押しに弱い
ある日にんげんが犬と小川の傍を歩いていると、突然川の水が立ち上がり、中から無理矢理四足の脚で立つ虎が甲羅を背負って頭につるりとした皿を載せた影が飛び出してきました。
にんげんがびっくりしていると、「ちょっと待った!ここで一遊びしていこうよ、相撲しようぜにんげん!」と叫ぶ河虎の兄が腰を落として爪の替わりにヒレがある手を前に突き出して構えを取ります。
そこに犬が割って入って、「河虎の兄。にんげんがびっくりしてるぞ。それとにんげんは相撲を知らない。説明してやらないとやりようがないぞ。」と言いました。
それを聞いた河虎の兄は「相撲を知らない?仕方ないなぁ。いいかいにんげん、いっせーのせでお互いの身体を押し合って相手を転ばせたほうが勝ち。解った?」
飛び出してきた驚きがまだ残っているのか、にんげんはこくこくと頷いて答えます。
それを見た河虎の兄は、「じゃあ、いっせーのーせ!うぉぉぉぉ!初勝利貰ったぁ!」と言ってにんげんによたよたと駆け寄りますが、にんげんは「え?えっと、えい!」と両手を思いっきり突っ張り河虎の兄を押します。
すると河虎の兄は押されるのに弱いのか、よたよたと後ずさったかと思うと甲羅の重さに引っ張られるように後ろにゴロンと倒れてしまいました。
すると河虎の兄は、「うぐぐぐ!まただ、また負けた!ええいもう一勝負!したいから起こして。」と言います。
にんげんがどうしようかなぁ、と思っていると、犬が、「にんげん。河虎の兄を起こすとしつこいからこのまま行くぞ。何、しばらくは起き上がれないかも知れないが心配要らない。自力でその内起き上がるからな。放っていこう。」と言います。
これに慌てたのは河虎の兄です。
「わ、解った。勝負はもう終わり!だから起こしてくれぇ!」と言って手足をジタバタさせます。
にんげんは可哀想だなぁと思ったので河虎の兄が起き上がるのを助けます。
そうしてなんとか起き上がると、「ふははは!ありがとう、ところで相撲で一勝負……」などとさっき言った事を忘れたかのように言い始めます。
さすがにこれにはにんげんも呆れて、「犬、乗せて。」というと、犬に跨り、「えっとね、相撲の勝負はまた今度ね。じゃあね河虎の兄。じゃーねー。」と言って犬を駆けさせ行ってしまいました。
後に残された河虎の兄はちょっとしょんぼりして、「……相撲、しようよ」と呟いていました。
ちょっと可哀想かもしれませんが、嘘はいけませんよ、という事で。




