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すくうもの 〜令和怪奇跡〜  作者: ももすけ
第4部 追慕編
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現れた黒幕①



 みんなが一生懸命がんばっている頃、サトルは証悟が見せた夢の中に閉じ込められていた。



 今はダムに沈んだ乙筒木村の、寒々とした光景が広がっている。鈍い色の曇天の下に木々の葉は散り、色までもが消え去ったようだ。



「こんなコトしてるうちに、またオオカミがくる……。早く起きないと、早く起きないと」



 頬をつねっても頭を岩に打ちつけても、なにも起こらなかった。



「起きないと明璃を助けられねえだろ! いい加減起きろよオレッ!」



 しまいには民家に入り、台所で見つけた包丁で何度も自分自身を刺した。それでも痛みすら感じず、なにも起こらなかった。



「……どうかしてる」



 焦りだけが過ぎ、再び襲われた無力感にため息をついた。包丁を捨て、民家から出て行こうとすると、玄関に女性が立っていた。



「おふぁーーっっ!?」



 サトルは驚いて大声を上げた。まさか自分で自分を刺している姿を見られているとは思っていなかった。



「驚かせて申し訳ありません」



「いや、謝るのは勝手に家に上がったオレのほう……」



 聞き覚えのある声だった。姿も見えず、ずっと聞こえた声。



「……ゆかりさん?」



「はい。ここまで来ていただき、ありがとうございます」



 腰まで伸びた黒髪に白いワンピース。シンプルな出で立ちの女性は頷き、頭を下げた。



「オレは……オレたちは、好きでこんなトコに来たワケじゃない。ゆかりさんも藍原証悟のやってるコトに一枚噛んでいるのか?」



 サトルの問いかけに、ゆかりは首を横に振った。



「夢で私の姿を見たでしょう?」



「あんたは木と一体化してた」



「ええ。あの月桂樹は女性を取り込む空妖。能力は……もうお分かりですね。夢を見せる能力です」



「よくわかってる。それでオオカミの空妖をオレたちにけしかけたのか?」



「夢を見せているのは……証ちゃんのほう。あなたたちに悪い印象を植えつけ、敵意を剥きだしたのです」



 ゆかりは苦虫を噛み潰したような顔をした。



「ああっ、ウソに塗れている。狼神様と畏れられていたオオカミだって、みんなやさしい子でした。生け贄に捧げられた私を保護してくれた。今では証ちゃんに悪夢を見せられて……」



「あんたを保護したのは、月桂樹に埋めるためじゃないのか?」



「そんなコトは!」



「なんで木と一体化したのか、思い出せないのか?」



「それが……なにも」



 一旦冷静になって、怒りに任せるのは悪いと思った。サトルにとって真相はどうでもいいからだ。理不尽に振り回された人生には同情するが、明璃を助けるのが先決だ。



 それに信じたいものを信じる自由くらいなくては、あんまりだ。サトルは話題を変えた。



「なあ、明璃を攫ってどうしたいんだ」



「証ちゃんはこう言っていました。私の代わりを見つけたと」



「代わり……ああ、くそッ」



 やりたいコトはわかった。証悟はゆかりの代わりに明璃を差し出す気だ。



 ひとりが入れば、もうひとりは出て行けると考えたのだろう。イス取りゲームのように。



 サトルは頭を掻きむしった。冷静になろうとしても、怒りばかり沸いてくる。証悟は言った、理不尽には理不尽をと。ならば空妖には空妖を。力ずくでも止めるしかない。



「証悟を止めてとか言ってたな。状況が状況なら、もうどうにも止まらないぞ」



「……構いません。証ちゃんも私も空妖という存在を知ったとき、運命の歯車が狂ってしまった。あなたはどうでしたか?」



「禅院サトルとして、呪継者として産まれたからこうなってる」



「産まれた頃から……」



「バクが取り憑いてから半年も経ってないのに、色んなコトが目まぐるしく起こって、巻き込まれて……」



 思い返せば色々とあった。人面犬に会ったり、事故で亡くなった親友の幽霊とも出会ったり、カッパと学園祭を盛り上げたり、女子になったり。



 この中でイヤな思い出はない。それは、ひとりじゃなかったから。なにも失わなかったから。そしてその過程で繋がった縁が、支えてくれている。



「オレは幸せなほうなのかな」



 サトルの頭上から光の柱が降りてきた。誰かが夢から醒ましてくれる合図だ。ひとりじゃないコトを感謝しつつ、しみじみとつぶやいた。



「それを呪ったりは……?」



 ゆかりは小さな声で訊いてきた。



「そんなの、どうせ結果論だ」



 サトルは力なく答え、浮遊感に身を任せて静かに目を閉じた。網膜に焼きついたゆかりの姿に、幸福など感じられなかった。木に取り込まれてずっと動けず、乙筒木村から出たコトもない人生。呪いたくもなるだろう。



「こんなカタチで、あんたたちに出会いたくなかったよ」



 これから起こるコトは、誰も幸せにならないという確信を抱きながら、サトルは再び目を開けた。








「――禅院くん。おはようございます」



 星がまたたく夜空の手前に、樫見が手を握っていた。もう慣れたようで微笑んでいる。



「おはよう、樫見さん」



 樫見が花子さんとチカラを共有しているのを見るに、起こってほしくないコトが起きているのは明白だった。



 立ち上がって周りに見渡すと、ダム湖が広がっている。サトルはここがどこなのか、すぐに理解した。つい今までいた夢の乙筒木村の跡形はない。



「でも、なんでこんなトコに」



「それはー、俺のせい!」



 背後からの聞き慣れない声に、すぐに身構え振り返ると、足がの見えない半透明の男が浮いていた。暗い瞳をしていないので、悪霊ではなさそうだ。



「幽霊? そうか、オレに取り憑いて……」



「俺のコト知らない? 誰なのか気になんない?」



「別段」



「はいみなさん、こんばんわ。コワスギチャンネルのコワスギでっす。んー、コワスギコワスギィ!」



 上がった語尾がカンに触り、サトルは眉間にシワを寄せ、舌打ちした。



「あー舌打ちした! 幽霊に向かって舌打ちした! んー、コワスギィ!」



「そーれ、悪霊退散、悪霊退散っ」



「あッ、やめて、塩はやめて」



 土俵入りした力士のように、コワスギお化けに塩をまく小林先生を見て、サトルは初めているコトに気づいた。そしてこの混沌とした状況にため息がでた。



「おーい、コワスギお化け。さっきは冷たくあしらってすいませんでした。なんでオレに取り憑いたんだ?」



「あんちゃん、ため息すると幸せが逃げちゃうぞえ〜?」



「質問に答えてほしいんだけども……?」



「あー怒ってる! コワスギィ!」



「わざと煽ってるよなテメーッ!」



「ぜ、禅院くん。落ち着いてください。深呼吸ー、深呼吸……。ねっ?」



「……ありがとう、毎度毎度。オレもガマン強くならなきゃ」



 樫見が諌めてくれたおかげでサトルは落ち着いたが、逆にコワスギお化けが怒って、悪霊になろうとしている。女子と仲良くして嫉妬しているのだ。



「おうおう、俺に取り憑かれたのに、ずいぶん横柄な態度じゃねえのよ。強気にでれる理由でもあるのか? ねえだろ。いいのか、今度はそっちの娘に取り憑いても」



「……バク、起きろ」



「んぁ?」



 サトルはバクの声を聞いてすぐ背中に手を突っ込み、それを引き抜いた。真四角の刀身には包帯が巻かれている。



「なんだ、そりゃあ」



「霊剣・鏡花旅楽。空妖とか幽霊だけを斬る剣だ。また冗談でも言ってみろ、容赦はしない」



「んー、コワスギィ! とでも言うと思ったかカスがッ!」



「在るべき場所におくってやるよ」



 包帯を解くと、露わにあった白い刀身が光り輝く。まるで悪霊を斬らんとするサトルの意志に呼応するように。



「LEDで光らせてるだけで、それが冗談ってオチだろ! アハ、アハハハ……ハ?」



 突如、突風が吹いたような悪寒が走った。身体も精神も凍りつくような、呼吸を忘れるほどの緊張。身の毛のよだつ恐怖を振り払い、サトルはプレッシャーの感じるほうを向く。



 遠くのトンネルから、誰かが姿を現した。その黒いシルエットは歩いてゆっくりと近づいて、手を振ってきた。



「思ったより、早く会えたな」



 近づくにつれ心臓が速まる。シルエットが鮮明になると、その喪服を着た男に見覚えがあった。



「藍原証悟……!」



 ついに現れた悪夢の主。赤い瞳と笑った口元から見える鋭い歯は、彼が吸血鬼である証左だ。



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