審議1 教科書事件
ブックマークが増えて、とってもうれしく思っています!
ありがとうございます。
向かって右。
足を組んだクレア嬢が悠然とした態で座っている。
向かって左。
硬い表情のパトロ君とクレアをにらむバルザック君。いまだに手をつないでいるガカロ君。そして、怯えたようにクレアと目を合わせないアゼリア嬢。
入り口側にはジュリナ副校長。隣の空席はシド校長の場所である。
中央やや入口よりに机と椅子が置かれ、イーゼが記録係として座っている。
アオイはその前に立つ。
シ・ンとした室内。儀礼的な名乗りと挨拶を交わした後は、気まずさだけが漂っている。
程なく。
「フェーベルト王子殿下、ご入室されます。」
王子の護衛官の声がして、扉が開く。室内全員がざっと立ち、迎え入れる準備をする。校長を先頭に護衛官、その後を王子、そして二人の従者が付く。分厚い絨毯が靴音を消し、一行は静かに扉の反対側、上座に向かう。
上座には椅子が1つ。王子の椅子である。当然のように王子は腰を下ろし、「皆、座れ」と命じた。
「挨拶はいらん。始めてくれ」
おお、ここに至って久しぶりに平凡な顔を見たよ。みんなキラッキラしてたけど、もっさり王子は写真絵の通りじゃん。碧のものさしでは、根暗オタクの範疇だ。こいつも拗らせてんのかなあーなんて、不敬なことを思うのは、碧が貴族社会ではなく現代人であるからだ。
この一件でアオイはあくまで学生のトラブルとして教師の目でとらえてきた。だからゴールもそれでなくてはならない。
加害者被害者の確定と和解。
ゴールポストはそこである。それを動かしたりはしない、という固い決意がアオイにはある。
「・・・本日この場に参集いただき、ありがとうございます。ローレイナさん、ヴァリアリーズさん、そして殿下。今回のいさかいに関しましては学院のルールで進行させていただきます。すなわち、学生は平たく学生。身分による忖度はいたしません。貴族の常識とは異なる無礼を働くやもしれませんが、どうぞご了承下さい。」
ジュリナ副校長が前置きを伝え、アオイに目で合図する。
いくぞ!
「ー進行役を務めます、アオイ・リーゼンバーグです。第三者の殿下がいらっしゃるということで、一人一人に面談した内容を重複して伺うと思います。本日が初めで最後のご面談だと考えて下さい。王子殿下の御前で、真実を包み隠さず提示して下さい。回答を避けたり沈黙したり、偽りを述べたりすることは許しません。よろしいですね。」
三方を見渡して、了解の表情を受け取り、アオイが続ける。
「また、求めていない発言も認めません。私の指示に従っていただきます。それも、よろしいですか?・・・では、まず、アゼリアさんの教科書の一件から始めましょう。」
教科書事件
論点① 誰が教科書を破って池に投げたか
論点② クレアはアゼリアに酷い言動をしたのか
クレアは、あんぐりとお口を開けていた・・・
アゼリアは、真っ赤になってふるふるしている・・・
バルザック君!すげえな!王子の前でも熱演だよ!副校長なんか椅子からずり落ちてるよ!
おーほほほっって、ラストまでやりきったよ、ブラボー!
「・・・協力ありがとう。アゼリアさん、今の証言に異存はありますか?」
「わ、わたくし人様からはあのように映っているのでしょうか・・・」うん。至極真っ当。同情に値する。でも、今それおいとこう?
「演出はともかく、やりとりについては、いかがですか?」
「・・・子細までは確証できませんが、わたくしにはそのように」聞こえたというのね。では。
「クレアさん。貴女はいかがですか?」
クレアはようやく我を取り戻して、アオイとアゼリアを交互に見た。睨んだという方が適切かな。
「・・・。」
「クレアさん?」
すっとクレアは立ち上がり、口を開いた。
「まず、今回私がこの場を要望した理由を伝えたい。・・・身の潔白のみを私は求めてるのではない。アゼリア様の誤解を解くこと、そして、貴女の罪がどこから生じたかを貴女自身に知って欲しいからだ。」
ひ、という小さな悲鳴をアゼリアが発する。
「貴女は潔白。そして彼女に非がある・・・いじめは捏造と言いたいのね?」
「そうだ。皆が誤解している。・・・教科書を池に投げ込んだのは、アゼリア様だからだ。」
え。
えええええええ。
それか!最悪のパターンか!
「私は遠く中庭でアゼリア様を見かけた。ご挨拶をしようと思ったところ、噴水池の前で思い詰めたような彼女は、突然手にしていた教科書を池に投げ捨てたのだ。そしてつかの間そこに佇んでいたが、やがて本をそのままにしてバラ園へ向かった。しばらくして私は本を拾ったが、すでにずぶずぶに水を含んでふやけていた。裏表紙には確かに彼女の<A・A・ローレイナ>と金の刻印が施されていた。」
「なぜ!・・・わたくしっ!」
アゼリアはわなわなと震え、ガカロにしがみつく。
「馬鹿げた話をするな!!アゼリアがそんなことするか!!」「する理由がないでしょう。クレア嬢が拾ってくれるという保障はないのですから。貴女をおとしめる企てとしては、弱いのではないですか?」
バルザックとパトロが続けて反論。パトロ君、えらい。みんないーかー、そこ、大事だからメモしとくように。
「池に投げた時、アゼリア様は私が見ているのを知らなかった。誰かが後を追って渡しにくるとは思わなかった。そうでしょう、アゼリア様。」
「わ・・・わ・・た」
「貴女に企てなど無かった。私を嵌めるつもりなんて微塵もなかった。」
「あ・・・」
「拾った私が貴女に恥をかかせた・・・そうですね?」
がたがたと震えるアゼリアは、終いにガカロの腕に顔をうずめてしまった。
「ちょっと、まって?じゃあさーー本がこおんなに破れているのはなんで?クレア、やっぱりあなたが破ったのでは?たまたま本が落ちていた。何があったか知らないけど、アゼリアに思うところがあったあなたは、憎い気持ちを抑えきれず引き破った。そして池に投げ入れた。そういうシナリオだって描けるよ?」
ガカロくんが質問。
「私は破っていない。」「でも、俺が見たのはこの状態だ!」「私ではない。ずぶずぶに濡れてはいたが」「じゃ、誰が!」
「ふん。自明だ。」
クレアとバルザックのやりとりを切った声がした。
王子だ。
「発言はよいか。」
カクカクとアオイがうなずく。もっさり王子、さすがの威厳である。
「破れ方を見てみろ。何十ページもが同じように破れている。一時に破いた状態だ。乾いた本なら、よほどの力自慢だろうよ。だが。」
そうか。ぐずぐずに濡れていたら、みりみりっと裂けるよね。
「クレアが池に投げ込んだなら、どうしてアゼリアに拾って渡す?そんな必要など無い。池に捨てて失わせれば嫌がらせは完了。そのまま形がなくなるまで沈んでいた方が真っ当だ。わざわざ私がやりましたとお届けして諍いの火種をつくる馬鹿はいない。そして、クレアに私より握力が有る筈もない。破いたのはクレアではない。」
・・・王子、やっぱり、言っちゃうのね・・・
「アゼリア」
「は、い。殿下。」
「お前がやったな。」
「「「 !! 」」」
「クレアに渡された本を破いて、被害者を装った。そうだな?」
「殿下・・・」
うるうるとした瞳をもっさり王子に向けて、アゼリアが床に跪く。崩れ落ちるように。
程なく、アゼリアはきっとした表情で、告白する。
「・・・捨てました。
そして、破りましたわ。」
え!!!と上手に三人組が揃って驚く。
「どうして・・・・・
「クレア様に侮辱されたからですわ!!」
ーーー論点②に、審議は進むようだ・・・。
アゼリアちゃんも貴族令嬢。ウサギのようでもかみつきまする。




