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すくうもの 〜令和怪奇跡〜  作者: ももすけ
第4部 追慕編
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月が見つめる鬼ごっこ③



「うわーっ、揺れる揺れる!」



「舌、噛まないように!」



 オオカミに追いかけられながら、車で峠道を走るとは。局所的に崖際に擁壁もあるしガードレールもあるが、やはり緊張が勝る。まったく新鮮で危なっかしいだと、揺れる車内でサトルはしみじみと思った。



「あッ! 圏外になった!」



 アシストグリップに掴まりながら、スマホを見ていた魅人は叫んだ。



「これででで、わたたたしの能力もも、スマホじゃ使えないねねねね」



「メリー、ふざけてるの?」



「花ちゃんまで辛辣!」



 ガタガタ揺れる後部座席でメリーさんは深刻そうに言うも、小刻みに言葉を続けるせいでそうは思えなかった。



「わっ……ああ」



「先生! 樫見さんが固まってる!」



「励ましてあげてください!」



「樫見さん、ゼッタイに大丈夫だから! がんばってー!」



「あ、ありがとうございます……」



 サトルが励ましていると、そのすぐ背後からか細い声が聞こえてきた。バクのものだ。



「うぅ……。ワタシにも、励ましてくれ。サトル……」



「バクは車酔い、いい加減慣れろ!」



「おいキミ、話が違うぞ……ガクッ」



「うおお、チカラの共有が切れた!」



 サトルの赤い瞳は元の黒に戻る。これで万が一が起きたとき、立ち向かう術がなくなった。車内に一気に緊張感が高まる。



「みなさん、硬くなりすぎですよ。黙っていても危険なのは変わりませんし、音楽でもかけましょうか!」



 こんな状況にも関わらず、小林先生は元気いっぱいの声色でカーステレオの再生ボタンを押すと、緊迫した車内に軽快なピアノのイントロが流れだす。サザンオールスターズの『希望の轍』だ。



「いやー、こういう曲がかかると、こんな道も海沿いの道に見える……ワケないって! そんな気分にならないんだけどコバちゃん!」



「むむ、じゃあ変えますか」



 次の曲は攻撃的なギターとシャウトが響く。ディープ・パープルの『ハイウェイ・スター』だ。



「なんか古そうな曲! でもいいぞ!」



 疾走感のあるサウンドに乗って峠道を駆ける。曲が終わっても、オオカミたちはしぶとく追いかけてくる。



「じゃあ次はおれがかける!」



「いよっ、DJ真島さん!」



「ウソでしょ、前ふたりのテンションおかしいよ!? なんでそんなにノリノリなの!?」



 魅人のツッコミに答えはなく、ウキウキしながらスマホの音量を最大にした。



「おれの答えは……これや!」



 流れた曲は、赤い服の配管工が活躍するあのゲームの、スターをとって無敵になったときの音楽だ。



「ははぁ、いい選曲です。シャレが効いてますね!」



「道から落ちても無敵時間だ! オオカミを蹴散らしてGOーッ!」



「それはシャレにならないよー!」



 虹色に光りながら走るのは気分だけでも、黙ってるよりかは盛り上がるほうがいいだろう。サトルはそう思い、しみじみ頷いた。



「サトルくん、ちょっと悪ノリしすぎって思わない?」



「そうだな……。でも無敵だからってコースから落ちると、ふつうにタイムロスだもんな」



「マリオカートじゃないんだから! 落ちたときロスるのは命だよ! 小林先生、もうちょっと、ね?」



「千田さん……運転手は私ですよ!」

 


「この独裁者ーッ!」



 異様なテンションで盛り上がりながら、車は駆ける。やがて車体の周りには、オオカミは見えなくなっていた。



「おっ、撒いた、撒いたぞ! やっとあきらめやがったな!」



「文明の利器に敵うモンですか!」



「オオカミより小林先生の運転のほうが怖かったんだけど〜っ」



 真島は賑やかさのなくなったサイドミラーを見て、音楽を止めた。小林先生は速度を緩めるも、走るのは止めない。峠道は山に挟まれた上り坂になった。



 行き先が気になったサトルは訊ねてみた。



「ところで、どこまで行くんです?」



「道なりに行ったところにですね……取ってるんですよ、宿を。今日、明日とお泊まりしますよ!」



「やだぁ、着替えとか持ってきてない!」



「いいじゃねーか、学ランで。下着は裏返して着れば!」



「よくそんな発想できるな真島ァ!」



「ボクも聞いて驚いたんだけどさ、よく宿の予約できましたね。先生」



「ええ。おそらく、あの事件以降に客が来なくなったのだと」



「ああ、そうかも。じゃなきゃ明璃ちゃんも含めて、こんな大人数を泊められないもんね」



「紫城さんと早く合流したいですね」



 左右とも鬱蒼とした林だったのが、いきなり開けた場所が現れた。ウインカーを出して減速する。



 入っていく先は、普通の乗用車が数台停められるくらいの小さな駐車場だ。そんな駐車場には、他に車は一台も停まっていない。



「到着です。みなさん、おつかれ様でした」



「外だーッ!」



 駐車場に入ると、みんなですぐに外に飛び出した。足場が揺れないとは、なんとありがたいコトか。



「おれたちが泊まるとこって、あそこ?」



「はい。なんでも非日常を売りにした、隠れ家的ペンションだとか」



「隠れ家なのは間違いないね」



 ぼんやりと灯りのついているペンションは、まるで小学生が書くような三角屋根に煙突がついた、大きな家そのものだった。



 木をイメージしたであろう茶色の外装と派手な赤い屋根は、山の中という立地も含めて、たしかに非日常を味わえそうだ。看板には古梶荘ふるかじそうと書いてある。



「さて、私含めて6人で予約しているのですが……」



「待たせたな」



 三郎が砂雲で降りてきた。三郎のうしろには、目を覚ました明璃がいる。



「明璃さん、よかったあ……」



「夕七。その、ごめんね。あたしのせいで迷惑かけたみたいで」



「とにかく無事でよかったです。三郎天狗様もありがとうございました」



「うむ……」



 小林先生が頭を下げる。しかし三郎はスッキリしない様子だった。



「サブちゃん、どしたの?」



「聞くがよい、人の子ら。今しがた倒木があった。閉じ込められた」



「「ええーッ!?」」



「オオカミどもめ。追いかけたのも挑みに来たのも、よもや時間稼ぎとは。ヤツら、したたかよのう」



 出し抜かれた、という気持ちがマスク越しからも伝わってくる。



「わしの能力で持ち上げるのはワケないが、オオカミどもは止められん」



「じゃあ、どうすれば……」



「うむ。泊まってゆっくりしておれ。オオカミどもはわしが監視する」



「結局は予定通りじゃん! じゃあみんな行こうぜ!」



 真島が先頭に立ってズンズン進んでいく。それに釣られ、みんなもペンションへ向かっていった。



「おっと。しばし借りるぞ、禅院の呪継者を。話がある」



「オッケー。じゃあ前で待ってるね」



 三郎はみんなでペンションの前に行くのを見送り、誰もこちらへ向いていないのを見ると、サトルの両肩に手を置いた。



「おまえの戦いを見せてもらったが……。なぜじゃ?」



「なぜって、なにが?」



「わしが紫城明璃を保護したと言った、その後じゃ。なぜ戦う気を失くした?」



「そんなコトなかっただろ? オレだって必死だったよ」



「そうかの。背中の口よ、お主はどう思った?」



「ああ、ちょっと待って。バクは今、車酔いでダウンしてんだ」



「口が車酔いとは、おかしな空妖じゃな」



「でもそれさ、バクにも言われた。戦う理由は自分のためとはならないのか、って」



「して、その答えは?」



 サトルは少し黙ったのち、目をつむって首を振った。



「わからない。戦う理由なんかなきゃ、そもそも戦う気もない」



「自分に興味がないとでも?」



「……それもわからない」



「これだけは聞いてくれ」



 三郎はマスクを外すと、サトルと歳の変わらないであろう少年の顔立ちが表に出た。しかし年相応ではない鋭い眼差しを向ける。



「まずは自分のために戦うのじゃ。それが皆を守るのにも繋がる」



「どうして、そんな深刻そうに」



「禅院の呪継者――いや、覚悟を決めたニンゲンは皆そうだったからじゃ。自分のコトなぞ省みず……」



「だから、まだ呪われてると?」



「意地悪を言うつもりはないが、綺麗事をほざくつもりもない。ただ、自分のために全力を尽くせるようにしてほしい。言いたいコトはそれだけじゃ」



 三郎は恥ずかしそうに、すぐにマスクを被った。



「三郎さんの誠意、受け取っておくよ。それと明璃を助けてくれてありがとう」



「話は済んだ。皆の元へ行くがよい」



「三郎さんが戦いたいときは、また言ってよ。オレ、あんたのために全力出すから」



「言ったそばから。自分のために戦わんか、この大バカ者めっ!」



 三郎は砂雲で上空に上がったのを見て、サトルもペンションに向かう。



「自分に興味がない、か。あながち間違ってないのかもな」



 残した宿題を思い出しながら、ぽつりとつぶやいた。



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