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すくうもの 〜令和怪奇跡〜  作者: ももすけ
第4部 追慕編
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反撃の狼煙①



 とんでもない事態だ。目を覚ますとオオカミに囲まれているうえ、サトルも明璃も行方不明になったのだから。



 日付が変わったのに夜なのは変わらず、しかし時計は狂ってはいない。古梶荘内はパニック状態だった。



「てか、メリーさんと花子さんはどこいったんだ!?」



「わ、わかりません。あのふたりに限って、キケンなコトはしていないと思いますが……。うぅ、心配になってきたなあ……」



「ああもう、なんでこんなに寝てたんだろ! 日付変わるまでさ!」



「携帯は依然として圏外、Wi-Fiもない。道は倒木で塞がれ、オーナーはぐっすり眠っている。どうすべきでしょうか」



 古梶荘に残された4人はそれぞれにできるコトを探すも、頭を抱える一方だった。無力感に包まれ、やがてため息しか出なくなったとき、外のオオカミの威嚇の鳴き声が大きくなった。



「……誰が来たのか!?」



「威嚇してるなら、オオカミの味方じゃないよね!」



「どうやって迎え入れましょう……。ドアを開ければオオカミが入ってきちゃいますし……」



「案ずるな。勝手に邪魔するぞ」



「その声は天狗様!」



 食堂から声がした。4人はそこへ向かい電灯を点けると、暖炉に真っ黒になった三郎が座っていた。



「サブちゃん、あわてんぼうのサンタクロースじゃん!」



「ぶふっ!」



「……笑える余裕があってなによりじゃ、人の子らよ」



 真島と魅人が笑いあうも、ふたりには三郎の歯軋りは聞こえなかった。



「あ、あの。禅院くんと明璃さんの行方を知りませんか。花子さんとメリーさんもいなくなってしまったんです……」



「問題はない。聞こえるかメリー、暖炉の前と念じよ」



 煙突を通り抜け、暖炉に砂が降る。三郎は横に捌けると、花子さんと手を繋いだメリーさんが瞬間移動してやってきた。



「花子さん、メリーさん。無事でよかったです!」



「心配ありがと。夕七も無事でホッとしたわ」



「それで、ふたりは……?」



「見つからないよ……。どうすればいいんだろう。無事でいてね、お兄ちゃん、お姉ちゃん……!」



 メリーさんは両手を組んで祈る。状況は悪いままのようだ。



「三郎天狗様、手がかりもないのでしょうか?」



 小林先生の質問に、三郎は首を横に振る。



「わしの砂察知サーチは、あくまでも砂で輪郭を炙り出すだけ。それを見破ったのじゃろう、オオカミめら。一匹一匹がニンゲンの輪郭に似たモノを背負い、走り回って撹乱しておる」



「一匹ずつ、しらみ潰しに当たってみるのは現実的じゃなさそうですね」



「となると、じゃ。紫城明璃はオオカミが背負っておるのじゃろう」



「では、禅院さんは……?」



「誰にも気づかれず戸を開けた形跡もなく、外に出た。あやつなら暖炉から飛び跳ねて煙突から出られるじゃろうが、ススはわしを見ての通り。結論を言うと……」



「言うと?」



「幽霊に取り憑かれたとしか思えん」



 幽霊に取り憑かれると身体の主導権が乗っ取られるほか、物や壁を透過できるようになる。三郎には、そうとしか考えられなかった。



「もっとも、たゆたう幽霊が近くにいればのハナシじゃがな」



「幽霊ってコトは、この近くで亡くなった人……あっ!」



 魅人は手を叩いてスマホを取り出すも、圏外というコトを忘れていた。



「コワスギチャンネルの人! 見られないけど!」



「例の遺体か。血を吸われて幽霊となってなお、従うとは。よっぽど脅されたか、弱味を握られたか……」



 天井からドスンという重い音がした。三郎は砂察知サーチでオオカミが屋根に乗ったのに気づくと、危機を楽しむように笑った。



「ククッ、これでは袋のネズミじゃな。時間がない。戦える者は覚悟を決めよ」



「作戦とかはないの!?」



「強いて言うなら、死ぬな。以上」



「身も蓋もない!」



「なに、助力はする。生命を賭ける行動も意外と病みつきになるぞ?」



 試すような物言いに、誰もが黙った。車内ならあれば虚勢を張るのもいざ知らず、表に出てオオカミに立ち向かうのは、気が引けた。



 それでも、今が勇気を出すときだ。友達を助けるために。それは誰もがわかっていた。だからこそ――



「わたし、行きます……!」



 夕七は声を振り絞った。



「必ず、助けます!」



「そうこなくっちゃね! 夕七、もちろんチカラを貸すわよ!」



 樫見の右目の下に、雫の印が現れた。花子さんと能力を共有した証だ。



「それじゃあ、ボクらも情熱出して行こうか! ウンちゃん!」



 魅人はポケットから石製の狛犬を放り投げると、その狛犬は大型犬サイズとなり、衝撃をともなって着地した。



「……おれだけ借りる相手いない!」



「じゃあ、わたしのチカラを貸すよ、真島っち。助けたいっていう気持ちがあるなら、共有できるハズだから!」



 メリーさんが真島の手を合わせると、受話器の模様が浮かび上がった。初めて空妖との共有を経験して、真島の目が輝く。



「千田、うしろ!」



 真島は共有したそばから、魅人の背後に瞬間移動した。



「すっげえ!」



「感動した?」



「けど、ホント一瞬で見てるモンが変わるのはキケンだよな。使いこなせるかな、おれに」



「そこは慣れだよ!」



「慣れか! わかった!」



 初めて空妖の能力を共有して喜んでいる真島に、三郎がマスクを外して近づく。



「戦闘向けでない能力なのでな。この面を被るといい」



「サブちゃん、うしろー」



「そのつまらない口に砂嵐でも詰めて窒息させてやろうか?」



「ワッ……! ごめんなさい」



 真島は三郎のうしろに瞬間移動しておちょくるも、想像以上の怒気に気圧されたながら、振り向いた三郎にマスクを被された。



「この丸いレンズみたいなヤツ、視界めっちゃ悪い!」



「すぐ慣れる。ともかく、これで戦士は揃った。覚悟を決めたなら、まず試してみるのじゃ」



 天井の足音は止んだ。三郎はその幼さの残る顔を不敵に歪める。



「さあ、煙突からオオカミが落ちてくるぞ。そのマスクで射抜いてみよ」



「どうやんの!?」



「構え、念じよ!」



「またそれかよ!」



 真島は屈んで暖炉に入り、見上げる。マスクによる視界の狭さと煙突の中の暗闇で、なにも見えない。



「今だ、放てッ!」



「マッシマァァァビィィィィムッ!」



「悠吾くんうるさっ!」



 真島の気合いに応えるようにマスクはクチバシを開き、一筋の光の矢を放った。薄っすらと照らされたオオカミが悲鳴を漏らすのが見えた。



「サブちゃん、右!」



 真島は瞬間移動して、見事に着地するオオカミを回避した。



「いい判断じゃ」



「あの、マッシマービーム当てたのにピンピンしてるけど」



「わしの面にヘンな名をつけるでない。ヤツらは傷が治る能力じゃ。ほれ、もう威嚇しておるぞ」



「うわーッ! とんできた!」



 オオカミは真島に飛びかかるも、前に立ちはだかるウンちゃんの前脚を噛みついた。



 その間に樫見は水道の蛇口を捻る。



「ウンちゃん、こらえて!」



「くぅん……」



「ビビッちゃダメー!」



 ウンちゃんは石なので痛みは感じないものの、鼻にシワを寄せて食らいつくオオカミが怖かった。



「水が溜まりました!」



「やっちゃいなさい、夕七!」



 蛇口から流れる水は、重力に逆らって弧を描きながら宙に留まる。やがてその水が集まると巨大な水球となり、オオカミを閉じ込めた。



「よおし、上出来じゃ人の子らッ!」



 三郎は期待以上の動きに、黒い瞳を目を輝かせた。その姿は見た目通りの人の子供ようだった。



「能力の共有は想いの共有ッ! 助けたい一心で動けば、互いにそのチカラを存分に発揮できるじゃろう」



 外のオオカミたちはさらに吠え、壁に体当たりまでするようになった。



「相手はあの大群じゃ。模擬戦通りにはいかん。不安はつき纏うじゃろうが、仲間たちと心をひとつに。さすれば全てうまくいく」



「おれたち、助けられるかな!?」



「無論じゃ、わしが保証する」



 三郎はニヤリと笑った。



「このまま、失いっぱなしで終わりたくなかろう?」



「はい!」



「では行こう。これからが我らの反撃開始じゃッ!」



「はいッ!!」



 もう誰も下を見ない。人と空妖は手を携え、堂々と立ち向かう。友達を助けるために満月の下へ。



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