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すくうもの 〜令和怪奇跡〜  作者: ももすけ
第3部 転性編
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愛と舞②

── 月海神社・境内




「ふい~、つかれた。また階段があるとはなあ」



 大きな鳥居をくぐり、真島がサトミとあかなめを追いかけ階段を上った先は、広い空間があった。決して小さくはない拝殿や社務所が目立たないほどだ。ざっと見渡すと、すでにオカ研メンバーは来ている。



「おれが最後か。ってあれえ? あかなめがいない」



「ん、時間通りに来たわね」



「紫城さん、あかなめ見なかった?」



「そういえば……。けど、サトミもいるワケだし、まあってカンジじゃない? それどころじゃなくなるかもだしね」



「うーん。じゃあいいか」



「あっ、千田くんが来ましたよ」



 樫見が指した社務所の前には、巫女装束を纏った魅人といっしょに、魅人の父も出た。



「おおっ……。なんつーか、すげー神々しいな」



「千田魅人さん、似合いますね。わたくしも着てみたいです」



「そりゃサトミちゃんなら似合いまくるよ!」



「まあ、うれしいです」



「真島、鼻の下伸ばすのやめなさい。宮司さんがこっちに来るよ」



 宮司は手を振りながら、にこやかに話しかけてきた。



「はじめまして。私が魅人の父です。君たちが魅人の友だちかな?」



「はい」



 それぞれ名前を名乗ると、手を差し出して握手を求めてきた。



「毎年やってるワケだけど、魅人が友だちを連れてきたのは初めてだから、感慨深くてね」



「たしかに初耳でした」



「まあその、とにかく見てもらえるかな。今日は貸し切りだと思って」



 視線を魅人のほうへやると、いつの間にか鈴がたくさん付いた長い棒を両手でつかみ、水平にして持っていた。真島が驚く。



「すげー長い! あの……三蔵法師が持ってるみたいな棒!」



「れっきとした神楽鈴かぐらすずだよ。ホントはもっと小さいけれど、ウチのはふつうのよりも大きいんだ。理由はわからないけれど」



「すげー重そう……」



 言ってる間に、魅人は拝殿にお辞儀をしていた。



「あ、あそこって、お賽銭入れるところですよね。ここ、よく初詣で行くんです……」



 樫見が遠慮がちに言った。



「ありがとう。そう、あれは拝殿だね。だいたい神社には拝殿の後ろに本殿があるんだけど、ウチの本殿は山なんだ」



「階段が多いのも、山を切り拓いたからですか」



「おかげで参拝客の方々には、ご足労かけてるけどね。屋台の搬入も大変そうで……」



 宮司は苦笑いした。



「で、でも、体力作りしてる人はよく階段走ってますよ。悪いコトばっかりじゃありませんよっ」



「あはは、ありがとう。君たちのようにやさしい人たちがいてくれるから、ここは今まで愛されてきたんだろうなあ」



 宮司の魅人を見る目が細くなった。拝殿前の広場の中央には、石造りの古めかしい灯篭が置いてあり、魅人はその中心にゆっくりとすり足で移動した。



「あそこで踊るんですね」



「神聖な舞を踊るには味気ないけどね。ほら、踊るよ。ぜひ見てってくれ!」



 宮司のテンションが高くなったとき、魅人は錫杖のような神楽鈴の先を地面に叩きつけた。しゃんっ、と音が鳴る。そこに穿たれている穴は、月海神社の歴史を雄弁に、しかし切々と語っていた。



 オカ研メンバーは無意識に息を呑んだ。魅人の表情が、姿勢が、神楽鈴を握るその手が、全て真剣だったからだ。そこに神聖な雰囲気はない。あるのはまるで獣と対峙したような切迫とした緊張感だった。



「はッ!」



 魅人は叫び、神楽鈴を突き出す。次は横薙ぎ。向きを変えて、また突く。動きに合わせて影のように鈴の音もいっしょに着いてくる。



「これがウワサの月海の巫女舞!? まるでカンフー映画みたいです!」



「舞踏というより武闘すね……。しかし何故、こんなコトを?」



 真島は宮司に訊きながら、だがその舞に目が離せなかった。



「魅人から聞いたかな? ウチの神社の伝説を」



「ええ、聞きました」



「なら話は早い。そう、かつて浪人だった我々の先祖が災厄を退け、この神社の娘のもとに嫁いだとき、誓ったそうなんだ。いつまでも守り抜く、と」



 きっとその言葉には、地層のようにいくつも重なった愛があったに違いない。そうでなければ、この神社はとっくに廃れていただろう。



「守るというのは、得てして強くなければならないと思っている。それは現代でもそうだ。社会的な地位、人を支えられる経済力だったりね」



「強くなければ、ですか」



「当時の価値観で言うならば、強くあるために、負けないために男らしくあるべきだ、というコトかもしれないね」



 言った途端に宮司の顔が曇った。



「ああ、だから魅人は息苦しさを覚えていたのかもしれない。舞は男らしさを求められるのに、巫女の恰好をしなければならないのだから」



 鈴は鳴り続ける。まるで慟哭するかのように、ひたすら鳴り続ける。舞うのを止めれば、鳴らないのだけれど。



「……ところで魅人パパさん、なんで灯篭に囲まれた中で踊ってるんですか?」



 真島は唐突に質問した。宮司はそれを聞いてハッとした。



「ああ、もうすぐ終わるからすぐにわかるよ。いや、わからないか」



 魅人は鈴を再び地面に突く。これが終わりの合図だ。



「これで灯篭に火が灯らなければ、無事に終わりってワケさ。うん、今回も無事に――」



 終わらなかった。突然、横殴りの突風が吹き荒れた。目を開けたときには、灯篭に赤い火が煌々と灯っていた。



「な、なんだこれは? まるで」



「災厄の再現ですよね。……やっぱり来たか」



「な、どういうコトだいッ!?」



「それは――」



「ボクから説明するよッ!」



 明璃が言おうとしたのを魅人が遮った。汗を散らしながら父の下へ走ってくる。



「カンタンな話だよ。ボクは女になった、だから灯篭に火が付いたんだ。災厄が来たんだよ」



「はん!? なんて!?」



「信じられないと思いますが、ホントなんです。ちなみにここにいる禅院サトルってヤツも、もともと女なんです」



「千田魅人さん、素晴らしい舞でしたよお! わたくし、感動しました!」



「サトミ、今はそう言う雰囲気じゃないと思うけど」



「あっ、ごめんなさーい☆」



「ぅざってぇ……」



 宮司は舌を出しつつウインクして謝るサトミには目もくれず、ジッと魅人を見つめていた。



「父さん、ごめんなさい。大事に守ってきた伝統を破ってしまって」



「とにかく、そんな奇跡があったとして、それに縋りつくくらい、おまえは苦しんでいたのか?」



 魅人はうつむいて黙った。



「……そうか。伝統を守るために、俺は苦しませてしまったのか。魅人、ごめんな」



「謝らないで。初めて巫女装束を着てみんなから褒められたとき、ボクはうれしかった。……あの喜びはウソじゃないよ」



「そうか。……そうか」



「水を差すようですみません。……来ます」



 突風の風上、樫見の視線の先にそいつらは現れた。鬱蒼とした森の中から、炎を背負うキツネが3匹。



 異形の空妖、『燐狐リコ』夏にもかかわらず白い息を吐きながら、魅人から視線を逸らさず、ゆっくりと近づいてくる。



「おいおい、女が踊ってるのか?」

「いい機会だ。千田の女を喰ってやろう!」

「あっちらは待ってた、その灯篭に炎が灯る日をよォ!」



「火だるまのキツネが喋ってる!? まさか、これが災厄の正体ッ!?」



 魅人も負けじと、燐狐を睨みつける。



「だがあんなヤツはどうすればいいんだ? 大地を焼き尽くすようなキケンなヤツらなんだろう!?」



「あー、ゴホン」



 慌てる宮司に、明璃はわざとらしく咳払いして注目させた。



「魅人はあたしたちが守ります」



「ムリだ! 逃げたほうがいい!」



「ご安心を。あたしたち、強いので」



 不敵に微笑む明璃の傍らで、樫見は燐狐に向かって腕を伸ばす。すると拝殿の手前にある手水舎ちょうずやから勢い良く、水の束が飛び出した。それは球形となり螺旋状に回転し、1匹の燐狐に直撃した。



「きゅう……。冷めちまった。あっちはどうせダメなヤツさぁ」

「なんだあいつァ!」

「ただのニンゲンじゃねーのか!?」



 宮司は樫見の顔を見て驚いた。目の下に、水色に光る雫模様が浮かんでいたからだ。さっきまでなかったハズだ。



「き、君たちはいったい……?」



「魅人の友だちです」



 ずっと険しい顔をしていた魅人に、笑顔が戻った。



「あいつらをやっつければ、それで済むんだ。伝統は形を変えて残していこうよ、みんなが踊れるようにしたりさ!」



「魅人……。ああ、そうしようか!」



 展望を聞いてる最中、燐狐たちは牙を剥いた。



「あっちらを舐めやがって。後悔しても遅せーからなッ!」

「おい、いつまでブルブルしてんだ。しゃんとしろ、しゃんと!」

「へっ、へっ、ヘーッくしょん!」



 水を被った燐孤はくしゃみをすると、ゆらめく赤い炎が再び背中に点火した。



「うう、ぶるぶる……。さあて、あっちらに消し炭にされる覚悟はいいな、てめーらッ!」



「――それは貴様らもじゃ」



 突如、砂煙が上がる。やがて晴れ、なんの前触れもなく空から現れた人影は言った。



「空妖同士の争いにしては敵味方も多いな。……ふふっ、こんな大勢での戦闘とは久方ぶりじゃ」



「ありゃあ鳥のマスクってコトは……。ゲーッ!? 守護天狗の飯綱三郎!?」



「ニンゲンたち、生半可な覚悟では焼かれかねん。闘志を(たぎ)らせ覚悟を決めるのだッ!」



「はいッ!」



 伝統を破り現れた空妖、燐孤。今、千田の『呪い』を解く戦いが始まろうとしていた。



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