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すくうもの 〜令和怪奇跡〜  作者: ももすけ
第3部 転性編
51/133

着たい服はある?①



「――で、オレは女になったってワケ」



 そう言うサトルに、向かいに座る紫城明璃しじょうあかりは目頭を抑え、ため息をついた。



「それ昨日のハナシなんでしょ。ホンッットにさあ……、退屈しなさそうな人生ね」



「し、信じてくれるんだな!?」



「信じるもなにもね。なんでもアリなんだもん、サトルの周り」



「そ、そっかそっか。よかった……。聞いてもらえるだけでありがたいよ、マジに」



 明璃はサトルの幼馴染。誰にも言えないが抱えたままだと身が張り裂けそう、という事柄を相談するには欠かせない存在だ。



 身体の異変に戸惑い、心が追いつかず、日常生活すらロクに送れない懸念があったので、急きょカフェ『りぃ〜っすコーヒー』に呼び出したのだ。



「それで、その空妖の足取りとかってわかるの?」



 明璃もある事件をキッカケに、幽霊や空妖などの存在を認知できるようになった。



「いや、全然」



 緊張が和らいだサトルはあっけらかんと答え、アイスコーヒーをすする。紙ストローが刺さっていたが、無視した。



「見つからなきゃ、女子として生きるしかないってコトね」



「それは困るって!」



「徐々に慣れていかなきゃね」



 サトルとは対照的に、明璃はストローでアイスコーヒーを飲む。



「サトルにクイズ。なんでコレで飲んだかわかる?」



「わかんない。紙ストローって飲みづらいじゃん。よく使うなーって思った」



「答えはね。口つけて飲むと、口紅がグラスに付いちゃうのがイヤだからでした〜」



「そんなの想像すらできないって……」



 サトルは通りかかった店員に、コーヒーの追加をしてから、ふと気づいた。



「というか、付けてたの? 口紅」



「気づかなかったの? じゃあネイルも気づいてないワケだ。ほら」



 明璃は両手の指を揃え、サトルに見せつける。



「ホントだ。ツヤツヤしてて水色がかってる。気づかなかったな」



「次にサトルは……『見えづらいのに、なんで塗ってるの?』という!」



「見えづらいのに、なんで塗ってるの……はッ!」



「まっ、女の子として板につけばわかるんじゃないかなあ」



「それは困るんだってば〜ッ」



 丸いテーブルにアイスコーヒーが置かれると、サトルは店員に頭を下げた。



「にしてもさ、あんまりこう言っちゃアレだけど、全然変わったカンジしないわね。ちょっと細くなったくらい」



「いや、マジに困るんだって。トイレとか風呂のときとかさ、目のやり場に困って……。おかしいだろ? 自分の身体なのにさ」



「あー……その、ヘンな気起こさないようにね」



「どこにいったんだよ、オレのモノは……。ヤバいよ、マジに」



 アイスコーヒーの入った薄いガラスのグラスは、汗をかいたように結露する。



「その空妖さ、なにが目的だったのかしらね。ほぼ元の姿のままなのに、あの……ほら、ソレ」



「あー、うんうん。アレだけ失くしてな」



 サトルはすぐさま察して、縦に複数回頷く。



「ワケわかんねえよな。しかもご先祖のコトも知ってるふうだったし、オレをどうするつもりなんだろう」



「もしかしたら、少しずつ女の子の身体になっていくのかも……ね」



「おいおい、そんなコトが……」



 サトルは付属してきたコーヒーミルクを、円を描くようにアイスコーヒーに混ぜた。白とも黒とも取れない色に変わるなんの変哲もない光景を、ジッと見つめる。



「もしそうなら、オレは誰になっちまうんだろうな」



 サトルはアイスコーヒーを紙ストローで撹拌させ、そのまま吸ってみた。が、ついストローを噛んでしまい、すぐに使えなくなった。



「男にも女とも取れない存在になったら、オレは誰になる?」



「珍しく弱気ね。残念だけど、サトルの気持ちは全然理解できないけど……」



 あらかじめ頼んでいたパンケーキがテーブルの真ん中に置かれた。明璃はフォークで細かく分け、それを刺し、サトルに差し出した。



「そうなっても、サトルはサトルだから。あたしは今まで通り扱うわよ」



「明璃……」



「まっ、分けて考えるのも面倒だしね」



「いや本音!」



「ほら、早くあーんして食べて。甘いの食べれば、ちょっと落ち着くかもよ」



「その……恥ずかしいだろ」



「女の子同士じゃふつうよ?」



「明璃さ、今まで通り扱うって言わなかった?」



「これからが今でしょ?」



 サトルは困ったような笑みを浮かべ、差し出されたパンケーキを食べる。



「どう?」



「……甘くて、ンマい」



「よかった」



 明璃はフォークをくるくる回して微笑んだ。その顔を見て、サトルはうつむく。



「……やっぱり恥ずかしい!」



 顔が熱くなり、ベージュ色になったアイスコーヒーを一気に飲み干した。



「冷えるわよ、お腹」



「もう、そうやって女子扱いする!」



「違かった?」



 サトルはなにも言えず、悔し紛れにグラスの氷をひとつガリガリと食べる。しかし好き放題言われても、気も紛れたのは確かだ。



「あーあ、言ったそばから。まあ、これ食べたら外出ようよ。女の子らしさってのをレクチャーしてあげる」



 パンケーキをふたりで分け合って食べ、会計を済ませ、炎天下へと出る。



「あ゛つ゛い゛!゛」



「そりゃ学ラン着てればねえ」



 涼しかった店内と比べて、まさに天国から地獄へと落ちた気分だ。ふたりはすぐ最寄りのデパートに避難した。



「ちょうどいいわ。サトルのために、かわいい服を見繕ってあげる!」



「いや、オレの見た目でえ……?」



「もしもらしくなっていって、女の子期間が長引いたらどうするの」



「夏休み過ぎても行けねえよ、学校」



「そうなっても前向きに女の子らしく、ねっ!」



「だからあ、それより元に戻る方法を探さなくっちゃいけないって〜ッ!」



 サトルはウキウキ気分の明璃に腕を引っ張られ、あっという間に1階、2階を回る。色々な服を見たが、どれも似合いそうもなくピンとこなかった。



 3階のエスカレーターを登ったところで、明璃は「あっ!」と声を上げ、店前の長イスに座っている人に手を挙げた。



「知り合い?」



「あたしと同じクラスのね。ミト、偶然!」



「夏休み前ぶりなのに久々なカンジするね。明璃ちゃんもこの新店のリサーチ?」



「そうだったんだ、初耳。どう?」



「良さげだよ。かわいい服、いっぱいあったよ」



「ミトが言うなら間違いないわね。見ていく? サトル」



 明璃はそう言って、チラリとサトルのほうを見た。その視線に、ミトと呼ばれた女子も釣られる。



「こんにちは、禅院サトルくん」



「こ、こんにちは」



 明璃は意味ありげにニヤニヤしながら、サトルを見ていた。



「ミトはね、あたしと同じクラスの男子よ」



「あ、そうなんだ。……ん? 男子って? 誰が?」



「ボクでーすっ」



「……なんて!?」



「ちなみに、校祭であたしといっしょに給仕係やってたの。男って気づいた?」



「うせやん!?」



 魅人の見た目とはいうと、半袖のTシャツにデニムスカート。足はスポーツサンダル。それがよく似合ったショートヘアの女子、といった具合だ。



「改めて、ボクは千田魅人。よろしくね、サトルくん!」



「お、おう……」



「ところで! 明璃ちゃんの言い振りだと、サトルくんも興味あったりするの? 女装!」



 魅人は大きな瞳を輝かせ、上目遣いでサトルを見つめる。言われてみれば、女子よりは肩幅と手は大きめだし、声も少し低いような気もする。それでもサトルは信じられなかった。



「あっ……、ご、ごめん。やっぱり気持ち悪い、かな。ヘンだよね……」



「いや、まだ信じられないだけで……。ホントに男子? ちょっとトキメキかけた」



「魅人、予防線貼らなくて大丈夫よ。サトルが言ったコト、ホントだから」



「いや、明璃が改めて言うコトないだろ!?」



「あはは……ありがとう」



「それに、女装に興味があるっていうのもね」



「えッ!? ホント!?」



「まあ、しなきゃいけない段階にきてるっていうか……」



「えっ……、どういうコト? ま、まあまずは軽い気持ちでね!」



 サトルは魅人に背中を押され、店内に入った。立ち並ぶラック、馴染みのないヒラヒラした服、どれも同じように見える。



「ううん。やっぱりわからない、なにもかも!」



「好みの服がなければ、よければボクが見繕うよ?」



「た、頼む!」



「ああ……これなんか似合いそうじゃねェかな」



「待てよ……なんだこの野太い声」


 

 一回聞いたら忘れようのない声、そして思い出せる発言。サトルの背筋に悪寒が走りながらも、声のほうへと向かった。そして、ソイツはいた。



「昨日振りだなァ〜。禅院サトル」



「お、おまえはッ!?」



 マネキンの前で同じポーズをした、不審者の空妖が。出会いたくないと思いながらも、サトルは同時に思う。



(アイツの首を落とせば、異性化のチカラは解けるんじゃないか?)



 呪継者は、そう考える。湧いてきた闘志を燃やして。



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