイナ家の侍女集団のスキルである。
「・・・」
イーゼ?イーゼ?固まってますよ?
おお、イーゼもコスプレだ。ふふ、馬子にも衣装だね。髪型は変えないのね。
「アオイ。まんまと、化けましたね。」
なんだとお。…ふん。…許してあげる。だって、イーゼ真っ赤ですもん。
「姫。お手を」
イーゼのエスコートで、大広間に入場する。
いい感じ!乙女ゲームらしくなってきたじゃない!
ナイスゴージャス!
ゴージャスと、い え ば
漫画にたとえると
ここは見開きコマ割りなしで、バラの花をまき散らして欲しい。
ローレイナ邸の大階段を下りてきたのは、アーボルト・アズ・ローレイナとー
「「「…誰?」」」
いつもの3人組がいつものように声をそろえた。
アーボルトがその細い腰を支え、白い指を彼の手に添えているのは…
「「「ええええ。クレア?」」」
定石通りの展開である。お姉さん満足だよ。
も、ファンファーレでも鳴らしたい出来映えである。
やっぱり素が絶品だと、仕上がりは超絶になるのね!
アゼリアプロデュース<クレア・レア・ヴァレリオーズ伯爵令嬢>は、気高い青薔薇と後に形容される端緒を示していた。
前髪を結い上げ、端正な顔にかかるほつれ髪がその肌の白さを引き立てる。豊かな黒髪は白銀とサファイヤの豪華な髪留めでまとめ、一度巻き上げてふんわり下ろし、その瑞々しい素肌の肩にかかる。
ベアトップの小さくシンプルな上半身に比べ切り替えからの下半身は、幾重にも蒼いチュールレースがドレープを作る。パニエで膨らんだドレスは慎ましやかに裾にすぼまり、清楚な印象を与える。サファイヤの首飾りと胸元の薔薇一輪が育ちのよさを引き立てる。
そ し て!
誰がイラスト担当したの!私たちより画素がいいんじゃないの?
作画違うんじゃないの?
というくらい
う つ く し い ーーーお顔立ちで、あるっ!!
ほとんど白粉なんか使ってない陶器のような顔に整えた眉とアイメイク、現代のティント使った?てなプルンプルンの唇。これ以上動かしまへんで!!という絶対の位置に絶対のパーツが配置されているんだぞお。
いやー転生して、今ほど、よかったと思えること、なかったわ。
いいもん、見たなあ。
私たち一同が見ほれ、男達が賛美の言葉を投げかけ、クレアが頬をほんのり上気させた。
くう。色っぽい!
よかったねクレア、死ぬ気で着せてもらって。
アーボルトったら、さっきからちっとも手を離さないの。そりゃこれだけの上玉出会ったことないよね。超絶美少女を妹にもったら、目もこえちゃうし。ううむ、クレアの恋愛修行には、適切な人物かも。
クレアには、少し男をみる目を養って欲しい。将来くさった伴侶をあてがわれないように。もっさりアザラシに恋心はなかったとしても、特別視してたのは事実だし。いい男とつきあって、いい恋してほしいぞ先生は!
ローレイナ家の夜会は、関係者だけの少人数にも関わらず、贅をこらした内装と、最上級の酒と料理と室内楽にあふれ、美男美女限定(入るのか、私とイーゼ汗)のとんでもないハイソなものになった。
私とイーゼ。校長と副校長。クレアとアーボルト。ローレイナ夫妻。そして、ガガロ・パトロ・バルザックくん達は、貴族学院のお嬢様方(お茶会のあの子たちだね!)をパートナーにしている。お嬢様方イケメンにエスコートされて大興奮ね!あんた達、アゼリアばっかり追っかけないで、少しは恋愛もがんばりなさい。
うん。若者はいいねえ。命短し恋せよ生徒!!
あれ。
そーいえば、おしゃれ番長は?
「おお、見違えたな!ビンタ教師!」
誰…その声は、
ごにゅうじょお~の声のあと、大広間に入ってきたカップル。
フルメイクバージョンアップ超絶無比美少女を連れている男は…。
「クレア!やっぱり女だったんだな!!」
この上から目線の雑なモノの言いは…
もっさりアザラシ?
えええええっ!!!
ただ単に綺麗なモノをどうやって書くか、に懊悩していただけなんです。夜会行ってみたいです!




