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すくうもの 〜令和怪奇跡〜  作者: ももすけ
第3部 転性編
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海へ行く準備をしなきゃ!②



「ううん……なんか違う」



 スタンドミラーに映る自分に服を重ねながら唸る魅人は、素直に女装を楽しめなくなった。



 理由は明白だった。どれだけ着飾っても、ホンモノの女子には敵わないからだ。あの日、目の前で見た奇跡――あかなめは髪に手櫛するだけで、髪が伸びた。当人のサトルは迷惑がってるが、どんどん女の子になっている。



 それは魅人にとってまさに叶えたい夢だが、ホンモノの女の子にも、自分の夢もかなわない。だからといって、あきらめたくなかった。



「変わりたいから……あのあかなめを追い続けてやる!」



「バウッ」



 傍らにいる狛犬が同調するように吠えた。



「手伝ってくれるの? ありがと、ウンちゃん!」



 魅人は石造りの狛犬の空妖に吽形うんぎょうからとってウンちゃんと名づけた。わかっているコトは鼻が犬のように利くというだけで、能力はまだ不明だ。



「とはいえ……あの一件以来、きっと警戒されてるしなあ。ウンちゃん、あかなめのにおいはする?」



 ウンちゃんは、無言で波のような丸みを帯びた尻尾を下げた。



「だよね……」



 こうも気分が曇ると、なにを着ても楽しめない。パジャマに着替えて横になろうとしたとき、スマホから通知音が聞こえた。ベッドに横たわり気だるげに見てみると、起き上がってジッと画面を見つめた。



「明璃ちゃんからだ。『あさって、いっしょに海にいかない?』って――」



 魅人の記憶が疾駆する。あのとき、あかなめはサトルを海に来いと挑発していたのを思い出した。



「そうだよ、いっしょに行けばあかなに会えるチャンスがある!」



 思わず浮足立つ。魅人はすぐに「行きたい!」と返信した。



 すると間髪入れずに、『朝の8時、学校に集合ね!』というメッセージ。



「やった! ……あ、でも水着ってどうしよう。やっぱり男用だよね。でもなんだか恥ずかしいし、かといって女の子用の水着だってヘンに見られるだろうし……。どうしよう――」








 魅人が悩んでいる同時刻に、サトルたちオカ研メンバーは部室に集まっていた。補習の日ではないので、みんな私服だ。



「どう、誘えた?」



 サトルの問いに明璃は頷いた。



「大人数になって楽しくなってきたなあ。小林先生、みんな乗れますか?」



「もちろんです。須藤先生も誘っているので分散しましょう」



「ところで禅院、もし千田があかなめを探しにいったらどうする?」



 この部室の中で唯一の男子である真島悠吾がサトルに訊く。



「おれはさ、女子になりたいなんて考えたコトないけどさ、きっと悩んでるんだろうな」



「まあ、そうだろうな……」



 性別が変わるのはあまりにも大きな変化だ。夏休み明けで久々に会ってわからなくなるとか、イメチェンなどと比べ物にならないくらいには。そう、『別人』になるのだ。止めたい気持ちはある。しかし――



「オレは、あの変わりたいって思いは否定したくない。勝手だけど」



「そ、それはわたしも同じです……。わたしもみんなや花子さんのおかげで変われたから……」



 樫見夕七は自身の経験から、サトルと同じ立場にあった。



「というか、みんな否定できないんじゃない? みんな怪奇現象になにか救われてるし」



「明璃の言う通りだよな」



 サトルはかつて死別した友と再会し、明璃も飼い猫の幽霊と出会い、小林先生は教え子の幽霊と和解、樫見はサトルと出会ってから怪奇現象に巻き込まれてから不登校を克服した。



 皮肉だが、みんなサトルの呪いから始まった怪奇現象に巻き込まれて変わっている。ゆえに誰も否定できなかった。



「え、そうなの? 救われてるってさ、みんなそんなに悩んでるコトあったの? いろいろとこう、薄いのおれだけ?」



「真島、気にすんなよ」



 サトルは真島に視線を向けると、真島はすぐに目を逸らした。



「思春期ゆえの好奇心かもしれないし、心から望んでいるコトかもしれません。私たちは否定できないので、またあのような事件に巻き込まれないように、千田さんを見守っていきましょう」



「はい!」4人は大きく返事をした。



「もちろん、みんなも気をつけるように。話がまとまったところで、今日は解散です。みなさんもあさってに向けて元気に過ごしましょうね。……ふふっ、今から楽しみです」



 小林先生が手を鳴らすと、みんなは帰路についた。






「さて……水着をお披露目か。今から緊張してきたぞ」



「素直じゃないな、キミ。内心楽しみにしてるクセに」



「う、うるせー!」






 それぞれの思いは――






「サトルと海に行くなんて久々だなー。女の子になってるけど。まあ、何事もなく楽しめればいいな」





 いびつに交錯する――





「やばい。女になった禅院……めっちゃタイプだ」






 空と海、深い青に挟まれた地で――



「みんなと海、楽しみだなあ。禅院くん……あ、でも今は女の子だから……」







 人は己が望みを探す――



「みんなは友だちと行くのが楽しみなハズ。ボクは……、ボクが行く理由はなに?」







 しかし、深く考える必要はない――



「小さな海の家で~♪ ラーメン食べて~♪ ああそうだ、今のうちに授業の計画組まなきゃですね。もしものために、緊急連絡先も確認しないと」





 高揚感に身を任せればいい――



「禅院の呪継者よ。お前さんの『豊満たわわ』な『身体ボディ』を見せてくれ。どこの海へ来ても見つけ出してやるからよお!」




 なぜならば、ここは――




「ついに来たんだな……!」




――海なのだからッ!



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