第24話 蛇肉
「はーい、引き上げて」
鍋をまたいで洗濯竿に吊るした滑車が回る。鍋から魔力タンク用の蝋の型が引き上げられた。蝋は長方形の四角いボックス型で角に丸みをつけていた。ちょうど背中に背負えるくらいのサイズだった。上部には、魔力弁用の二本の穴が取り付けられている。
「おぉぉ、すげえな兄ちゃん。よくわかんないけど、かっこいいぜ」テッサクは、目を輝かせて言った。
最初はみんな興味津々で見ていたが、すぐに飽きて、最後は、カイルとガン爺だけがタンク作りをしていた。漬けたタンクが乾いたらまた漬けるのを繰り返しているだけなので、つまらないのは仕方ない。
ガン爺と話し合い、純度の高い魔力を充填した後に、ポーションへ注入する出口は、タンクの側面に吸引弁をつけることで解決した。側面の穴は、必要に応じて後から穴を開けることにした。ポーションへ注入するには、ホースが必要なため、蝋で作った棒を何本も作った。
作り終わったときには、日が沈み始めていた。夕日を境にカラコロが辺り舞い始める。ようやくヴァルナ像に向かう準備が整った。革制作を祝福するようにカラコロがあたりを舞っていた。
飽きて休憩していた人たちが、集まってきた。
庭に火が焚かれた。
「やっと終わったか」ナル婆がそう言いながら、薬草用の鍋を持ってきた。
外に置いたテーブルの上に、串刺しにした蛇の肉、鍋用の野菜や、南の森で捕れた、うさぎ肉、鶏肉、そして大蛙の肉が並べられていた。
「なに、このお肉、初めて見た」エレナが大蛙の肉を持ち上げると、蛙の形がそのまま残っていた。
「きゃーーっ!」エレナは肉を放り投げた。
「もったいない!」すかさず、ラウタが飛びついてキャッチした。
「俺が取ったやつなのに」
「そうなの? でも、イヤ!」
「えぇぇ」ラウタが困った顔をした。
「うまいんだぜ、それ。プリっぷりの鶏肉みたいなもんよ。お肌にもいい。ツルッツルになるぜ」ベルトが助け船をだした。
「だめです。ぜったい鍋には入れちゃだめね。焼いて食べるのはいいです。決まりです」
「えぇぇ」ラウタは、焼いて食べることにした。
――エレナ、子供かよ……
カイルは、昔のことを思い出した。
「カイル、お腹すいた」子供のエレナが言った。
「よし、狩りに行こう!」カイルたちは、そのまま森へ入った。泥だらけで帰ってきて取れたのは、サワガニだけだった。いまと同じ夕方、二人で焼いてサワガニを食べた。
――昔は、食べれるものは、なんでも食べていたな。
――だいぶここの暮らしも良くなってきたのかな。
月明かりと焚火の灯り。宴会が始まった。
子供たちとなぜかテオが一列に並んで、串刺しの蛇肉を食べる。
「うまーい」ラウタが無表情で言う。
「……独特ですが、確かにうまいです」目を見開きながら、ハンスがかぶりついている。
――さっき散々逃げ回ってたのに、現金な奴だな。
「よくわかんねぇけど、うめぇな、カイル兄ちゃん」
――テッサクは相変わらずだ。
蛇肉は塩で味付けした単純なものだったが、今まで食べたことのないうまみがあって美味しかった。
――プリっぷりに近い感じ? 一目連の肉を食べれることは滅多にないみたいだし運がいいな。
「カイル、どうせ食べきれないから余った肉は、天日干しにして粉末にするといいわよ」ロザが珍しく話した。
「粉末ですか」
「そう、特殊な調味料や生薬の材料として、高く売れると思うわ。私も一度だけ一目連の粉末が売っているのをみたことがあるわ。小瓶が十万ゴールドで売っていたの」
「本当ですか」
「わしもそれは考えとった。それが売れれば、しばらく酒には困らん」少し酔い回り始めたガン爺が話に入ってきた。
「しかし、この国では、一目連は神聖な生き物じゃ。狩りは禁止されとる。どうやって売りさばくかじゃな」
――どうやって売りさばくか……
カイルの頭の中に、ふと、ストールの顔が浮かんだ。
――「そこまでご存じでしたか、同志よ!」か。
――売れるかもしれないが、ストール……会いたくないな……
「皮はだいぶ余っている。一目連の皮も非常に貴重だから高く売れるぞ」とガン爺が教えてくれた。
――背に腹は代えられない。これを売ればよい収入になるぞ……今度こそお小遣いだ。
カイルは食べながら胸躍った。
「兄ちゃんがな、川からバッと出て」テッサクが身振り手振りで話し始めた。
「違いますね。ゆっくりでました」ハンスが訂正する。
「バッと出て、ズブっとさして、ボンよ、ボン!」
「ズバンですよ」
「ボン? へびさんは、ガン爺といっしょなのね! すごーい!」リリィが良くわからない反応をした。
「ボン、ボン、ボンのボン♪」テオが楽しんでいる。
みんなが不思議に思っている横でロザが苦い顔をしていた。
――ガン爺は酔っぱらって聞こえていないから大丈夫だろう。
「わしの土魔法がなければ、この村は成り立たん」そのガン爺は力説し始めた。
「聞いとらん」ナル婆が鍋をかき混ぜながら答える。
「わしの若い頃はな」
「聞いとらんぞ、じじい」
「王宮でな」
「その話は、三回目じゃ」
ガン爺は、それでも話し続けていた。
カイルがみんなと少し離れた位置で座っていると、エレナがやってきた。
「何してるの?」
「準備さ、子供たちにプレゼントがあるんだよ」
「すごい。いつの間に用意してたの?」
「ラザロ救出作戦で使う道具のついでに作っただけだよ」
カイルはバッグから竹に小さいラッパがついたものを取り出した。
「それをこれからみんなに話すんだよ」




