手抜き
ある日湖の畔で寝ているにんげんの目の前できゅくるーという何かの鳴き声がしました。
にんげんが眠い目を擦りながら、なぁに、と思いながら目を覚ましてみると、目の前には青と灰色を混ぜたような色のつやつやと輝く肌を持った尖った口先となだらかなおでこ、力強いひれに大地を踏みしめる動物の足、そしてふわりと広がる尾びれを持つ何かがにんげんを覗き込んでいました。
にんげんは元気良く、「おはよう!」と声を掛けますが、目の前の兄弟か動物か判らないものはきゅくーと鳴くばかり。
これは一体なんだろうと思っていると、夜は枕兼布団になってくれている犬が、「海豚の兄がおはよう、だとさ。にんげん。お前には聞こえない声だろう。」と言ってくれました。
にんげんは素直に、「うん。きゅくるーしか聞こえない。」と言いました。
すると海豚の兄はくるくると鳴きだして、にんげんのほっぺたを口で突き始めます。
にんげんが、「な、なに?海豚の兄は何を言ってるの犬。」と聞くと、犬は、「にんげんちゃんに僕の声聞こえないの寂しい。だそうだ。」とそっけない様子。
でもにんげんはそんな犬に違和感を抱くでもなく海豚の兄のおでこを撫でて、「ごめんね。私海豚の兄の声、きゅくるーしか聞こえないからごめんね、犬に言ってね。」と言います。
すると更に海豚の兄は、きゅるきゅるきゅくるーと鳴いて何かを言います。
犬は、「ほらみて、濡れてるからわかり難いけど僕の足は犬とお揃いなんだ、だと。」とにんげんに伝えます。
それを聞いたにんげんはよくよく海豚の兄の後ろ脚と犬の後ろ脚を見比べて、しばらくすると、「うわぁー!ほんとうだ!いいなぁ、海豚の兄いいなぁ!犬とお揃い、良いなぁ!」と叫びました。
それを聞くと海豚の兄はきゅくー、と言って湖の深い方へととって返します。
それはさすがに犬の通訳なしでも判ったのか、にんげんは、「もう帰るんだ!またね海豚の兄!犬が居ない時は魚の姉に頼めばいいのかな?とにかくまたお話しようね!」と言って手を振りました。
きゅくー、という返答を残して海豚の兄は湖の水面に消えていきました。
にんげんは、「最後に海豚の兄はなんて?」と聞くと、犬は「ばいばい、またね。だとさ。」と簡潔に答えました。
実を言うと海豚の兄のにんげんの耳では聞こえない部分の声ではもう少し複雑な言い回しというか、猫の兄のような気障ったらしい表現があったのですが、それは犬の独断で全て排除されました。
だってそんなのをいちいち通訳していたら面倒ですからね。




