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散髪

 犬はある日言いました、「にんげん、その髪邪魔じゃないか?」と。

言われてみればにんげんの前髪は目の前を覆い口に入ろうとするし、後ろ髪は腰を越えて太ももに絡みつかんばかりの勢いです。

にんげんもさすがにこれには「たしかにちょっとじゃまかも。」と前髪を脇になでつけながら言いました。

 それなら、という事でにんげんは犬の案内で蟷螂 (かまきり)の兄の所へ行く事になりました。

犬の案内で着いた場所は森の中の花畑。その中央で大人二人分の身長と、鋭い白色の鎌の手を持った黒い蟷螂が地面に顔を突っ込んでなにやらやっていました。

 犬が「こんにちは、蟷螂の兄さん。」というのに合わせてにんげんも挨拶し、一緒に「蟷螂の兄さんは地面に頭をつけて何をしてるの?土を食べてるの?」と言いました。

それに対して蟷螂の兄は、「こんにちは、犬、そちらはにんげんかい?これは土じゃなくて土の近くに居る虫を食べてるんだよ。」と言いました。

 虫を食べているという言葉ににんげんは何かを思い出したのか渋い顔、蟷螂の兄が「どうしたんだい?」と聞くと、「虫、土とか木の味がする、私食べられない。」と言いました。

蟷螂の兄は、「ははは。」と笑って、「にんげんは木や土の味はダメかぁ。僕なんかは芳醇な香りを放つ、いい味付けに感じるけどね。」と言います。

にんげんが首をかしげながら、「ほーじゅんってなあに?」と聞くと、「ふむ、口の中に広がり胸を満たすかのようなって所かな、良い匂いのことだよ。」と大分噛み砕いた説明を蟷螂の兄がします。

にんげんが「ふーん。蟷螂の兄さんは土とか木とかが良い匂いなんだね。私は果物がいいなぁ。」と言って話を続けようとするのを、犬がぽすんと肉球をにんげんの頭に乗せて止めます。

 気を取り直した犬は蟷螂の兄に言います、「蟷螂の兄、実は今日はにんげんの髪を切ってもらいにきたんだ。お願いできるかな?」と。

それに対し蟷螂の兄は「ええ、切るのかい?こんなに綺麗なのに。」と鎌の背でにんげんの髪を掬い上げます。

もったいないと思っているのか、虫の変わらない表情ではまったくわからない蟷螂の兄に、口を開くために犬の肉球から逃れたにんげんが言います、「髪、じゃま。お母さんみたいな形にならないからき、きる?してもらう。」と。

 お母さんの髪は綺麗に撫で付け固めたように全て背中側に流れています。にんげんのように目の前にばさばさとしたりしていません。

それを思い描いた蟷螂の兄は頷きました、「解った、にんげんの髪を切ってあげよう。じゃあ頭を身体の前に出して下を向いて。」と言いながら。

 この言葉に素直に従ったにんげんは腰を曲げて頭を前に突き出し、下を向きます。

すると髪は自然に下に流れ、にんげんはモップのような按配になりました。

そこを蟷螂の兄の鎌が一閃、ふわりと髪が舞ったかと思うとどさりとそれは地面に落ちました。

 それを見ていた犬は頷きました、蟷螂の兄の鎌はさすがだと。

にんげんは「あれ?頭軽くなった!頭軽い!凄い!」と何が起こったのかわかってきません。

蟷螂の兄の精妙な鎌の動きは、人間の体の凹凸に合わせて髪を切ったので、ちょっと長さにむらが出来たりはしましたが、そこはご愛嬌。

誰も何も言わないのでこれでいいのです。

 こうして髪を切ってもらったにんげんは、犬と一緒に蟷螂の兄に「ありがとー!」といって帰っていきました。

髪は花畑の上にこんもり山を作っていましたが、犬が埋めました。

こうしてにんげんの初散髪は終わりました。蟷螂の兄の手元が狂ったら、と思うとひやりとする体験ですが、にんげんはそんな事にも気づかず軽くなった頭に上機嫌。

これから先も何度もお世話になることになるのでした。

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