表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
すくうもの 〜令和怪奇跡〜  作者: ももすけ
第3部 転性編
76/133

三郎は願う



「なんだ今の音!?」



 濃い砂煙で覆われた月海神社の境内。そこで行われているであろう、あかなめと三郎の戦いは、外からではなにもわからない。



「なにが起きてるんでしょうか……」



「ったくもう、サトルはどこ行ったのかしら」



 また静寂が訪れる。後を追おうとして思わず砂煙の中に入ろうとした、そのとき。



「吹きすさべ、雨知草ッ!」



 久しぶりに聞いた声とともに、砂煙が突風によって晴れた。



 その場にいる人と空妖は、夜の闇で見えにくい。しかしその黒い学ランの人影に目を奪われた。



「サトル! よかった、元に戻った!」



「よう明璃。久しぶりっ」



 明璃は駆け寄ろうとするも、二歩目で立ち止まった。



「……ねえサトル、いつ着替えたの?」



「そりゃ男に戻ってからだよ、砂煙を晴らす前にさ。制服はバクが持ってた」



「フフ、いざ戻るってときにコレじゃなければ、締まらないだろう?」



「浴衣は?」



「バクの中にしまった」



「安心しろ、アカリ。キレイなままさ。ホントだぞ?」



 サトルとバクは平気な顔で言う。だが、明璃が聞きたいのは、上のほうではなかった。



「じゃあ、その……」



「ん? あーっ、うん……」



 明璃の下を向いた赤面で、サトルは全てを察した。



「ごめん。あのー、想像通りかも……。いやでも、すぐ脱いだから! バクの中にしまってるから!」



「すぐってなによ、すぐって! あたしの私物だよ!?」



「ごめんなさいその節はホントに助かりました許してください! ……愚問だろうけど、洗って返す?」



 明璃の眉間のシワが深まる。サトルは今、三郎が振り下ろした剣を鏡花旅楽で受け止めているが、剣なんかよりもよっぽど明璃のほうが怖かった。



「だいたい口の中に入れてるってなんなの……。まあいいや、出して」



 明璃はズカズカとサトルのほうへ近寄る。



「ちょっ、気持ちはわかるけど、危ないぞ!」



「それは天狗のせいでしょ! 三郎さん、剣を下ろして、すぐにッ!」



「う、うむ……」



 その剣幕に、さしもの三郎もたじろいで、剣を下ろした。



 明璃はサトルの背中に回ると、すぐそばにいるあかなめがなにか言おうとしたので、睨みつけて先手をとった。



「さあ、出して。両方」



 バクもなにも言わず、ツバを吐くようにそれを出した。明璃は怪訝そうに地面に落ちたそれをを拾い上げる。



「……なんてぞんざいな」



「それ、どうすんの?」



「燃やす。燐孤リコ、こっち来て」



「あー……。うん、ごめんな。もう着れないよな、そんなの。男のオレがな。でもホントに助かったよ。ありがとうな」



「そう謝られるとなあ……。あたしも言いすぎたわ、ごめんね。元はあかなめが悪いんだからね!」



「そうだおまえのせいだぞ!」



「禅院の呪継者を女にして仲良くしたかっただけだろ!」



「これ以上つまらない口を利いたら、あたしがコロすわ、アンタを」



「えっ、コワ」



 怒りの炎を燃やす明璃に、燐孤たちはすごすごとやってきた。律儀に6匹揃っている。



「お願い。これ燃やして」



 明璃はそれを差し出す。



「怖い女……」

「瞬間移動すんだぜ、こいつ」

「お願い聞かなきゃ、なにされるか」

「お社作ってもらえるし、ガマンだ」

「でも、お願いを聞くってコトは?」

「神様としての初仕事……?」



 神様としての初仕事。その美辞麗句に1匹の燐孤は素早く受け取った。もちろん手では受け取れないので、口で。



「あっちがやるぜ!」

「いや、あっちが!」

「神様の初仕事を取るなおまえ!」



 その惨状を見て、明璃はさらに怒鳴る。



「もうーッ! 人の下着を咥えて引っ張りあうなーッ!」



 そんな明璃に、バクは小声でサトルに言った。



「ただの布きれに、ムキになりすぎじゃあないか?」



「それは口が裂けても言っちゃダメだぞ。ゼッタイにダメだからな」



「フフ、ワタシが裂けるって? 冗談がうまいな」



「いや、マジに言うなよ……」



 明璃が燐孤を追いかけて遠ざかったのを確認すると、サトルと三郎は向かいあった。お互い気まずいまま、仕切り直す。



「禅院の呪継者、なぜあかなめをかばう?」



「サメと戦ったとき手伝ってもらったからな。借りを返すだけだ」



「あかなめ。おまえとあろう者が、禅院への能力を解いてまで守ってもらいたかったのか?」



 サトルの傍らに座っていたあかなめは立ち上がり、堂々と言い放つ。



「わかってねえな。白馬の王子様を待つのはなあ、『お姫様んなのこ』だけの特権じゃないんだぜ〜ッ!」



「なんなんだよコイツ……」



 よくわからない自信に少し嫌気が差したが、サトルは女になっていても、あかなめが一瞬でも魅人を燐孤から守ろうとしたのを知っていた。だから守ると、そう誓った。



「まあいいや。早く逃げろ!」



 左手に持っていた霊剣・雨知草をあかなめに返すも、その足取りは重そうだった。



「まだチカラが足んねえ!」



「どうすればいい!」



「しっかり休むか、あとは能力を解くしかねえ!」



「ほんの一瞬だけでも、チカラを解けないのか?」



「わかんねえか? その一瞬で誰かが不幸になるぞ!」



「なんでオレ絡みじゃないとマジメなの?」



 この世の価値の権化であるカネを積んでもなし得ない、身体と心を作り変える『性転換』。それができるのは、やはり神の御技と言えるだろう。崇められるのもムリはない。



 あかなめを追う三郎も、神として崇められていた。この間に挟まるのは神話の一部になったようで畏れ多いが、それでも剣を受け止め続ける。



 が、さすがにキツくなってきた。そのとき、魅人があかなめの下へ駆け寄る。



「ボクの身体を戻して!」



「……いいのかい? 堪能したか?」



「うん。もう平気だよ」



「あいわかった!」



 あかなめは魅人に向けて指を弾いた。見た目に変化はないが、たしかに魅人は男に戻った。



「よし、動けるぞ!」



「ねえ、さっきは燐孤から助けてくれてありがとう」



「駐車場で会った頃よりも、ずいぶんいい顔になったじゃねえか。自信が出たな」



「おかげでいい夏休みになったよ」



「フッ、そりゃよかったな。あばよ!」



 あかなめは海でやったように、足に風を絡ませ、高く跳び上がる。



「ええい、逃すかッ!」



 三郎のマスクのクチバシが大きく開き、光を溜めている。



「コレ、駐車場で見たヤツだ」



「このカンジは、なにが出るんじゃあないか?」



「とにかく離れていよう!」



 サトルは剣を収め、素早く三郎から遠かる。



「貫けえ!」



 勢いよくクチバシが閉じると、その先に小さな光が集まり、まるでホタルが瞬いているようだ。しかしそんな牧歌的な光から、鋭く細い線が放たれた。



「ビームだッ! すげえッ!」



「キミはヘンなトコに興奮するんだな。あのサメといい……」



 光線は真っ直ぐあかなめの足を狙うが、空中で股を開き、間一髪で回避。そして尻を叩いて煽り散らした。そんな光景を目の当たりにした三郎は、なにも言わず光線を連射する。



「あれはマズいぞ!」



 ハチの巣になりかねない数の光線は、ことごとくあかなめに当たらない。よく見ると視界が揺らいでいる。



「クク、それがあっちの足を撃ち抜いたヤツだな?」



 足を引きずっている1匹の燐孤がやってきて笑う。その背中の炎は激しく燃え盛っていた。



「恨みは果たした。痛み分けって形で、これでチャラにしようぜ」



「陽炎を作って距離感覚を狂わせたか。揃いも揃って、まったく度し難い」



 空中を駆けていたあかなめの姿は、闇夜に溶け込んだ。



「だが、まだ追える。砂を降らせれば、まだ!」



「おっと、ここを通りたければ……」



 砂を集めだした三郎の前に立つのは、純白の刃を向け、獣のような闘志を剥き出しにするこの男。



「オレを倒してからにしな」



「……なぜこうも邪魔をするか」



「アンタを思って言ってるんだけどな。太刀筋が言ってたよ、まだ物足りないって。オレが胸を貸そうか?」



 三郎は目を見張った。サトルの赤い傷跡と左目が陽炎によって、まるで炎が揺らいでいるようにも見えた。加えて学ランの色もあってか、威圧感が増している。



「神様もきっとつらいだろうな。勝手に願われて、願いが叶わなかったら神様のせいにされてさ」



「……なにが言いたい?」



「神様だって、たまには願いを聞いてもらいたいだろう?」



「ふふっ、はっはっは! かつてわしが軍神と崇められたのを知っての言動か!?」



 サトルの一言に、三郎の心が動く。ずっとフタをしていた闘争心に火が着いた。



「その不遜な態度、まさに梟風きょうふうと呼ばれた男、禅院サラが地獄から帰ってきたようじゃ」



「オレの先祖にそんな素行の悪いのがいたとはな。いいぜ、見せてやるよ。地獄の一丁目を」



「サトル、キミなあ。久々に出てきたからって、ちょっとイキりすぎじゃないか?」



「こんくらい言ってやんなきゃ、乗り気にならないだろ?」



 マスクの下の笑顔はとても見せられない。ニンゲンを守るべき守護天狗たる者が、ニンゲンに刃を向けている。恥ずべき行動だが、衝動は止められない。



 黒く、白く、そして赤く。鉄のような、光のような、そして炎のような……。



 それらを内包したような、あの少年に全てをぶつけたい。ありのまま戦いたい。身体が焼け爛れ、灰すらも残らないような戦いがしたい。



「……禅院サトル、準備はよいか?」



「アンタこそ右腕はいいのか。オレも片腕だけで戦り合おうか?」



「心遣いは無用。では行くぞッ!」



 このふたりに戦う必要などない。しかし三郎は願った。それだけ、ただそれだけのために。呪継者の証、その赤い瞳は流れ星のように尾を引き、心に炎を灯し、サトルは応える。



 戦いを止められるものも、サトルと似たものだけだろう。鉄と、光と、そして炎……。それらを内包したものだけが。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ