バリバリ
にんげんが犬に乗って散歩していると、突然離れた所からメキメキ、ズシン、という音が聞こえてきました。
にんげんが、「音のする方に行って見よう。」というと、犬はそちらの方向に足を向けつつ、「あれは多分熊猫の兄だな。熊猫の兄は木を食うから。」と言いました。
にんげんがどんな兄弟なのか聞いても、犬は「そうだな…しなやかでいて丸い…そんな兄弟だ。」というにんげんには良く解らないことを言うばかり。
どんな兄弟なのかと期待を膨らませながらにんげんが音のした、木の倒れた所を見るとそこには耳と背中の一部が黒く、残りの部分は白い胴体の、足は強固な犀の足な兄弟がガリガリと木をかじっています。
「こんにちは熊猫の兄。ほらにんげんも」と犬に促されにんげんも挨拶すると、熊猫の兄は振り返ります。
その顔は丸々しい白の毛皮に黒い隈取の可愛らしい顔でした。その口元には木のカスがこびりついています。
にんげんと犬を見ると熊猫の兄は「よう。犬じゃないか。そっちは噂のにんげんか?」と見かけによらず男らしい口調で話しかけてきます。
にんげんはうずうずして犬から飛び降りると、「ねぇねぇ熊猫の兄、もふもふしていい?」と聞きます。
熊猫の兄は「ああ、いいぞ。ただしそれでお前さんが楽しい声を出すんならな。」と言うのですが、とにかく許可が出たという事でにんげんはまあるく毛に包まれて、木のカスがまだこびりついている熊猫の兄の首周りを一心不乱にもふもふして、「うあー、やわらかーい。きもちいー!」と嬉しさで一杯の声を出します。
それを聞いた熊猫の兄は「ほぉ、確かに聞いてるとこっちまで楽しくなってくる声だ。よおしにんげん、木も食っていいぞ!」と言います。
でもにんげんはこれにはきょとんとして「私木は食べれないよ。」と熊猫の兄の喉に頭をこすり付けます。にんげんの髪は木屑塗れです。
それを見ていた犬は熊猫の兄に「にんげんは木は食べないぞ。果物なら食べるが。」と言いました。
すると熊猫の兄は「そうかそうか、この木には果物が生ってるからそれを食べてもいいぞ!ただし俺が食べるために木を倒したんだから少しだけだぞ!」といってにんげんを引き剥がしました。
にんげんは名残惜しそうでしたが、果物を食べていいといわれたので木の方に近寄ります。
そうして果物を齧っていると熊猫の兄は「ああ、種は木を倒した所に入れるから持ってきてくれ。」と言います。
にんげんが「どうして?」と聞くと、熊猫の兄は「そりゃあ、倒した後は植えないと木がなくなっちまうからな」と答えました。
にんげんがなるほどなぁと思っていると、熊猫の兄は「いいことを教えてやろう。」と木をバキリと齧りながら言います。
なんだろうとにんげんが思っていると、「木は種を適当に放っておけば生えるが、果物は蜂が居ないと生らないんだ。木の花の間を蜂が飛ぶと果物が生る。蜂は小さな働き者ってことだ。」と言う熊猫の兄。
にんげんが「そうなんだ。私ぜんぜん解らなかった。熊猫の兄は凄い。」というと、熊猫の兄は照れくさそうに「まぁそんなの果物がどうやってできるかじっと見てれば解る事だ。まぁ俺の場合いつ果物ができるかずっと見てた、食欲の勝利だな。」と言いました。
にんげんが、「そっかー。食欲凄いなぁ。」と言っていると、熊猫の兄は、「でも凄いばかりじゃないんだよなぁ。」なんて言います。
どういう事かと聞くと、「他の熊の兄弟は果物を生らす重要な蜂を食うんだよ。蜂が居なくなると困るからもうずっと前に太陽と月が三十回巡る間に一個しか食べちゃいけないぞ、と決めたんだが。中々守らん。」とため息をつきます。
にんげんが「それは大変だね。」というと、熊猫の兄は「そう、大変なんだ。」と言います。
それからしばらく、にんげんは蜂を食べないようにな、とか、犬とにんげんも他の熊の兄弟が蜂の巣をむやみに食べてるのを見たら止めてくれよ、とか言ったりしてから、熊猫の兄は木を食べるのに専念しはじめました。
にんげんはこの不思議な森は皆が好き勝手に食べたりしたりしてもなんともないと思っていたのですが、そうではないんだな、という事を学びました。
そしてそれはちょっとにんげんをがっかりさせましたが、でも食べすぎは良くないしね、とも思わせるのでした。




