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すくうもの 〜令和怪奇跡〜  作者: ももすけ
第4部 追慕編
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暗夜に駆ける②



 黒い翼は夜空を駆ける。サトルは月明かりに照らされた街を見下ろす暇もなく、前だけ見つめ飛び続ける。赤い瞳の視線はそびえるビルの先、立ち並ぶ鉄塔のもっと先、夢にまで見た古梶山だ。



「なあ、キミ。口を挟むようで悪いが、なぜアカリは古梶山に?」



 バクは大きな口から翼を出しながら、サトルに訊いてきた。



「わからない。確証もない。あるのは悪い予感だけだ」



「探すのに骨が折れるぞ。目星はついているのか?」



「全力を尽くす」







 話は放課後に遡り――



「それで、もうひとつの話ってのは?」



「うむ、それが……」



 三郎の歯切れが悪くなった。サトルは眉をひそめる。



「そなたらといっしょにいる少女が古梶山に向かうバスに乗っておる。名を明璃と言ったか」



「明璃が!? なんで!」



「どういうワケか、わしの『砂察知(サーチ)』に引っかかった。まだ車中ゆえ、仔細はわからぬ」



「なんでだよ、おい……!」



 サトルはそのバスの時刻表をスマホで調べると、明璃が乗ったバスが最終便のようだ。田舎の交通の便の悪さにイラつきながら、スマホをポケットの中にしまった。



「明璃ちゃんだって、ここで話聞いてたもんね。近寄らないと思うけど……」



「わしもそう思いたい。不安を煽るワケではなかったが、念のため伝えておいた。もし降車した先が古梶山の最寄りならば、また伝えよう。最悪の状況は起こるならば、わしが防いでみせる」



「サブちゃん、お願いしますよ!」







――明璃の身に万が一起ころうとも、三郎も監視してくれている。明日には、いつもと変わらぬ日常が戻っているかもしれない。



 しかしサトルには、昨日の明璃の別れ際の言葉が引っかかった。常に最悪を想定してしまい、ジッとできなかった。



「朝まで待っていられるか。電話も出ないし、ラインに既読がつかないなら、直接行くしかない。バク、わかってくれ」



「フフ、ワタシが止める理由はない。口であるワタシがキミの右腕として翼になろう」



「なんかこんがらかる言い回しだが、頼りにしてるぞ!」



 目下の家屋の屋根からパラパラと音がする。雨ではない。



「むっ? 砂が降っているぞ。サブローのやつかな。キミ、目に入れるなよ」



「明璃が見つかったのか!」



 砂の降りしきる音は、次第に三郎の声へと変わり、メッセージとなった。



『あんのじょうじゃ。紫城明璃は古梶山に向かっておる!』



「だろうと思った。すぐにオレも向かう!」



『もちろん、わしが見張っている。焦るな、そう長くは飛べんじゃろう』



「チンタラしてらんねえよ!」



『気持ちは汲むが、案ずるな』



「……うぇ。てか、喋りづらい」



『なにゆえじゃ?』



「砂がパラパラ降ってさあ、口の中がじゃみじゃみするッ! 気持ち悪い!」



『仕方なかろう。情報の伝達はコレしかないのでな。ならば次は黄砂にするかの』



「それもダメ! とにかく明璃を頼む!」



『うむ。余力を残して迎えに来い。笑顔を見せられるようにな』



「そんなコト言うキャラじゃないだろ、アンタ……」



 連絡が終わり、砂が降り終わったと思えば、また降ってきた。再び聞こえる三郎の声も、余裕が感じられない。



『なんだッ。紫城明璃、並のニンゲンの速さではない。なにかに騎乗しておるな!』



「どうした!?」



『この輪郭は……オオカミに乗っているようじゃのう、空妖かの。やれやれじゃ。禅院サトル、必ず余力を残して来い。後に全力を出すために!』



「三郎さん気をつけろ。そのオオカミは一匹だけじゃない!」



『承知した。では飛ばすとするか!』



 街中に降り注いだ砂は逆再生するように空へ昇り、サトルと同じ方向へ飛んでいった。もう砂は降らないと見ると、バクの口は止まらない。



「砂がワラワラ〜って飛ぶと、こう、イナゴの大群みたいだな。キミはどう思う?」



「ひどい例えだと思った」



「なんだ、気をほぐそうと思ったのに」



「ああ、そう。いや、いいぞ。話してたほうが痛みが紛れる」



「どこか具合が悪いのか?」



「飛ぶ姿勢を保つのに腹筋が痛いんだよ!」



「フフ、余力を残してって言われたじゃないか」



「心的にもそんな余裕はない。さっき言っただろ。全力を尽くすってさ!」



 その胸と背中に固い決意を抱いて、黒い翼はがむしゃらに飛ぶ。



 その夜空の下では――





「ねえ悠吾くん。サトルくんさ、どう思う?」



「なんか中学の頃みたいな、しんどい顔してたよな」



「……わ、わたしもチカラになりたい」



「「「でも……」」」



 真島、樫見、魅人は部室に残っていた。3人は話を合わせなくとも、三郎の砂の声を聞いて、サトルが古梶山に向かうと確信していた。しかし移動手段はないため、ヤキモキする一方だ。



「サトルくんのラインは?」



「送ったけど既読つかねえ!」



「禅院くん、ひとりで解決する気ですよ……。たぶん、メリーさんの瞬間移動をさせないために」



「行かせないよね、サトルくんなら。それだけ危険が伴うってコトなのかな」



「危険なのは今に始まったコトじゃないクセに、あの意地っ張りめ!」



「「「はあ〜……」」」



 ため息が部室内を包んだ。なにもできないのはわかっていても、明日なんて待てない。まるで授業中のように時間が過ぎるのが長く感じるくらいには、気が重くなっていた。



 そんな部室内に訪問者がやって来た。



「おや、みなさん。もう外は暗くなりましたよ? 明日から週末なのに、どうしました?」



「小林先生……」



 オカルト研究部の顧問の小林先生がやって来た。小林先生は生徒たちの暗い表情を見て、メガネの奥を光らせた。



「禅院さんと紫城さんは?」



「じ、実は……」



 ふたりが古梶山へ向かったというコトを、一斉に話し出した。小林先生は頷きながら、まず安心させるために微笑んだ。



「そうでしたか……。空妖絡みの事件なら、天狗様の帰りを待つのはどうでしょう」



「友達が危ない目にあうのに、ジッとしていられませんよ!」



「みんななら、そう言うと思いました。……私も同じ気持ちです」



 小林先生は肘にかけたハンドバックから、車のキーケースの輪っかを指を通し、クルクルと回し始めた。



「ちょうど週末でしょう? なのでランクルで峠でも攻め……運転しようとしてたんです。オイルもバッテリーも換えて、ガソリンも満タン。ハイグリップのタイヤにも履き替えて」



 3人は顔を互いに見合い、そしてすぐに先生のほうを見た。



「私は教師として失格だと思います。生徒を危険から遠ざけようとしていないのですから」



「というコトは……?」



「ご両親には、うまく理由をつけてください。たとえば合宿とか。でないと心配するでしょう。いいですね?」



「は、はいッ!」



「では、決まりですね」



「ちょっと待って〜!」



 メリーさんの声が外から聞こえた。小林先生は歓迎するように入り口を開け、肩で息をするメリーさんの頭をなでた。



「紫城さんが心配ですよね。いっしょに行きましょう」



「ねえ、その、私もいるんだけど」



 メリーさんのうしろで、花子さんが不機嫌そうに頬を膨らませると、小林先生は空いてる手で花子さんの頭もなでた。



「あっ、いや、そうしてもらいから言ったワケじゃないわよ」



 そんな口ぶりのわりには、花子さんの膨らんだ頬はしぼんで、ほんのり赤くなる。



「夕七もメリーも行くなら、私だって着いてくに決まってるでしょ」



「花ちゃん大好きー!」



「ちょっ! もう、やめてよ。抱きついたり、なでたり……」



 言ってるわりには、まんざらでもない表情をしている。ここにいる全員が思った。この場に明璃とサトルもいれば、いつもの光景になるのに、と。



「……さあ、揃ったところで。駐車場へ行きましょうか」



「はい!」





 バラバラに進んでも、誰かのために向かう心はひとつ。



「――ぐおおっ! 腹筋がいてえ!」



「少しは休んだらどうだ、サトル」



「止まっちゃいらんねえ! バクも気合い入れろよ、このまま飛ばして――」





 大事な友達を連れ戻すため、特別な日常を取り戻すため。募る思いは重なり、ひとつになる。



「このランクル、車高高くない?」



「まあまあ……。狭くなるので詰めてくださいね。安全第一でキビキビ走りましょう!」



「じゃあ、気合いを入れて――」



 さあ、全員で行こう。友達を救う冒険へ。魍魎跋扈の魔の山へ。月が照らす夜を駆けて。



「「行くぞ、古梶山へッ!」」



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