表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
すくうもの 〜令和怪奇跡〜  作者: ももすけ
第4部 追慕編
81/133

見えない足跡を追って①



 午前の授業が終わって昼休み。サトルはすぐに弁当を食べた後、図書館に向かった。古梶山の麓にある村について調べるためだ。



 まずネットで検索してわかったコトは、そんな村はもう存在しない、という現実だった。かつて乙筒木おつつぎ村という地名はあったようだが、しかし――



「まさか……ダムの底に沈んでるとは。古梶湖ってダム湖なのかよ」



 夢で見た景色はなくなっている。なのに『私を見つけて』と言ってきた声の主は、なぜしつこく夢を見せてくるのか。



 古梶山で見つかったという変死体というのも、偶然にしては気になる。



「わからん、なにもかも。声なんてほっといて宿題やってたほうがいいかもな」



 図書館は静かだ。ここならば、きっと勉強は捗るだろう。やる気があればのハナシだが。



「……あれ? 珍しいニンゲンが来てるわね」



 そんな静かな空間に響く、わざとらしい大きな声。聞き覚えがある。



「こんにちは、禅院サトル」



 赤いワンピースにおかっぱ頭の女の子。声の主は、ご存じトイレの花子さんだ。今日は図書館に出没しているようだ。



「よう、花子さん。図書館は静かにするところだぞ」



「アタシの声なんて、誰も聞こえないでしょ。みんな凡人ばかり」



「オレが変人みたいじゃないか」



「合ってるでしょ?」



「ノーコメント。図書館ではお静かに」



 花子さんも空妖だが、バクとは違って人形ひとがたの空妖に分類される。人形の空妖を視るには、俗に言う霊感と呼ばれる霊妙な感性が必要だ。



「ここに花子さんがいるってコトは?」



「あっ、禅院くん……」



「樫見さん。ここで会うのは初めてだ」



「アンタが図書館に来ないから会わないんでしょ。夕七はよく来てるのに」



「なるほど。樫見さんが頭いいのはこういうコトか」



「あはは……そんな」



 樫見夕七と花子さんは友達同士で、よく行動を共にしている。



「それで、どうしてアンタが図書館に用があるの?」



「そりゃ調べものがあるからな。花子さんこそ、なんでいるの?」



「トイレはもう飽きたの。これからは図書館の花子さんとして、イメージアップに取り組むわ」



「いいね、面白い冗談だ。ホントは?」



「夕七に悪いムシが付かないためよ」



「は、花子さん?」



 樫見も初耳だったようで、驚いた様子を隠せない。それも本音のトーンだったため、余計に驚いた。



「悪いムシって?」



「周りを見て。意外とね、見られてるでしょ。男子どもから」



「ああ、悪いムシってそういう……」



 そう言われてみれば、マンガを読んで小声でダベっている生徒たちや、長机にノートを広げている、いかにも勉強が出来そうなメガネの生徒の視線がある。



「は、花子さん。それは偶然じゃないかなって……。気にしすぎですよ」



「夕七……。いい、夕七。男はオオカミなのよ!」



「わあ、時代を感じるフレーズ。……まあオレも悪い意味で有名人だから、それで注目集めてるのかもなあ」



 サトルがメガネの生徒と目が合うと、咄嗟に机に向かいあった。あんのじょうかもしれないと思った。



「ってコトは、オレが樫見さんのそばにいればいいんじゃ?」



「えっ!? そんな、悪いですよ……。わたしなんかに」



「ほらオオカミが寄ってきた!」



「あっ、オレも入ってるのね!?」



 花子さんはサトルの首に一滴の水を垂らした。出処が不明だが、花子さんの能力であるコトには間違いない。



「どうすればいいのかしら……。男から見て夕七がモテる要素って、どこだと思う?」



「ちょっ、あの、花子さんっ」



「なんだよその質問……。言えないよ、本人の前じゃ」



「へえ、あるんだ。それだけ聞ければいいわ」



「樫見さんを困らせるなよな、まったく。親しき仲にも礼儀ありだぞ」



「そうね、言うとおりだわ。ごめんなさい、夕七」



 口では謝ってはいるが、白みを帯びた口角は上がっていた。目に見えて楽しんでいる。



「あー楽しかった、やっと本題に入れるわ。それで調べものって? 古梶山のコト?」



「そう、それ! でも、なんで花子さんが?」



「わ、わたしも気になったんです」



 もじもじしていた夕七が顔を上げ、食い気味に、自信満々に答えた。



「ネットで調べたら、気になる名前があって。あの、ちょっと着いてきてもらっていいですか?」



 樫見の後に着いていくと、通常よりも大きな本が並ぶ本棚に案内された。貸し出せない画集コーナーだ。



「この画集が……よいしょ」



 その中でも特に分厚い画集を手に取り、長机にやさしく置いた。表紙には、藍原証悟あいばらしょうご作品集と書いてある。



「なにか役に立てればと思って……」



「……証悟。夢の中で聞いた! 絵が上手いとも聞いた! ビンゴじゃないか、これは!?」



「図書館では静かに、でしょ?」



 サトルは興奮して、つい声が大きくなった。ついでと言わんばかりにページのめくる音も大きくなる。ほとんどが変わり映えのない田舎の風景画だが、小さく書かれたタイトルの『乙筒木村・遠景』を見逃さなかった。



「すごいぞッ! 樫見さん、すごいよ! 教えてくれてありがとう!」



「えへへ……。役に立てたみたいで、よかったです」



 村がダム湖に沈むよりも前に描かれたのは、間違いない。もしかすると、沈むとわかったからこそ描いたのかもしれない。



 こうして画家となって、しかし幼馴染を失い、のちに沈みゆく故郷をどういう思いで描き、生きたのだろう。画集にはありのままが描かれている。人も空も、なにひとつ気取っていない。ページをめくるたび、不思議と親近感が湧いてきた。



(藍原証悟、か。……あんたはどこにいるんだ)



 そんなコトを思いながらページをめくっていると、脳裏に焼きついた光景があった。角の欠けた石造りの祭壇が描かれている。



「ここ、証悟の友達が――」



 その絵が目に入った瞬間、あのときの声が聞こえてきた。



『お願い……あの人を、証悟を助けて。私を見つけて……』



「藍原証悟を……? ってコトは、あんたはゆかりさんなのか。なにがあったんだ!」



『私を、見つけて!』



「もう、なんでこう一方的なんだよ。見つけてどうしてほしいんだよ、誰か説明してくれよ!」



 女性の声の要望に頭を抱えていると、絵が光りだした。目も覚めるような眩しさだが、逆に眠くなる。夢の通い路だ。



「あッ、やば、眠気ッ」



「ぜ、禅院くん。貸出不可の本の上で寝ちゃダメですよ!」



 眠気に抗えず寝落ちする前に樫見が画集を下げたので、サトルは机に勢いよく頭をぶつけた。



「ぶッッッ」



「ああっ、ごめんなさい!」



 痛みで声が出たのも束の間、すぐにおだやかな寝息を立てた。



「大丈夫そう。よかったあ……」



「いや、よくないわよ。もう休み時間終わっちゃうわよ」



「わっ、もうそんな時間ですか! 楽しい時間は、あっという間だなあ」



 サトルを起こそうとして、やさしく背中をさすったり、ささやいても、ピクリとも動かない。花子さんは呆れ気味にため息をついた。



「禅院くーん、起きてくださーい……」



「こらこら、起こす気ないでしょ。そんな小さい声で」



「い、いや、そんなコトは」



「ひょっとして、ずっとこうしてたいとか思ってなぁい?」



「えっ!? うう……」



「もう、耳を真っ赤にして。甘っちょろい夕七に変わって……。起こすにはこうするッ!」



「頭がガクンってなったあ!?」



 花子さんはサトルが寝ているイスを少し引く。机に伏せてる顔がさらに床へ向いても、まだ起きない。



「チッ、起きなかったか。水持ってくるわね」



「ま、負けず嫌い……」



 花子さんが図書館から出た途端、サトルがうめき声を上げだした。



「ぜ、禅院くん、どうしよう……」



 どんな夢を見ているのか、樫見には想像がつかなかった。全然起きないし、できるコトは見守るだけ。



「……ううん。せめて、これだけ」



 しかし、首を横に振ってすぐに思い直して、サトルの手を握った。



「禅院くんだけが苦しむのは、見ていられない!」



 樫見は少しでも、サトルの苦しみを共有したかった。うなされるくらいの悪夢から、すぐにでも覚めるように、祈るしかできないのだけれど。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ