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すくうもの 〜令和怪奇跡〜  作者: ももすけ
第4部 追慕編
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月が見つめる鬼ごっこ①



 スマホのマップを頼りに、サトルは夜空を駆ける。バクの口から生えるカラスの翼と着ている学ランは黒いため、夜に溶け込んでいた。



 それでも人目につかない場所を飛ぶ必要があるが、サトルには明璃のコトだけが気がかりだった。



「道だけで見ると遠く感じるモンだが、直線距離だと存外近いじゃねえか」



「余裕風を吹かすな。キミ、かなり疲労が溜まってるんじゃないか?」



「気にしてらんないよ、後悔しないためだ!」



 飛ぶ体勢を保つだけで身体中に痛みが湧いてくるが、それを意識する余裕はないため、これでよかったと思った。マップの現在地に重なっている古梶山を見て、つくづく思う。



 ここからが始まりだ。ラインの通知の数字を無視し、スマホをバクの口に放り込んだ。



「アカリの手がかりもないのに、どうする気だ?」



「足取りは追える。必ず」



 サトルはバクの能力を共有した。すると左目に縦に走る赤い傷跡が浮かび、瞳も赤く染まった。これこそがサトルが受け継いだ呪い。禅院の呪継者たる証だ。



「この際、過程は問わない。まず見つけられれば、それでいい」



 バクの能力は食べた生物の特性を得られる能力だ。これを共有したサトルは、身体能力や五感の底上げなどの基本的な強化はもちろん、虫や魚や動物の特性も扱える。



「……あったぞ、ニオイが。移動している」



 サトルの鼻に反応したのは、明璃の汗のニオイだった。バクが食べたカが持つ感覚器官のおかげで、よりわかった。



「フフ、アカリに言ったら怒髪天だろうな」



「絶対に言うなよ、バク。それじゃあ急降下頼む!」



「ここでか? まあ、いいさ。なにか考えがあるんだろ」



 鬱蒼とした木々に、無謀にも突っ込んでいく。バクの懸念は、地面や木に激突するコトではなかった。



「ワタシたちがアカリを追っているのはわかる。だが、なぜアカリのニオイが近づいてくるんだ?」



「オレたちは追っていた立場なのに、ってか?」



「なにやらキナ臭いが、キミはアカリのニオイしか頭にないんだろう?」



「人をヘンタイみたいに言うなよ、オレはただ、ほんの一縷の望みも捨ててないだけだ」



「クサいコトを言うじゃないか」



 バクは翼を自らの口の中にしまい、サトルは頭から落ちる。木々の樹頭に差し掛かるとき、手首からクモの糸束を放出し、木の幹に巻きつけながら落下速度を相殺して、幹周りを回りながら着地した。



 久々に踏みしめたような気がする大地の感覚。その目の前には、オオカミが唸っていた。明璃の姿はない。



「夢であったな、オオカミさんよ。その背中に乗せてたみたいだが、明璃はどこだ?」



「おっ、新手の殺し文句か?」



「備えろよ、減らず口!」



 オオカミはいきなり噛みついてきたが、サトルはうしろに跳んで回避する。



「殺されそうになって文句を言いたいのは、オレのほうだけどな!」



「キミも大概、減らず口じゃないか」



 オオカミは再び唸り声を上げる。裂けた口からは、明璃の手がかりは出てこない。



「アイツ、喋れないのか?」



「オオカミが喋る前提だったのか?」



「いや……だって。空妖だろ? マネキンだって喋るのに。今時、人面犬もカッパも喋る」



「んー……、たしかに。言われてみればそうだ」



「だろ?」



 バクと雑談してるうちに、オオカミは問答無用で飛びついてくる。



「どうなってるんだよ、言葉が通じないぞ!」



「いや、そりゃなあ。まあ、うん。じゃあ切り替えていこう。まずはチカラの見極めだ」



 戦闘体勢になる瞬間、三郎の声が聞こえてきた。



『禅院サトルよ、ヤツの能力は再生能力じゃ。人外じみた身体能力があったとて、生半にはいかんぞ。数も多い』



「再生能力? じゃあ一撃ならいいんだな?」



『それと、紫城明璃は保護してある。わしは他のオオカミたちの見張りでな。切るぞ』



「そうか、よかった……。ありがとう、三郎さん!」



 これで心配事はひとつなくなった。サトルはオオカミに対し、挑発的に睨む。



「よし。あとは自分の心配だけすりゃいいワケだ」



 明璃を乗せてどこへ向かうのか。このオオカミを退け、生かして後を追いたいが、そんな余裕はないだろう。シンプルに考えて、体長1メートルの四足動物に勝てるワケがない。それどころか、殺意を向けられて生きて帰れるとは思えない。



 だが、それも普通の人間ならば。



「どう攻める? サトル」



「まずは勝つ気もなければ、死ぬ気もない。見極めるだけだ」



 オオカミが襲いかかる瞬間、サトルの視界はスローモーションになった。これはハエの特性だ。



 オオカミの前脚はどちらから踏みだすか、ツメやキバのリーチはどれくらいか測るためだ。



 右の前脚から踏み出し、左脚を振り抜いた後で、頭を噛み砕こうとしてくる。これが基本の動きのようだ。太く鋭いツメやキバが飛んできても、動きを見れたサトルに恐怖心はなかった。



「よし、次。反撃してみるか」



 特殊な遠距離攻撃はなさそうなので、オオカミが飛びかかったところをしゃがんで腹に潜り込み、両手を地面につけて身体を持ち上げ、両足を突き出して蹴りを喰らわせた。



「ったく、ヤだな。動物虐待してるみたいで。バクはどう思う?」



「おいおい、ワタシは他の動物だって食ってるんだぞ、強くなるため、生きたまま。キミが背負え、その後味の悪さは」



「いちおう言っておくか、動物の虐待は犯罪です!」



 バッタの跳躍力を生かした蹴りは、オオカミに空を舞うという経験をさせた。当のオオカミは見事にくるりと受け身を決めて着地。やはり睨んでくる。



「トラの尾を、いやオオカミの尾を踏んだな。殺気が濃くなった。どうやらキミを侮れない敵と認識したようだ」



「体術がダメなら、やっぱ斬るしかないか!」



 立ち上がって臨戦体勢に入ろうとしたとき、異変が起こった。身体が動かなかった。



「やっべ」



「サトル、大丈夫か?」



「出た、今頃……。疲れが」



「ドアホだなキミは!」



 立ち上がれたはいいものの、足元がおぼつかない。一瞬だけ戦意が失っただけで、バクとの共有が途切れると、心は恐怖する。



「ペース配分を調節すべきだったな。ここは逃げよう。背中はワタシに任せて」



 踵を返しオオカミに背を向け、道に出られるように山の斜面を走る。サトルの足取りは、まるで産まれたてのシカのようにフラフラだ。それを見たオオカミは遠吠えした。



「仲間を呼ぶ合図だろ、アレ!」



「容赦ないな。確実に仕留める気か?」



 遠吠えをした後、やはり襲いかかってくる。



「振り返りたくないーッ!」



「言ったろ。背中は任せろって」



 オオカミが肉薄するも、バクは笑い、オオカミの顔を目掛けてタコ墨を吐いた。ついでと言わんばかりに、鼻先にカメムシ臭のツバを吐き出した。



「フフ、前後不覚になった」



「スゴいぞ、バク!」



「ただし、この一頭だけだ」



 バクはオオカミたちが降りてくる音を、聞き逃なかった。



「あんな数にはやってられないぞ」



 バクの足止めと、サトルの足を止めないで走ったおかげで、峠道が見えた。



「よし。チカラを振り絞って木に登るんだ。きっとサブローが見てる。助けてくれるハズだ」



「逃げの一心で、さあ跳ぶぞッ!」



 バクの能力の共有を再び試みると、左目が熱くなった。フラフラの足にチカラを込めて跳ぶ。見事に一番高い枝に届いた。



「はあ、もう疲れちゃって」



 弱気になった途端、共有は解かれる。



「全然動けなくてェ……」



「言ってる場合じゃないぞ、キミ。下を見ろ、下を」



 言われるままに下を向くと、灰色のものがたくさんうごめいて、その一匹が近づいているように見える。



「オオカミが木登りする!?」



 サトルは焦った。木の擦れる音は、まるであの世へのカウントダウンだ。オオカミの荒げる息は、全身を噛みつきたい表れのようにも聞こえる。



「飛ぶにしたって……。戦うか? いや、あの数じゃダメだ。鏡花旅楽きょうかたびらがあっても」



「諦めるなんて、キミらしくないな」



「諦めねえよ。生きてる限り、どんな可能性も残ってるだろ」



 サトルは夜空を仰ぎ、暗い峠道を一瞥して、その可能性を見出す。どんなに暗くても、あの月のように輝く道標を探して。



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