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すくうもの 〜令和怪奇跡〜  作者: ももすけ
第3部 転性編
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海だ!水着だ!サメだ!①

── 神奈川県・茅ヶ崎(ちがさき)




「すげえ人だぜ。波の音すら聞こえないな」



 先生の駆る車の窓から眺めると、近場の海水浴場は多くの人でごった返していた。駐車場も空いていない。



「おやおや、こりゃ停められないな。先に降りて海へ行っていいぞ」



「ありがとうございました、須藤先生」



 サトルと明璃と樫見の3人はそれぞれ荷物を持ってから車を降りて、頭を下げた。



 須藤先生はサトルたちが通ってる学校の養護教諭だ。彼女もまた怪奇現象に巻き込まれ救われたひとりだ。暑い夏でもジャージを着ている。



「しかし、禅院がこんなかわいい女の子になるなんてなあ。ナンパに乗っちゃダメだからな」



「やめてくださいよ、須藤先生。そんな……ねえ?」



「うれしがっちゃってさ。もうすっかり女の子ね」



「むっ、明璃も言われたらうれしいだろ?」



「そりゃ女の子だもん」



「それならオレが男に戻ったらいっぱい言ってやろうかあ? んん~?」



「はいはい、そりゃどーも。すっごい期待してるわ。あー楽しみ」



「……ふたりともムキになってます」



「樫見、こういうのはほっとけ。犬も食わんわ。ほら、みんな来たぞ。はぐれないようにな」



 うしろから来た車から真島と魅人が降りてきた。ふたりは頭を下げると、先生たちは駐車場の空きを探しに行った。



「やってきたぜ湘南ッ! みんな合流したとこで行こうぜ!」



 そう急かす真島は、露骨に鼻の下が伸びている。まだTシャツの姿だが。



「……顔がスケベなんだけど」



「もう、紫城さんはそうやって穿った見方するんだから~ッ!」



「自覚はしてるんだ。もっとタチ悪いな」



 異様なテンションの上がりように、サトルは少し引いた。もしも、男でいたらこんな顔をしていたのかと不安になるくらいには。



「なあ魅人、車の中でもこんなカンジだった?」



 サトルは訊いてみたが、どこか上の空だった。



「魅人?」



「……え? ああ、うん。そうそう、ご覧の通りヘンだよ」



「ほらほら、早く行こうぜ! 去年は受験勉強で行けなかったから張り切るぞ! 張り切るぞ! うおおおおッ!」



 真島は靴をビーチサンダルに履き替え、ひとり海の家へ突っ走っていった。その熱意はどこからくるのか、みんなで呆れながら真島の後をゆっくり着いていった。



「おれはズボンの下に海パン履いてるから、すぐ入れるもんねーっ」



「濡れた海パンを入れる袋とかは?」



 明璃が訊くと、あんのじょう真島はハッとした顔をした。



「……じゃあ、あたしたちは着替えてくるからね」



「はーい、待ってまーす!」



「あ、ボクは海に入らないから……」



「魅人、いいの?」



「うん。なんかね、どうしても恥ずかしくて」



「それじゃあ待ってる間にアイスでも食べてようぜ。おれ買ってくる!」



「ありがとう。悠吾くん」



 調子に乗りやすいが、真島はやさしいヤツだ。横切る真島にサトルは微笑むも、そっぽ向かれてしまった。おとといから、なにか邪険に扱われている気がする。釈然としないまま更衣室に向かう。



「はい、おまたせ」



「うおお、紫城さんイカしてるゥ! なっ、千田!」



「う、うん……」



「ホントはビキニの予定だったんだけどね」



「なにそれみたかった!」



 更衣室の外では賑やかな声が聞こえる。やはり着慣れてないせいか、みんなよりも遅い。



「ど、どうでしょうか。明璃さん」



「ワンピースふうの水着ね。かわいいじゃない!」



「髪も束ねて印象がガラッと変わりました。樫見さん、似合ってるテスト100点満点ですッ!」



「まだまだ。下向いてないで前を見て――そう、これで120点。すごくいいわよ夕七ちゃん」



「あ、ありがとうございます!」



 みんなお披露目しているところで、着替え終わった。念のためヘンなところがないか備え付けの鏡で確認したが、平気そうだ。



「フフ、待ちに待った海デビューだ。サマになってるんじゃないか」



「皮肉か? まあ今は褒め言葉として受け取っておくよ。ほら、小さくなってくれよな」



 サトルは背中を鏡越しに見た。思った通り、バクが歯を引っ込めていても小さくなっていても、素肌の部分に真っ黒のうず巻きが目立つ。それは自分が知っているからかもしれないが。



「しかしまあ、()()()の腰、細くなったなあ。こんなにくびれちゃってさ」



「……えっ? キミ、今なんて?」



 久しぶりにバクの姿を視たが、口をすぼめている。不思議な反応だ。



「なんて? って、どゆコトよ」



「おいおいマジか、キミ無自覚か? ワタシは開いた口が塞がらないぞ」



「それは困るよ。人混みの中なんだぞ、がんばって小さくなっててくれよな」



「いや、まんまの意味じゃなくてな。……うーむ、歯がゆい」



 ギザギザの歯を横に動かしている。その姿は文字通り掻いているようだ。このまま視ているのも面白いが、みんなを待たせているので更衣室を出た。



「いや悪い、思ったよりも手こずっちゃった」



 女子たちの視線が突き刺さる。特に胸に。



「えっ! 禅院くん、スタイル良くてうらやましいです……!」



「ありがとう、樫見さんもすげー似合ってるよ」



「あたしの水着、ピッタリみたいね」



「おかげさんでな」



 真島はきっとデレデレするだろうと思ったが、意外なほど食いついてこない。それどころか目を背けている。



「真島、どした?」



 近づいてみると遠ざかる。顔を寄せると目をつむる。その反応は見たくないようだった。



「や、やめろって。おれに寄るなよ」



「なんか最近、冷たいなあ。なんか不満があったら言ってくれよ。友だちだろ?」



「いや、そういうワケじゃ……!」



「じゃあ、なあに?」



 サトルは真島を見つめて、首を傾げた。真島の視線は、やはり泳いでいる。



「そ、その……恥ずかしいだろ」



 真島の顔が赤くなっている。耳の先まで真っ赤だ。サトルは察した。



「あっ……そうだよな、ごめんごめん。わかるよ。男の子だな、真島は」



「ヘンに同情されると余計恥ずかしいんですけど!」



 みんな笑いあった、ひとりを除いて。真島の隣でうつむいている魅人の表情が晴れない。なにを思っているか、サトルは訊き出せなかった。なにを言っても、この身体では、きっとイヤミにしかならないだろうから。



「おっ、みんな集まってるな」



「みんなお似合いですよ」



 遅れて先生たちも合流した。



「まさか先生たちも!?」真島のテンションが再びあがった。



「子ども等の送迎で終わらせるのはもったいないだろ?」



「いいですね? 学校のみんなにはナイショですよっ」



「海……サイッコー……」



 ここまでうれしがる真島を見るのは、中学生のときに知り合ってから初めての反応ではないか。



「さあ、海だぞッ! 帰りは私たちに任せて、目一杯楽しめ!」



「おーッ!」



 須藤先生の号令とともに真島は波のほうへと走っていった。



 あんなに楽しげだと、思わず着いていきたくなる。照りつける太陽に心を焦がれ、全てが輝いてみえるこの空の下に、はしゃぎたくなる欲求を抑えられない。



「よし、アタシも行くか!」



「えッ!? アタシって!?」



 ビーチサンダルを脱ぎ捨て、サトルは人目を気にせず走り出した。



「おい真島ァ! どっちが先に海につくか競走しようぜ!」



「ちょっ、ブルンブルンなんだけど色々と!」





 衝動に任せてはしゃぎまわる。夏ならば、ましてやそこが海ならば、それが許されるハズだ――



「波の音、落ち着くなあ……」



「夕七ちゃん、ビーチパラソル持ってきたわ」



「ありがとうございます、明璃さん。日焼け止め塗りましょうか?」



「ありがと……って、ごめん。その……ふふっ、くすぐったいっ!」



「あ! あ、ごめんなさい!」





 潮風を浴び、心を伸ばす。そうすれば、日々の耐えがたい暑さは海を楽しむ追い風となるだろう――



「千田さん、どうです海ラーメンは!」



「は、はい。おいしいです……」



「まだ早い時間なのによく食えますね……。感心しますよ」



「須藤先生もぜひ!」



「あー、私は体重がですね。ところで小林先生、最近、その……よく食べるようになりました?」



「そうなんです、人生初の太り気味なんです。でも許されるでしょう! ここは海ですから!」



「あはは……。愉快な人になっちゃってまあ」






 海は夏を特別にしてくれる――



「遠泳しようぜ真島ァ!」



「ちょっと待って、早いわ!」





 しかし、忘れてはならない――



「あの背ビレは……!?」





 ソイツは突然、現れる。そう、なぜならここは――



「サメだ! サメが出たぞーッ!」



「ええーッ!?」



――海なのだからッ!



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