毛繕い
ある日にんげんが湖の畔で犬の毛をいじって遊んでいると、森の方から犬より大きく、毛が立った灰青色の毛皮を持った、犬よりちょっと獰猛な顔つきの兄弟が出てきました。
にんげんが、「あれ、犬?」と言うと、ピクリと耳を動かした灰青色の兄弟はスタタタと駆け寄ってきて言いました。
「ちゃうねん。狼やねん。そこんとこ間違えんといてな。頼むでほんま。」と。
にんげんが、「ふぅーん、狼の兄は犬とそっくりなんだねぇ。毛の色はぜんぜん違うけど。」と言うと、狼の兄は、「あんな、ちょーっとちゃうねん。ほら、なんていうか目のあたりがちょい犬より男前やろ?」と返します。
にんげんは「おとこまえ……?」と良く解らない様子ですが、狼の兄は気にせず続けます。
「そや、男前や。なんちゅーかキリっとしとるやろ?後牙も犬よりワシの方がでかいねん。ほれほれ。」
そういって牙を剥く狼の兄は結構な迫力で、もしにんげんが狩りをする犬等を見慣れていなかったら泣いていたかもしれません。
そんなやり取りをしている狼の兄に犬が、「狼の兄が森から出てくるなんて珍しいじゃないか。お母さんに用でもあるのか?」と聞くと。
にんげんに歯の大きさを見せびらかしていた狼の兄はそれを止め、犬をきっと睨みました。
「おう、用はおかんとちゃう。お前にあるんや犬。お前聞くところによるとこのにんげんちゃんに毎日べったり毛繕いしてもらってるらしいやないか。お前な、そないな生活あかんで。駄目になる。すぐやめるんや犬。」
そう言ってにんげんをそっと自分の方へ引き寄せようとする狼の兄でしたが、犬ははっしと肉球でその前脚を抑えました。
「要するに。駱駝の姉と喧嘩したんだな狼の兄。」
犬のその言葉に狼の兄は動揺を露わにしました。
「なななな、なにいうてんねん。喧嘩なんかしとらんよ。ちょっと駱駝のの虫の居所が悪いっちゅうかなんちゅうか……」と言って目を逸らします。
にんげんが犬に、「駱駝の姉って?」と聞くと「駱駝という背中に瘤を二つ持つ四足の動物の形に、瘤の一つがお母さんの上半分のような形を取っている姉がいるんだ。で、狼の兄は毎日その姉に毛の手入れをされていて、狼の兄が言うには駄目になっていたらしいんだが……これは何か怒らせて毛の手入れをしてもらえなくなったんだな。」という答えが返ってきました。
さらに続けて「で、毛の手入れはして貰いたい。でも謝るのは嫌だ、じゃあ別の兄弟で毛の手入れをしてくれそうなのを連れて行こうって所だろう。行っちゃ駄目だぞにんげん。」と締めくくりました。
狼の兄は、「そんなわけないやん!もし喧嘩になったらがつんといってやって……」と言いかけましたが、にんげんは狼の兄をじっと見上げると、「駄目だよ。喧嘩したら仲直りしなきゃ。駄目だよ。」と言いました。
狼の兄はさらになにか言おうとしましたが、にんげんがあまりにじっと見つめるものだから居心地が悪くなったのか、にんげんから前脚を離すと。
「……解ったわい。ちょっと駱駝のと話し合ってくる。ほなな、にんげん、犬。そのうちそっちからワイの所まで顔見せにくるんやで。」と言って森の方へ去っていきました。
それを見送ったにんげんは、「毛繕いするくらい仲がいいのに喧嘩するなんて変だねぇ。」と言いました。
犬はそんなにんげんに「いや、狼の兄は駱駝の姉に頼み込んで毛繕いしてもらってるからそう変というわけでもないだろう。あくまで、駱駝の姉は頼まれて一緒にいるんだ。お前のように自分から俺の傍にいてくれるのとはちょっと違うと思うぞ。」と言いました。
にんげんは「ふぅん、そんなものなんだ。」と言ってから犬の毛繕いに戻りました。
狼の兄が駱駝の姉と仲直りできたかは……まぁまた乳の日以外森から出てこなくなった事を答えの代わりにしましょうか。




