にんげんには難しい話
これはまだにんげんが小さい頃のお話。
にんげんは岸辺にうつぶせになったお母さんのてのひらの上に犬と一緒に乗って、お母さんの顔を見上げながら聞きました。
「おかあさんはなんでそんなに大きいの?」
お母さんは微笑みながら、にんげん達を吹き飛ばさないように囁くように言います。
「それは大きな兄弟を沢山産むためよ。」
「大きなきょうだいをうむのにおおきいひつようがあるの?なんで?」
「それはね、産むと言うのは身体の中から出す事だからよ。」
「じゃあむかしのおかあさんは山より大きかった?」
「そうね、昔はもっともっと大きかったわ。」
「もしおかあさんがもっときょうだいをうんだら、ちぢんじゃうの?」
「私が兄弟を産む事はもうないでしょうが、もし産んだらそうなるでしょうね。」
「おかあさんのおかあさんはだぁれ?」
「私のお母さんは誰も名を知らぬ原初の神、世界の創造と共に私を作り、兄弟を産み育む運命を与えました。」
「だれもなをしらぬげんしょのかみ?」
「誰も名前を知らないのよ、いいえ、始まりの神様だから名前が無いのかもしれないわね。この世界を作った凄い神様、と覚えておくといいでしょう。」
「えと…せかいのそうぞうって?」
「世界とは私たちが生きる場所全ての事、創造とは作り出す事、作るとは何かで何かを形作る事。にんげん、貴女が泥で山を作るのも山を創造しているということなのよ。」
「うんめいは?」
「生まれたときからそうあるべきと決められた役割。でもこの運命と言うものを持つ者は極少数です。私の知る限り太陽や月、この大地といったわずかなものだけが真に運命という役割を持たされた者といえます。」
「う、うぅ~。おかあさんのはなしむずかしい…」
矢継ぎ早に繰り返される問答と、問答のたびに生まれる新しい疑問ににんげんは頭を抱えます。
お母さんと話すとにんげんはすぐに頭が一杯になってしまいます。
「おかあさんもういいよ。わたし、もうこれいじょうあたまにはいらない。それよりおうたをうたって。」
そう言ってねだるにんげんに、お母さんはいやな顔一つせず頷きます。
そしてにんげんには真似の出来ない美しい音の連なりがお母さんの喉から発せられます。
その音は広い広い湖と森、山にまで響き渡り、全ての怪物の心も安らがせます。
その音色ににんげんも犬も徐々にまぶたが下りてきてまどろみはじめました。
お母さんはただそれを微笑みながら見ています。
満足そうに、愛おしそうに。




