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すくうもの 〜令和怪奇跡〜  作者: ももすけ
第3部 転性編
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お祭りドキドキ胸騒ぎ!②



「うおおおッ! どこいったあかなめのヤツ!」



 真島は走っていた。年に一度の縁日、右に左に屋台が立ち並んでいても、それに止まるコトはない。ただひたすらに、女になったサトル、もといサトミをとあかなめの後ろ姿を追っていた。



「アイツ、あんなボロボロのロングコート着てんだから目立つハズなのになあ……。ん?」



 参道で食べ歩きをしている見知ったうしろ姿がふたつあったので、こっそりうしろに回った。楽しそうに談笑している。





「はふはふ……。屋台でアユの塩焼きなんて珍しいなあ。いやあ、これぞ縁日の醍醐味ですよね、須藤先生!」



「小林先生、ちょっと食べすぎじゃないですか?」



「こういう日にもガマンしちゃダメなんですよ!」



「もー。サイフのヒモもズボンのゴムも緩みっぱなしじゃないですか。また入らないって泣き言を言っても知りませんよ?」



「うっ、それを言われると……」



「まあ、元気がなかった頃よりも見てて楽しいですけどね」



「どういうイミですかあ!?」





「小林先生、須藤先生!」



「わあっ!?」



 声に振り向いた小林先生の顔は、慌てているようだった。



「ま、真島さん、こんばんは。まだ楽しんでもいい時間……ですよね?」



「うん。そうなんですが――」



 真島はあかなめとサトミの特徴を伝え、すれ違わなかったか確認した。



「ごめんなさい、見てないです。須藤先生は?」



「ないですね。そんな暑そうなカッコしてるヤツなら、目ェ引くハズだし」



「そっかあ。あざした」



「あっ、待ってください!」



 もしかして、ここまで来ていないのかもしれない。そう思い、踵を返し戻ろうとすると、小林先生が呼び止めた。



「その……、チョコバナナ、どうぞ。あっ、まだ口つけてないですよ?」



 小林先生がもう片方の手に持った、串刺しのチョコバナナを差し出す。



「げっ! アユの塩焼きとチョコバナナって……合うの?」



「食は探求心が大事ですからねっ」



「でも太るのが心配になったから、真島にあげると」



「もう、須藤先生!」



「あはは……。仲いいっすね」



 真島はチョコバナナを受け取り、来た道を引き返そうとすると、今度は須藤先生が声をかけた。



「屋台のうしろっ側は茂みになってるからさ、コソコソするにはうってつけだろうな」



「……ンなコトさせるかあ!」



 コソコソという言葉に、真島は抱いた懸念に突き動かされる。



「須藤先生、ずいぶん具体的なアドバイスですね。経験でも?」



「ふふん、若気の至りってヤツですよ」



「楽しかったようですね」



「今となってはいい思い出ですが……、このときだけは教え子の心配をしましょうか。得体の知れないヤツと絡まれちゃ、なにされるかわかったモンじゃない」



「ええ、そうですね」



 先生ふたりも、あかなめとサトミを探し始めた頃、真島は人目をはばからず、辺りを血眼になって見回す。が、集中できない。



「うおおッ、チョコバナナに虫が! 早く食べればよかった!」



 ふと手元に視線をやると、コーティングされていたチョコが溶け始め、バナナの周りを虫がたかっていた。振り払っていると、屋台の奥の茂みから声がする。



「真島悠吾さーん!」



 よくよく見ると、こちらに手を振っている浴衣の女の子が葉と葉の間から見える。サトミちゃんだ。



「あっ! 見つけた!」



 屋台と屋台の間をくぐり、茂みに飛び込む。顔にかかるクモの巣も飛び回る虫もなんのその、これもサトミちゃんのためならば!



「よくわたくしを見つけられましたね!」



「いや、サトミちゃんこそ、なんでおれを?」



「手を振っていらしたではありませんか」



「いや……キミを見つけられて、うれしかっただけだよ」



 あれはチョコバナナに群がる虫を振り払おうとしていただけで、偶然だったけど、ついカッコつけてみた。よろこんでくれるかもしれないから。



「まあ……。それはそれは、まるで尻尾を振ってよろこぶわんちゃんみたいですね」



「ええ!? 思ってた反応と違う!


「あなたが舌を出してキャンキャン鳴けば、きっと、とってもかわいらしいですよ?」



「ぉほおん……」



 また耳元で囁かれた。ダメだ。この女の子は性別が変わった同級生だ。頭ではわかっているのに、何度も言い聞かせているのに、無様な姿を晒してしまう。カッコつける必要もないハズなのに。



 いや、率先してダメになりたいのかもしれない。こんなかわいらしい女の子に囁かれ、煽られるコトは、砂糖のように甘く、解けやすく、だからこそクセになる。いいじゃあないか、それでも。人の世は大変なんだから。もはやいっそ、なにも考えずにイヌにでもなって美少女に飼われた――



「いやはや……オトコだよ、おまえも!」



「……はッ! おれはなにを考えてたんだ!?」



 皮肉にも、あかなめの大声で正気が戻った。



「真島悠吾さん、口がゆるゆるでしたよ。やっぱり、わんちゃんみたいです」



「あーあー、もう言っちゃダメだぜ。こいつマジでヘキがおかしくなっちゃうから」



「わかりましたわ、お前様!」



 信じられない。サトミちゃんがあかなめに対し、お前様って言っている。おかげで目が醒めた。



「おいバカなんだよお前様ってよ、お前様って! なに呼ばせてんだよこのバカ!」



「いいだろ? 俺様のモンだ」



「そういうのは然るべき手順ってのを取れよこのバカ!」



「必要ねえよ、かったりぃ。なにせ俺様の能力で、最初から好感度マックスにできるんだからな!」



「最低だぞ、そんなの洗脳じゃねえかバカ!」



「羨ましいから怒ってるんだろ?」



「なんだとこのバカ!」



「モテる努力なんてしたくねえよな? せっかく告ったのに断られたくねえよな? 自分は特になんもしなくても、相手から好きになって欲しいモンなあ!?」



「バ、バカにしやがってこのバカ……」



 それを言われると反論が難しい。もともと軽音部に入ろうとしたのも、女の子にモテたかったからだ。ギターの弦をスライドしたときに指を切ったのがキッカケで諦めたけど。



 だからこそ、そんな夢のようなハナシが通ってたまるか。この気持ちは正義感から湧き出るんだ。けっして嫉妬じゃないぞ、けっして。



「それを実行するバカがあるか!」



「持ってるモノを最大限で利用しなきゃもったいないだろ。命ある限りよ」



「とにかく、そんなコトはおれがいる限り許さん!」



「じゃあ禅院の呪継者がダメなら、おまえを代わりにするぜ?」



「お、おれを女の子に!?」



「いや、しない。能力を維持するので手一杯だからな」



「えッ? えッ?」



 つまり、こいつが言ってるのは、おれを男のままで付き合うってコト!?



「お、おれ、男! 男だから!」



「だからなんだよ。性差なんて誤差だろ。大差ねえよ」



「こいつ無敵かッ!?」



「緊張しなくてもいいんだぜ、俺様に委ねなよ。案外、イイかもしれない……ぜ?」



 唐突にあごクイされ、おれに顔を近づけたと思えば、長い舌で舌なめずりしている。これを受け入れたら、なにか大事なモノを失くしそうで恐ろしくなる。



「俺様の名前の由来は『赤』い部分を、または『垢』の溜まる部分を『舐め』るから『あかなめ』ってんだ。その名の如く、おまえの唇に行おうじゃねえか」



「よせよせよせよせ、やめろ……」



「そして次は、徐々に下へ参りますってな……」



 おれから目を逸らさず、持っているチョコバナナを一口で頬張った。なぜかゾッとした。



「やめろォォーーッ!」



 人生で経験したコトのない断末魔の叫びをあげたとき、参道のほうから声がした。



「お前様、真島悠吾さん、この奥で面白そうなコトが始まりそうですよ! いっしょに見に行きましょう!」



 いつの間にかサトミちゃんが茂みから抜け出していた。



「ああ、待てよ、『俺様のかわいい女マイ・スウィート・ハニー』!」



 そしてサトミちゃんの後ろ姿をあかなめが追って行った。おれはひとり取り残された。台風が過ぎ去ったような安堵感が、冷たくなった風とともに胸を包み、貫く。茂みを出て気づいたが、既に夜らしい暗い空になっていた。



 スマホで時刻を確認すると、そろそろ巫女舞が始まる頃だった。



「おれに、なにができるんだろうな」



 みんなのように空妖の友達もいないし、今みたいにすぐビビってしまう。無力感がすごい。が、サトミちゃんは譲れないし、千田を守りたい。おれの友達だから。



「それでもきっと、おれにもなにかできるハズだ……!」



 おれも後を追う。この先になにが待ち受けようとも、決して逃げないぞ!



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