女教師 説教する
イーゼ視点です。おつきあいください。
私、イーゼです。
ただいま修羅場ですう。
よくアオイがぶつぶつ言っておりました「断罪」が進行しておりましたあ。
記録者として「このくされ王子があっ」まで記録しきった後、私もペンを取り落としております。
アオイ、肩で息ゼーゼーです。見事なスマッシュでした。左足の踏み込みと腰の回転が効いていましたね。王子のけぞって半分気絶してますね。ここからだと王子の鼻の穴がしっかり丸見えですね。
「なあにが、お う じ よ!!この根暗おたく野郎!女が何だとお?女の股から生まれたくせに、偉そうにするんじゃないわよ!!」
激高です。私もこんだけ怒っているアオイを見るのは初めてです。
「弁が立ってごめんなさいね!そんだけ語彙があるんだよ!感情も豊かでもうしわけご ざ い ま せ ん ね!!どうせ、アゼリアの詩の内容も理解できない石頭なんでしょ。婚約者に花も贈らねえ無粋なアザラシにアゼリアはもったいないわよ!けなげに後を追ってくるなんて、アゼリアみたいな絶世の美女、あんたの肩書きがなかったら、手に入るわけないじゃない!それなのに、なにさ、まるで所有物みたいに!去れだとお?どの お 口 よ !! アゼリアに命令できるのは、あの子の両親だけだから!まだ、あんたのモノに、なってないんだからね!!」
すごいです。
女の人を しかも教師を怒らせちゃだめです。この論戦に勝てる気がしません。
王子、すでに海獣扱いです。
「あんたは他人がどう見てるか、気にしたこともないんでしょお!唯我独尊寡黙の王子。生まれたときから蝶よ花よと育てられ、周りにちやほやされた挙げ句、自分の見てくれなんてかまったこともないんでしょう!あんたみたいな奴、あたしの小さいときの童話にあるわよ!はだかの王様ってね」
アオイ。その寓話はこの世界では通用しません。
蝶よ花よの形容とアザラシが合致しません。
ですが、この口撃、かなり効いているようですねえ。
王子、頭を起こしました。おお、左ほほにアオイの手の跡が痛ましい。あれは腫れます。お付きの方が「氷嚢は-」と、戸口へ走りました。まだくらくらするようです。殿下生まれて初めてのビンタでしょう。親父にもぶたれたことないのに、でしょう。護衛が剣に手をかけようとしたところにジュリナ副校長の扇が飛んできました。おそるべし女教師。扇って飛び道具だったんですね。
アオイ、すでに額に青筋が立っています。一息ついて今度はびっくりして泣き止んだ美姫に怒鳴ります。
「アゼリア!あんたこのアザラシ野郎と手を切ってもいいのよ!あんたみたいな一途ないい子、いっくらでもプロポーズされるわよ。腐っても侯爵令嬢。王国一の美少女なんだから」
「ぼく、お婿になるう!!」ガカロ君、未婚の女の子に抱きつくんじゃありませんよお。
「それから、クレア!」
おお、次は男前な美人です。
「こんなもっさり王子のご学友なんか、あんたの名誉にならないわよ!臣下がどうした!領主が女で何が悪い!領地の民にはスカートはいてようがズボンはいてようが、土地を豊かにしてかまどに火を絶やさない領主であれば、どおだっていいの!領民は、アザラシ王よりあんたみたいな美しくて賢い領主の方を敬うの!!こいつが邪魔をするんなら、現王をたらしこんで約束してもらいなさい。女上等!こんだけの武器持ってて、使って何が悪い!頑張れクレア!!」
アオイさん、17歳にハニートラップけしかけています。聖職の倫理はいずこへいったのでしょう。
いえ、副校長が拍手しています。倫理、いいみたいです。クレア、うるっと泣いています。
「いい?14歳と17歳。アゼリアの倍生きているあたしが言うんだからちゃんと聞くのよ?あんたたちの人生これからなのよ?いっぱい恋をして、いっぱい楽しんで、悲しんで、恥をかいて、怒って、笑って、女を磨くの。女は女。男なんかにかしずかなくても、女はいいの。精一杯学んで生きて、自分を磨いて、いい人間になりなさい。自分のために人生を創りなさい。自分は自分でいいの。自分を創るのは自分なのよ!」
「ーリーゼンバーグ先生」「・・・自分をつくる・・・」
やってることは体罰と恫喝ですが、言ってることは真っ当です。
二人、泣きながらアオイを見つめています。
「・・・何を焦っていたのだろう、私は。先生、目が覚めました。」
クレアはハンケチでほおをぬぐうと、すっきりとした表情で話し始めました。
「私が学ぶ動機は領地をよりよくするため。その原点を見失い、爵位だ順位だと印に振り回されていた気がします。私が揺るぎない才覚を持てば、自ずと人は私を選ぶでしょう。そういうことですね、先生」
アオイ、満足げです。ここだけの話、私アオイの笑顔、嫌いじゃありません。
「わたくしは・・・」
「ボクもらってあげる!王様なんか怖くないよ!」「いや、俺が守る!」「私は次男ですが家禄は大丈夫です。貴女を養う位はできます」
ぴーちくぱーちく、三人組が求婚し出しました。
じゃかあしい!!!
再びアオイの激高です。アオイ、声が掠れてます。のど大丈夫でしょうか。
「あげるだあ?守るだあ?養うだあ?
んな、上から目線でアゼリアが満足できるかい!」
矛先が少年隊に向きました。
「いいか!あんたらが選ぶんじゃない!アゼリアが選ぶの!選ばれたかったら、みんないい男になるのよ!自分のよさを存分に伸ばして、この人と結ばれたいと女に思わせる男になるの!ちゃんとした価値観をもち、女性に敬意を払い、伴侶を尊重する、そんな真人間にお育ちなさい。」
なるほど、アオイの夫像はそうなのですね。これはいいことを聞きました。
親衛隊も納得しています。女教師の話術の神髄を見ています。
「わたくしは」
アゼリアが声を張りました。
「わたくしは、それでも、殿下をお慕い申しあげたく存じます」
ぼす、と絨毯に椅子が倒れる音がします。
王子です。顔が腫れてこぶとりじいさん風な王子です。
立ち上がっています。そしてアオイとアゼリアを睨んでいる気がします。いえ、前髪のせいでこちらから目が見えないので実況が不確かになります。
「殿下。お怒りはごもっとも!体罰いえ不敬を働いたローゼンバーグは即刻クビにいたします!ですから命だけは」
シド校長が土下座です。いい人です。アオイ真っ青です。やっと正気に戻ったのですね。
手遅れです。やるだけのことやりきりましたねえ。でも、
いざその時は私が全力で守りますよ、アオイ!
「・・・よい。校長、この程度のこと、騒ぐ私では、ない」
ーーーー大丈夫なようです。私の勇気、無駄でした。
王子話しにくそうです。ほお切れてますねきっと。奥歯大丈夫でしょうか。
「アゼリア」
「はい、殿下」
「先ほどの 言葉」
「はい、殿下、偽りなく。わたくし、変わらずあなたをお慕いしております。」
極上の微笑みは超弩級空母。対するアザラシ、がんばれアザラシ。
アオイ、どうやら風向きが変わったようですよ・・・。
わたくしフェミニストではございませんが。




