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冒険譚

 ある日、にんげんは猫の兄の話を聞いていました。


 それはまだ私がお洒落というものを解さなかった時、母上に人の言葉を教えてもらい外に出掛けた時の事である。

馬車、と言うものが外にはあるのである。それは木の出来た四角い箱に丸い車輪を付けた乗り物なのであるが。それを囲む悪漢達、私は直感的に感じた!これは美しき女性の危地であると!

駆ける私、その前にはじりじりと囲みを縮める悪漢達と比べればさながら狙われた事に気づかぬ牡鹿と犬である。当然、私が犬だ。さっと躍り出した私に悪漢達はぎょっとしたが私のことなど気にせず馬車に近寄ろうとする。

 故に私はこの爪を振るったのである!するとたちまち喉笛を切り裂かれた悪漢達はたちまち私に注目した、そして憎しみの篭った目で我を見、襲い掛かってきたのである。

腕に武器を持つ彼奴らは私を切り裂かんと迫るが私もさる者、振るわれる武器をスルリとすり抜け一人二人とその喉笛を切り裂いていったのである。

 こうして私の小さな冒険は終わったわけであるが、重要なのはその後、馬車で震える美姫を慰める事である。私は手と爪に付く血を払い馬車に向かった。

 そこに待っていたのは……なんともちんまりとした人であった。ふんわりとした白いドレスに包まれた小さな人は泣いていたが私が馬車に入ると「ネコさん?」と不思議そうに顔を傾げたのである。

まぁ、美しさの基本は抑えていたな。母上のような頭に、腕二本。乳はみえなんだがこれは男かもしれぬと思えばまぁ美しい。ただスラリとしているとは言いがたく、なんともまるまっちい物である。

私ががっくりしつつ悪漢達を退治したことを告げると人は笑顔に成り私を抱きしめた。ふむ、なんとも柔らかい感触ではあったな、乳はないが。

 と、その時馬車の中の隅で身じろぎする影があった。すわ何事かと思えば、今度は母上のような頭、腕、胸そしてスラリとしている、美しい人が起き上がり私を見て呆然とした様子で、「猫?盗賊に襲われてるのに……?はは、私もう死んじゃって天国なのかしら。お嬢様もいるならきっと天国よね、地獄ってことは無いわ。」などと言う。

 そこで私が、「お怪我はありませんかお嬢さん。美しい形をしておりますな。」と言ったらば、その女性は「ひぃ!喋る猫!化け物!」と怯えだした……と言うところで一旦私の話は終わりである。


「私はこの後このちんまりとした人と怯える女性としばしの親交を深める事になるのだが、今回の話はここまで。にんげん、随分と目を回しているぞ。」

 滔々と語り終えた猫の兄は、若干うんうんと考え込んで聞いた話を理解しようとしているにんげんが考えを纏めるのを待ちます。

そして、「ええと、悪漢っていうのと盗賊っていうのが同じ生き物で、ちんまい人がお嬢様っていう生き物で、女性っていう生き物も出てくる話でいいんだよね?」と聞かれると、猫の兄は「その通り。悪漢という種族の中の盗賊と言う部類の者達を倒し、見事ちんまりしたお嬢様と女性を助けたという話である。格好いいだろう?」と答えました。

 するとしばらくにんげんは目を瞑って一頻り考え込んでから、「うん!格好いい!犬が私を助けてくれるみたいに、猫の兄もお嬢様と女性を助けたんだね!かっこいいよ!」と言いました。

猫の兄は満足げに、「そうだろうそうだろう。私は格好いいのだよ、にんげんよ。」などと言っています。

満足げな猫の兄の喉下を撫でながら、「やっぱり猫の兄は優しいんだねぇ。他の人を助けるんだもん。優しいよ。」というにんげん。

そんな事を言われながらも、ふふふと不敵に笑うと猫の兄は「私は優しいが恐ろしくもあるぞ。私が怒れば鉄……とても硬い石の塊も一閃、爪の前にすっぱり切れるからな。」と爪自慢を始めました。

 するとにんげんも「爪?凄いの?見せて見せて。」と話題に乗っていきました。

こうして猫の冒険譚は徐々に語られていくことになるのですが、その全てが語られる頃にはにんげんはすっかり大人の女性になっていたのですが。

にんげんは話の中にでてくるお嬢様や女性といった生き物、ましてや悪漢というのが自分と同じ人間だとは思いもせずにすごすのでした。

 ただ、後に語られる二本の腕に二本の足で歩くという解説に親近感を覚えたのですが、人は衣服という肌を毎日取り替えるという解説で自分とは遠い存在なのだなぁと思うようになってしまうのでしたとさ。

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