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すくうもの 〜令和怪奇跡〜  作者: ももすけ
第3部 転性編
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着たい服はある?②



 女として生きるコトを考え始めたサトルの前に現れた、不審者の空妖。会いたくはない存在だ。しかしサトルは思う。



(倒せば……きっと元通りに)



 言いたいコトは山ほどある。それも不審者の空妖が命ある限り、存在するまでは。



「おまえッ、オレの身体を戻せ!」



「ダメだろ、女の子がおまえなんて汚い言葉を言っちゃなあ〜ッ!」



 まずは口で交渉するも、速攻で断られた。次の考えは、別の口――バクに武器を取ってもらう。しかし、そんな考えが見透かされたように、不審者はニヤニヤと口元を歪めている。



「その扇状的な眼差し……。わかるぜ、呪継者。俺様を殺せば全部解決って思ってるだろ」



「それ以外、考えちゃいないぞ!」



「ンッフフフ、正直者かよ!」



 不審者は笑いながらポージングをしている。それを睨むサトルを見て、魅人は怪訝な目を向けた。



「サトルくん……? マネキンと話してるの? 明璃ちゃん呼んでこようか?」



「平気だ!」



「あっ……お医者さん?」



「頭の心配もいらんわ!」



 魅人には不審者の空妖の姿は見えていなかった。それもそのハズ、空妖は2種類いる。



 ひとつは人形ひとがたの空妖、人の姿をした空妖だ。もうひとつは異形いぎょうの空妖、つまり人以外の形を持つ空妖である。



 人形の空妖は俗に言う霊感が濃くないと視えないが、異形の空妖は誰にでも視え、触れるコトもできるのだ。



「気にしないでくれ、オレの目の前のヤツに話してるから」



「目の前ってマネキンしかないのに!?」



「コイツ、サイドチェストのポーズしてやがるッ! ちょけやがって!」



「どこが!?」



 サトルは見たくもない光景をつらつらと言っているだけだが、魅人は戸惑うばかりだった。



「そこのお友達にも知らせてやろうか、俺様の存在……」



 不審者の空妖はマネキンにポーズを取らせると、魅人は大きな声を上げた。



「ひとりでに動いてるッ!? あ、あれ……?」



「どうした?」



「なんだか、黒いもやみたいのが視えるんだけど……」



「蒙が啓けたようだなァ。少しは霊感があるみてェだぜ?」



「魅人まで巻き込むな!」



「いやァ……願ってるかもしれねえだろ、変わるコトを」



 不審者はサイドチェストのポーズをやめ、手をズボンのポケットに入れた。



「女の子みてェなカッコしてるがよォ、れっきとした男だろ? 肩幅と手を見りゃわかる」



「……なにが言いたいんだ」



「ンッフフフ。俺様はな、ただ願いを叶えてるだけなんだなァ」



「誰が女子に変えろと言ったッ!?」



 サトルはバクの口から、包帯の巻かれた板を取り出す。その光景を魅人はしっかりと見ていた。



「ひっ、ああ、サトルくんの背中に口がある!?」



 サトルは左目に走る傷跡と眼を赤く光らせ、得物を不審者の首元に止める。



「知ってるか? 霊剣・鏡花旅楽きょうかたびら。これで斬れば、おまえのクセェ口を見なくて済む」



「これがかるまにつけられた呪痕か。相変わらずの輝きだ……。俺様、ウットリ」



「もう一度言う、オレを元に戻せ。さもなきゃ斬る」



「たしかに。そりゃあ俺様を殺せば元に戻るよ、チカラがなくなるんだからなァ」



 呪痕を発現させ、冷静に研ぎ澄まされた頭で考えて、やっと言いたいコトがわかった。



「そうか……。今まで何人変えた?」



「両手両足の指じゃ足んねえよ。その中には、変わったカラダで子供をこさえたヤツもいる。もし母ちゃんが母ちゃんじゃなくなったら、どうなるかは想像がつくだろう?」



「ほざくなおまえッ! 勝手に撒いた厄介のタネだろうがッ!」



「勝手だあ? 言ったろ、ただニンゲンの望みを叶えただけだッ!」



 不審者のドブのような瞳に、強い意志が宿る。間違いなく年季の入った迫力に、気圧されそうだ。



運命じぶんを変えられるのなら、誰だって変えたいだろうよ。無駄に長く生きたおかげで、ニンゲンにはいろんなヤツがいるコトも知れたからよくわかる。それを愚かだなんて思わねェさ」



 親指と人差し指で丸を作る姿に、ふざけた雰囲気は一切ない。



「考えてみろ、この社会の中心であるカネで性別が買えるか? 変えられるか?」



 当然、変えられない。それはわかっている。サトルは無意識に魅人を見て、目が合うとすぐに不審者のほうに向けた。



(……魅人はなぜ女装しているんだろう。聞けないけれど)



 趣味なのか、それとももっと切実な願いからなのか。いずれにせよ、否定できない。サトルは鏡花旅楽を下げた。



「期待通りのムーブ、感謝するぜ……。いまさらだが自己紹介させてもらおうか。俺様は『あかなめ』。能力は生物の性転換をさせるだけだ。男は女に、女は男に……ただそれだけ」



 不審者はあかなめと名乗った。あかなめのチカラは思った通りだったが、サトルには引っかかるモノがあった。



「なんで突風と閃光を操れる?」



「教えてやんねー! 女らしく振る舞ってろ、俺様のために!」



 あかなめの瞳は、再び腐ったドブのようになった。



「なんでおまえなんかに!」



「おまえさんが禅院のニンゲンで呪継者だからだ、見逃す手はねぇだろ! だから自分のために『通り魔的性転換(ちょうしこか)』させてもらったってワケ!」



「オレを……どうしたいんだよ」



「俺様のオンナにする。それだけだ」



「ゼッタイになるか!」



「なるんだなァ、それが!」



「この問題はおまえがオレを元に戻せば済むだろ! やれよッ、戻せッ!」



「だーかーらーさァ。俺様は自分のために能力を使ってるんだよ。……にしてもその赤い傷跡と瞳、色褪せねェな。小汚い宝石みたいで、なんて美しい」



 褒めているのかわからない例えを使って、あかなめは長い舌をレロレロと波打つように動かす。



「おまえさんが女の子だったら、マジで俺様の好みってワケ」



「そんな理由で……!」



「理由なんざそれで充分だろ、俺様のチカラだぜ。縛る法もないんだからなッ。ああそうさ、空妖こそ真の自由を手にした存在なんだァ!」



「……自由には責任が伴うぞ」



「難しいコト言うねェ。俺様は生き抜くコトが責務さ。わかるだろ?」



 怒りはあるが、そのままそれをぶつければ、あかなめの手によって性別を変えた人々が元に戻ってしまう。その規模はわからないしハッタリかもしれないが、本当ならば社会は混乱するだろう。



 変われるのなら変えたい人は多くいるハズだから、あかなめのチカラは『奇跡』といっても過言ではない。故に悪質の一言では済ませないし、断罪もできない。



(……だけど、オレは望んじゃいない)



 憤懣やるかたない思いといっしょに、鏡花旅楽をバクの中にしまった。



「禅院のニンゲンはいいヤツだよなァ。せっかく夏休みなんだし、楽しんでくれよ……徐々に女の子になる過程をなァ。それじゃあ、また会おうぜ」



 あかなめが横切り、通り過ぎても、サトルは動かなかった。しかしタダで帰すつもりもない。



「バク」



「フフ、よしきた」



 小声でそれだけつぶやくと、バクはすぐに察して、あかなめの頭にツバを飛ばした。



「――クッサァ〜〜ッッ!?」



 小さくなったシルエットが叫ぶ。サトルはいい気味だ、という気持ちで鼻で笑った。



「サトル、大丈夫?」



 近づくとかえって迷惑だろうと、あえて遠ざかっていた明璃が駆け寄ってきた。



「うん、平気だ」



「よかった。あのカンジだと、一泡吹かせたみたいね」



「臭いニオイでマーキングしといた。アイツが近づいたら、すぐわかるようにな」



「ワタシがな」



「はいはい。バクちゃんがやったのね。えらいえらい」



 ふたりしかわからない会話に、サトルの様子を黙って見ていた魅人は困惑を隠せなかった。



「ねえ……どういうコトなの?」



 サトルと明璃は目を合わせ、頷く。洗いざらい話そうという意見の一致だ。



「実は――」



 サトルは今までの出来事を、魅人にかいつまんで話した。



「サトルくんは呪いで幽霊とか妖怪が視えるようになって、明璃ちゃんは悪霊に取り憑かれて視えるようになったの!? ワケわかんないよ!」



「そういうコト」



「じゃあ、校祭のカッパとか水がいろんな動物の形になるのも、あれ本物の怪奇現象だったの!?」



「まあ、そういうコト。見ててくれたんだ、あれスゴかっただろー?」



 魅人は頷くと、下を向いたままピタリと止まった。



「……それで、女の子になってるっていうのも、ホントなの?」



 間が重く感じた。なにか空気が変わったようにも思えた。



「そう、だな。だから誰にも言わないでほしいな」



「そうなんだ」



 うつむいたまま魅人は言う。空気が重くなったのを察して、明璃が手を叩いた。



「あの不審者にも逃げられちゃったし、今は女の子を全うするしかないんじゃないの? サトル」



「……やっぱりそうなるか。頼みづらいんだけどさ、教えてくれない? 服のコトとか」



 魅人に言うと、すぐに目を光らせて顔を上げた。



「任せてよ! スレンダーなんだし、似合う服、いっぱいあると思うよ! きっと好きになれるから!」



 あかなめは説得に応じる気がないのだから、社会を混乱させずに異性化をどう解くか、思い悩む。とにかく、夏休みが終わるまでには戻らなければならない。



(知らないヤツに好きにされてる自分なんかを、好きになれるのか……?)



 今はただ、なるようにしかならないのだけれど。



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