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すくうもの 〜令和怪奇跡〜  作者: ももすけ
第4部 追慕編
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暗夜に駆ける①



 放課後、サトルたちはいつものように居候しているオカ研部室に集まった。



……明璃を除いて。



 特になにも言っていないが、まとめ役を買って出た魅人がホワイトボードの前に立つ。



「というワケで、『古梶山怪奇事件』をまとめまーす」



 水性マジックのキャップを開けて準備すると、サトルは手を上げて、食い気味に止めた。



「ちょ、ちょいストップ。明璃は来ないのかな。魅人、見なかった?」



「そういえば来ないね。てっきり来るものだと思ってたから、声もかけなかったよ。夕七ちゃんは知ってる?」



「いえ、わたしも……」



 明璃が昨日に訊いてきた質問が、頭の中によぎる。



『サトルはさ、あたしがどこかへ居なくなっても、探してくれる?』



 証悟たちの夢を見てから、なぜだか不安になる。大事な友達が、どこかに行ってしまいそうで。



「歯医者に行ってるとかじゃねえ?」



「……うん。そうだな、きっとそうだ」



 真島が言うように、なんらかの用事があるのだろう。サトルはそう納得させた。



「それじゃ続けるよー。えへへっ、やっとオカ研らしいコトしてるね」



 魅人は機嫌よく、ペンをホワイトボードに走らせる。



「サトルくんが突然『私を見つけて』って声を聞いたら、夢を見るようになったんだね?」



「うん。その声の主はゆかりって女の人だ」



「そのゆかりさんが贄として捧げられたのが、前の東京オリンピックの年だね。大昔だよね」



「幼馴染の藍原証悟が再会したのが、ソウルオリンピックの年。24年ぶりに再会したゆかりは空妖のオオカミを従えてて、洞穴の中で木と一体化してたってワケ」



「は? ワケわからん」



「真島、受け入れる。いいな?」



「アッハイ」



 真島が地蔵のように固まったところで、樫見は手を挙げる。



「あの……。わたし、藍原証悟さんについて調べてみたんです」



「なになに、聞かせて?」



「木になったゆかりさんと会ってから、お寺や神社を回ったり、頻繁に海外へ渡るようになったみたいで……。行き先は中国とか、ベトナムとか、オーストラリア、ほかにもヨーロッパの国々とか」



「すげー飛び回るじゃん。めっちゃカネ持ちだったんだな」



「描いた絵は、最高で億で買われたみたいですね……」



「ウワーッ、なんだそれッ!? いい時代だったんだな、バブル時代!」



「それで、海外に渡った理由ですが……。ごめんなさい、わかりませんでした」



「それに寺や神社にも? なんでだ、わからないコトだらけだ!」



 サトルは真島が騒いでいないと、沈黙が重くなると思い、適度に騒がせておくコトにした。



「理由か。ねね、サトルくん。もしボクらの中でさ、誰かがゆかりさんと同じ状況になったら、どうする?」



「ンなモン決まってる、治しかたを探すしかないだろ!」



「きっとこれだね。即答ありがとう」



 魅人はうれしそうに微笑みをサトルに向ける。サトルも言ってからハッとした。



「と、するならば……結局、治しかたを見つけられなかったみたいだな。ゆかりは逆に『証悟を助けて』みたいなコト言ってたし」



「そうかもしれません。海外を巡って以降は、消息を絶ったみたいですし……。でも、助けてって言ってるから生きている、のかな」



「助けてってなにをさ? 生きていれば70代だろ。年金生活が苦しい独居老人とかなんかな?」



「それ切実すぎるだろ、真島……。いや、そもそもさ。そもそもの疑問なんだけど」



 サトルが言いかけると、スマホのバイブレーションが小刻みに揺れる。通話画面を見ると、メリーさんの文字。首を横に傾げつつ、通話のボタンを押した。



「もしもし?」



「もしもし、あたしメリーさん。あのね、今ね――」



「あーっと、部室の前で!」



「部室の前にいるの!」



 電話が切れると同時に、部室の入り口が勢いよく開いた。そこには能力により瞬間移動してきた人形ひとがたの空妖、メリーさんがいた。



「明璃お姉ちゃんいる!?」



「どうしたんだ、いきなり入って早々。いないよ」



「えー、そっかあ……」



 メリーさんはうなだれた顔を上げ、サトルに青い瞳を向ける。



「いつもね、明璃お姉ちゃんとラインしてるんだけどね、今日は既読つかないんだよ」



「たしかに明璃ってすぐ返すよな。てか毎日?」



「はあ、しつこいのかな。嫌われちゃったのかなって……」



「ンなコトないよ、明璃がそれだけで嫌うワケない。きっと明璃も、メリーさんとのラインを楽しんでたと思う」



「そうかな。……そうかもっ」



 メリーさんに笑顔が戻ったと思えば、矢継ぎ早やに部室の入り口がまた開いた。



「次は誰ッ……!?」



 濃い砂煙の中から現れたのは、ペストマスクを顔につけ、高いゲタを履いた人形の空妖、飯綱三郎天狗いいづなさぶろうだ。



「サブちゃん、おひさー。ビックリするわ、その仮面」



「人の子め、黙っていれば好き放題言ってくれる……」



「サブちゃん、しゅきしゅきい!」



「好き放題言ってくれる……」



 真島と三郎のやりとりに、サトルは露骨にため息をつきそうになったが、訊きたいコトがあったのでこらえた。



「三郎さん、なんの用すか?」



「伝えたいコトがふたつある」



 三郎は部室に入り、ホワイトボードを一瞥して頷く。マスクでこもった声は、深刻そうなトーンだった。



「古梶山か。うむ、話が早い。人の子等よ、この辺りで遺体が発見されたという情報を知っておるな」



「うんうん。カラカラになったユーチューバーのね」



「その犯人は、どういう存在なのかを教えにきた」



「妙に含みのある言いかたすね。わざわざ三郎さんが伝えるってコトは?」



「うむ、空妖絡みじゃ。犯人はご存知であろう、『吸血鬼』と呼ばれるモノじゃ」



「吸血鬼? じゃあ、カラカラになったのは」



「想像通りでよい」



 元より吸血鬼として産まれるワケではなく、人から吸血鬼に成るというイメージがある。それはサトルの疑問と合致していた。



「三郎さん。……あるのかい? 人から空妖に変化するコトは」



「一時的とはいえ、性別が変わったニンゲンがそんなコトを疑問に思うとはのう。どれ、話してみなさい」



 サトルは夢の内容を語ると、三郎は空いている丸イスに座り込み、マスクの下で深呼吸をした。



「古梶山に住まう空妖のオオカミに果実を食べさせる、木と化したニンゲンか。そこに吸血鬼が現れたのは偶然とは思えん」



「それで、質問の答えは?」



「答えはイエスじゃ。ニンゲンを空妖に変える空妖は存在する」



 三郎は外に出て手を空に掲げると、拳を握りしめて開くと、青白い光を放つ霊桜の花びらがあった。それはより強い光を放つと、虚空に一見ふつうのコウモリの映像が浮かび上がる。



「それがこの吸魂コウモリ。こやつに噛まれると、吸血鬼になってしまう」



「そいつは日本にいるのか?」



「かつては存在した。認識すればすぐにわしらが駆除するし、もし噛まれて吸血鬼と化しても、陽が落ちてなければすぐに死んで、記憶から消去されてしまうのでな。そういった理由がある故、吸血鬼が生存できるのは稀じゃ」



「ふうん……?」



 サトルは考えを整理した。吸魂コウモリは日本にいないが、まだ世界のどこかにはいる。かつ夜でないと活動できない。逆説的に言えば、それらを知っているなら生き延びるコトができるというワケだ。鬼らしく、いかなる手段を取れば。



「だが……木と化したニンゲン、か。すまんが答えられん。オオカミも含めて、改めて調べてみよう」



 どうにもキナ臭くなってきた。今までの情報が証悟とバッチリ当てはまる。サトルはそれの可能性を頭の片隅に入れた。



「それで、もうひとつの話ってのは?」



「うむ、それが――」







 みんなと別れた帰り道はひとりぼっち。サトルは空が暗くなるにつれ、決意に固めた。明日は中秋の名月。あの夜と同じ月は、また悲劇を呼ぶ気がして。



「あの月は、夢と変わらないな」



 悪い予感が息に出る。絶対に連れ戻せと、胸の高鳴りが唆す。



「キミ、ひとりで行くつもりか」



「オレは『成る』って決めたんだ」



 サトルは大きな月に向かって手を伸ばし、握りしめた。掴めはしない、だが近づくコトならばできる。空を駆ける翼があるから。



「さあ、飛ぶぞッ!」



 サトルの大ジャンプに合わせ、バクは口から黒い翼を広げた。人妖一体の少年はひとり飛び立つ。月満ちる、悪夢の舞台へ――明璃を迎えるために。



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