高い高い
これはにんげんが幼児だった頃のお話。
湖の畔で、「いーぬ、いーぬぅ。」とにんげんが犬の名前を呼びながら伏せているその大きな身体に上ろうと何度もチャレンジを繰り返しています。
お腹の毛皮をぐいぐい引っ張りなんとか身体を持ち上げようとしますが、当然そんな力はにんげんにはまだありません。
足をかける場所があれば違うのかもしれませんが、残念ながら犬のお腹は逆三角のスリムボディー、引っかかるようなお肉はありません。
「なぁにんげん。」という犬の声ににんげんが、「あい。」と答えます。
それを確認すると犬は、「乗せてやるから大人しくしていろ。」と言ってにんげんを咥えます。
「うー!いーや!いーや!」と声を上げるにんげんの声を無視して、柔軟に首を曲げて前脚の肩辺りににんげんを下ろすと、犬は伏せの姿勢に戻りました。
すると、「あい?おー!いぬー!いぬー!」とにんげんが嬉しそうな声を出します。
そして犬の毛を引っ張りながら、あっちへゆらゆらこっちへゆらゆらと身体を揺らします。
犬は、「あんまり身体を揺らしすぎて落ちるなよ。」と言いますが、にんげんはわきゃーと楽しんでいて聞いているのか分かりません。
やれやれ仕方ないな、と思っていると、魚の姉がやってきて、「犬、貴方にんげんを一旦降ろしなさい。」といいます。
なぜ、と聞くのも面倒なのでまたにんげんを咥えて、「あー!あー!やー!」と叫ぶにんげんを地面に降ろしました。
するとまたにんげんは犬の登頂にアタックするのですが、そんなにんげんはとりあえずさておき、魚の姉が話を始めます。
「犬、貴方は大きすぎてその身体の上ににんげんを乗せたら落ちたとき危ないでしょう。だからにんげんに登らせるのは、貴方が横に寝そべった状態の足の部分だけになさい。」と。
それを聞いた犬は、「落ちると何が危ないんだ?」と聞きます。
それに対して魚の姉は「高いのが問題なの。貴方の巨体からにんげんが落ちたら、下手したらにんげんの頭は潰れちゃうってお母さんが言ってたわ。」と言います。
そういわれると犬も「そうか、それはまずいなぁ…解った。魚の姉の言うとおりにする。」といって横倒しに寝そべり始めました。
にんげんはそんな犬の脚の先のほうから登ろうと「うーうー。」と言っています。
魚の姉はそんなにんげんに「頑張ってにんげん、貴女ならきっと登れるわ。」と応援しています。
後年、犬が伏せをすればひらりと飛び乗れるようになったにんげんにこの話をすると、「え?そんなだったっけ。あはは、ごめん覚えてないや。」と言って頭を掻いたといいます。
でも、なんだかもふもふもの物に必死にしがみついていたのは覚えているというのです。
それは多分犬以外の兄弟も混じっているのですが、にんげん的には犬との思い出なのです。
歩けるようになってから一番一緒に居る時間が長いのは犬だから、それも当然なのかもしれませんが、かわいそうですね、他のもふもふな兄弟達。




