石
今日にんげんと犬は山の谷になっている所へ来ています。
犬が言うにはそこには岩を削り続ける変わり者の兄弟がいて、ずっと岩から何かを掘り出しているというのです。
それに興味を惹かれたにんげんは犬に連れてきてもらったのです。
谷の中に入るとザリザリと音がします。
その音に犬は立ち止まると、例の兄弟はこの奥にいるから一人で言って来い。俺はこの音がどうにも我慢できないから外で待っている、と言って立ち止まってしまいました。
にんげんは犬も結構苦手な物多いよね、と思いながら岩と岩の間を進んでいきます。
そしてしばらくすると、岩の前で背を仰け反らせて岩に前足をかけがら岩を削る、全身分厚い鱗の犬の半分くらいの大きさ四足の兄弟がいました。
そのお尻には太い尻尾が生えて、頭は鱗でつやつやで口は長くのびていて、とても分厚い筋肉が前足を覆っていますが、下半身はそれほどでもありません。
長年の岩削りで上半身だけ鍛えられてしまったのでしょうか。
にんげんが元気にこんにちは!と声を掛けると、音がゴリ、と言ったきり止まって、鱗の兄はゆっくりと振り向きました。
そして、なんだお前、と聞いてきます。
にんげんはさらに元気に、にんげんだよ!お母さんの一番下の兄弟なの!と返します。
すると鱗の兄はふぅんと言って作業に戻ろうとするのですが、にんげんが、ねぇ、削りだした石を見せて、といった所大いに反応がありました。
ビタンと尻尾で地面を叩き全身でにんげんの方を向き、そうかそうか!岩を見たいか!なら見せてやるぞ!と上機嫌になり始めます。
そして一度どこかへ引っ込んでいくと、口に沢山の岩の塊を咥えて出てきました。
そして地面に頬をつけてゆっくりと口を開くと小石の山がざあっと音を立てて広がります。
にんげんはその石に興味津々、近づいていきます。
すると鱗の兄はさぁどれでも選べ、説明してやるから!とうきうきした声で話します。
だからにんげんは手近な小石、変な丸いでこぼこが浮かび上がった石を掴んでこれはなあにと聞きました。
すると鱗の兄は嬉しそうに、それか、それは貝だ。何故かは知らないがこのあたりの岩の中からは貝の殻や魚の骨が浮かび上がる岩が採れるんだ。それが楽しくてまぁ何年もここで岩を削っているんだが、分かってくれる奴がいなくてな、と言います。
にんげんはなんだか嫌な予感がしましたがここまで来て引くわけにも行きません。
貝ってなあに?と聞くと、湖に貝の兄弟もいるからそのうちお母さんに聞いてみればいいと返され、結局貝がなんなのか解りません。
めげずにこんどはなんだか解らない三角形の尖った物が浮かび上がった石を手に取って、これはなあにと聞くと。
それか?それはな、俺の思うに何かの牙だと思うんだが、なんの牙だかわからん、と言われます。
そこでにんげんは、じゃあお母さんに聞いてみればいいよ、と親切心で言うと、鱗の兄弟は歯をむき出しにして唸ってから。
これがなんなのか考えるのが楽しいんだ、何でも知ってる母さんに聞いたらその楽しみがなくなってしまうじゃないか、と答える鱗の兄。
にんげんは頭がこんがらがってしまって鱗の兄が何を言っているか解りません。
だって、解らない物がなんなのか解った方がいいとにんげんは思っているからです。
それからしばらくにんげんと鱗の兄の、解った方がいいと解らない方がいいのやりとりは続きましたが、結果は平行線。
とうとう鱗の兄が、はぁ、ようやく理解者が現れたかと思ったんだがなぁ、お前はどうやら違うようだ、帰ってくれ、という言葉がとても気落ちしているようでした。
だからにんげんは、なんだか悪い事をした気持ちになってごめんね、といいました。
鱗の兄はいい、気にするなと言いましたが、取り出してきた石の山を片付ける姿はどこか哀愁が漂っていました。
そして犬との帰り道、にんげんは犬に言いました、解ってあげたかったけど私バカだから鱗の兄の考えが解らなかった、私ってダメだなぁ、と。
それに犬は年長者らしく余裕のある態度で、まぁ人にはわからんものというのはあるものさ、だからにんげんが特に悪いというんじゃない、と慰めました。
こうしてにんげんのある憂鬱な一日は終わったのでした。




