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すくうもの 〜令和怪奇跡〜  作者: ももすけ
第3部 転性編
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夢を叶えるんだ!②



「カーット! みなさんのご協力のおかげでいい撮影になりました。ありがとうございました!」



 サトルがサメと別れたのを確認すると、須藤先生は野次馬に頭を下げ、そそくさと樫見の下に行った。



「これで誤魔化せたかな。あとはSNSとか動画サイトに拡散されなきゃいいんだけど……って、あれ、千田は?」



「あっちに……」



 樫見が指の先に、魅人はいた。サトルとあかなめと、なにか揉めているようだった。



「先生、魅人が!」



 スマホを手にした明璃が、ふたりに駆け寄る。明璃はこのスマホで、映画を撮っているフリをしていた。



「ああ、見てる。千田はあのヘンタイに近づいたのか……?」



 樫見は止められなかった。自分だけサトルと、空妖と交流して変われたからだ。魅人が変わりたいのならそれを止める資格はないと、そう思った。たとえ、それが性別でも。



 須藤先生もそれを察して、なにも言わなかった。



「わたしが止めれば……」



「いや、樫見が責任を感じる必要はないよ。むしろ私たち大人がもっと見てるべきだった」



「みなさん、どうしました?」



 小林先生も傍に来た。小林先生は人形の空妖の姿が視えないので、みんなで事情を説明した。



「――そうでしたか。千田さんは諦められなかったんですね」



「なんであれ、子供を変質者から守るのは大人の役目なのに、これでふたりも……」



「先生も負い目を感じる必要はありませんよ! 誰も悪くありません。だいたいなんなんですか空妖って!」



 突然、真島が口を挟む。



「いるワケがないと思ってたのがいたし、変われないハズのものが変えられる。そんな都合の良いヤツがいるなんて、おれ、まだ夢の中にいるみたいで。……視たでしょう? あのサメ」



「信じがたいけど、現実だもんな。でも、そのおかげでいい方向で変われた子がいるのも現実だよ。なっ、樫見」



「はいっ」



 須藤先生はやさしい声で樫見に同意を促す。樫見は自信を持って返事した。



「真島さん、お気遣いありがとうございます。いい方向へ、といっても、これからは未知の領域です。禅院さんは受け入れているようですが、私たちが千田さんにできるコトは……」



 言いかけたところで小林先生は止めた。それは前にも言ったコトがあったからだ。事件に巻き込まれないよう、みんなで見守る、と。それは口に出さなくても、みんなわかっていた。それしか言えないコトも。



「変わったコトで、せめて千田に後悔が残らないように祈る、ですかね」



 須藤先生の一言で、みんなの視線は魅人へと向く。サトルとあかなめも併せて。







「やった……。これで、ボクも!」



「大丈夫か!?」



「うん!」



 魅人の喜びようとは対照的に、あかなめは怒っているようだった。



「アホかおまえ、どうして自分に満足しねえんだ! そこまでして女に成りたいのか!」



「サトルにやったのと、なにか違うのか?」



 こんなときでも、バクは一歩引いた目線で指摘する。



「大違いだよ、口の空妖よ。あのときのは徐々にオンナにする技だ。いつもそうしている。でも、これは……。禅院にやろうとしたのは」



「したのは?」



「オンナとしての『完成しあげ』だ。性格をもっとお淑やかにしてな」



「マジでコイツ終わってんな……」



「気持ちはわかるがキミ、落ち着け。で、その仕上げをやるとどうなる?」



「見てりゃわかるよ」



 魅人は突然、自分の身体を隠すように膝を曲げて屈んだ。真夏の炎天下とはいえ、不自然に汗を流し、震えている。



「どうした!?」



 サトルもすぐに屈んで身を案じても、魅人は首を横に振る。今できる精いっぱいの平気というジェスチャーだった。



「すぐに『乳房おやま』が『たわわった』だろ。まず体型が変わる。もっとも俺様が危惧してるのはな……」



「おい、魅人を戻せ、苦しそうだ!」



「イヤ。イヤだ……」



 魅人は戻りたくないと、首を振り続ける。



「いずれは自分を見失う。現実的に言えば、ホルモンバランスの乱れってヤツだな。だから性別を変えるときは徐々にやるのに、最初ハナっから最後の工程を当てればこうなる」



「自分を見失う……?」



 あかなめはため息をついた。自らの行いを悔んでいるかのようだ。



「まあ禅院は思ったコトはねえか。異性になりたいなんて」



「知ってて変えたのはどこのどいつだよ」



「ははッ。悪かったよ。だが『呪継者じぶん』の運命を自覚したとき、どう思った? 変わりたいか?」



 サトルにとって難しい質問だった。最初は怖かった。いろいろな人を危険に巻き込んだけれど、今はどうだ。呪いのおかげで死別した友人と再会して、クラスにも馴染めて、はっきり言って楽しい。これが呪いだなんて――



「アタシは……」



「サトル、そいつから目を離すな!」



 考えていて、バクの警告を聞き遅れた。



「おまえに『スキ』あり」



 あかなめに隙を突かれ、ヘソに人差し指を触られると、魅人が受けた光を当てられた。ヘソから指が離れると、サトルは膝から崩れ落ちた。



「最初からこうする予定だったんだよ。これでますます俺様好みの『淑女オンナ』になるぜえ……」



「……ぅう、ふざけないでよ、アタシを、元にもどして、く、だ、さい……」



「んひィーッ! 効いてる効いてる!」



 あかなめのねっとりとした笑顔はすぐ真顔に変わり、青天を仰ぐ。その視線の先には雲ひとつないがしかし、たしかにその存在を感じていた。



三郎アイツが来る。こうしちゃいらんねえ。じゃあな、禅院サトル! 夏祭りに会おうぜ!」



 得物である風を起こす霊剣・雨知草あまちぐさを振るい、あかなめは足に風を絡ませて高く跳び、どこかへ消えた。



「ふたりとも、大丈夫!?」



 明璃が一番に駆け寄り、続いて様子を見ていたオカ研一同がふたりに駆け寄った。



「ケガはないか!?」



 真島の心配の声に、魅人は頷いた。だがサトルは尻をついてうずくまったままだった。



「禅院!?」



 真島はサトルの顔を覗こうとすると、ふたりは目があった。



「――ッッ!!」



 声にならない衝撃が、言葉で表せない感情が真島の身を揺さぶった。



「……真島くん。心配してくれて、ありがとう。アタシは平気だよ」



 かつての面影はなく、美少女として完成していた。ツヤのある長い黒髪、顔立ちは整い、小鳥のさえずるような声。身体に至っては、言うまでもなく魅力的だ。



「あえ、あっ、う、うんっ……」



 真島は緊張でどもる。この人に見つめられて恋をしない男などいるのか。だが知っている。男だ。元は。



――ああ、なんて残酷な世界を知ってしまったのだろう。どれだけ思いを募らせても、男だ。男なんだ。あかなめの能力が解けたとき、現実と思っていた夢は醒める。



「禅院くんの様子がヘンです……」



「実はな、ユウナ――」



 サトルの代わりに、バクが顛末を話した。



「そうか。千田も、禅院もより女らしくなったのか。夏休みが終わる前になんとかしなきゃ、厄介になりそうだ」



「戻れなかったとして、戸籍や親御さんへの理解は……どうしましょうか」



「終わらせるって?」



「そりゃ、あかなめを……」



「殺すコトだ」



 須藤先生が言いかけたとき、暗い雰囲気に包まれる中に現れたのは、三郎天狗だ。砂でできた雲に乗り、真っ直ぐやってきた。



「禅院の呪継者もこの少年も、ヤツの毒牙にかかってしまったか。すまぬ、山火事を消火している間に、こうも暴れていたとはな」



「三郎さん、あかなめをやっつければ能力は解けるんですか?」



 真島の質問に、三郎は頷く。



「もっとも、ヤツが自分から能力を解けば良いのだが、そんな姿勢を見せない限り、どうしても強行策を行使せねばならんだろうな」



「そう、ですよね」



 三郎の答えに、真島はがっかりしたように視線を落とした。



「とにかく、帰りましょう。そろそろ道が混む頃です」



「答えは夏休みが終わるまでに出そう。千田、立てるか?」



 首を横に振る魅人は、両脇を先生に支えられ、海の家に向かう。



「真島くん?」



「……先行ってて。おれもすぐ行くよ」



 明璃と樫見もサトルの両手を引っ張って海の家に戻るも、真島はひとり海を見つめていた。



 そして思う。はっきり言って、この夢は醒めてほしくないと。こんなに恋焦がれたのは初めてだったから。でも、それは本人のためになるかと言ったら、なにも言えなくなる



 愚直で真っ直ぐな心は意味のない言葉の出口を求め、ついに爆発した。



「海のバカヤローーッ!」



 海に叫び、海で過ごした長い一日は終わった。だが夏休みは終わらない。お楽しみはまだたっぷりだ。それは学生にとっても、空妖にとっても――



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